苦しむ一兆円ファンド 「ノムラ日本株戦略ファンド」の分析 

  出所:2001年7月24日 日経金融新聞


かつて「一兆円ファンド」といわれた国内最大規模の株式投資信託「ノムラ日本株戦略ファンド」
の運用が厳しさを増している。基準価格は六千円を割り、設定から一年半で四割強も落ち込んだ。
強気に組入れた情報技術(IT)株が急落し、いまも傷口を広げている。運用する野村アセット
マネジメントは全社を挙げて運用体制を立て直しているが、道は平坦ではない。
 
「バリュー」苦戦
戦略ファンドが設定された昨年二月から株式市場は何度か大きな下げに見舞われた。その度
に戦略ファンドの成績は市場平均に対する負け方を深めている。
外国人投資家の大量売りでソフトバンクなどが急落した昨年五−六月。米国株安をきっかけに
IT株が一段安となった今年二月。成績の悪化が市場平均に比べて際立った。そして日経
平均株価がバブル後安値を更新した現在。戦略株ファンドは三度試練の時を迎えている。
五月末から先週末まで基準価格は一割強下落し、設定来の成績はベンチマークである東証
株価指数をほぼ10%下回った。要因を分解すると、戦略株ファンドの課題が浮き上がる。戦略
株ファンドは規模とともに独特の運用手法が話題となった。投資対象の異なる三つのファンド
で構成し「大中型割安(バリュー)株」「大中型成長(グロース)株」「小型株」のファンドを専任
のベテラン運用者が担当する。専門性を発揮し、相乗効果を図るためだ。
設定以来の運用成績をみてみよう。最も苦戦しているのがバリューだ。公表されていないが、
三つのファンドそれぞれのベンチマークの比較ではグロースや小型株が3-4%下回っているのに
対しバリューは5%を超えたとみられる。ここ一年の株式市場は総じて割安株底上げ局面だったが、
日本戦略株ファンドはそこで読み違えたことが成績不振につながった。
 
複雑な運用構造
戦略株ファンドは年初から値下がりしたIT株を押目買いの対象にしてきた。例えば住友電気
工業。運用責任者の清水孝則・常務執行役員によると、足元のバリューファンド低迷の主因
の一つだ。昨年の十二月に二千円台だった株価が急落した年初に買い増しに動き、二月末
には総資産の1.9%に高めた。平均買い単価は千五百―二千円とみられるが、七月十九日には
株価は千二百円を割っている。住友電は昨年、WDM(光波長分割多重伝送)の成長期待で
高騰したIT株。株価下落で収益面から割安感が浮上したと判断したのが買い増しの理由という。
実はIT株はこの時期、多くの運用担当者を惑わせている。急速な値下がりに比べ、収益は
まだ高水準だったので、株価収益率(PER)などの投資尺度では割安感が強まったからだ。
ところが米国のハイテク不振など業績悪化が現実の姿を見せ始めたことで、改めてIT株は
実態悪をおり込みつつあるのが現状だ。
戦略株ファンドの複雑な運用構造が影響したフシもある。一―二月に運用チームはある作業を
した。採算管理を徹底するため三ファンドの組入れ銘柄を社内で分別管理しているが、グロース
ファンドに組入れた日立製作所や富士通をバリューファンドに移し替えたのだ。
これは「売り」(グロース)、「買い」(バリュー)と言う反対の投資判断を同一ファンド内でした
ことを意味する。移管時は市場価格で売買したとみなすので個々のファンドの損益は確定する
が、戦略株ファンド全体でみれば当初の買いコストで持ち続ける結果になる。三人の運用担当
者はそれぞれ読みを働かせたとしても、それが合成されたことで全体としてIT株依存度の高
止まりにつながったといえる。
IT産業の将来性にかけた運用チームも景気回復の遅れを見越し、修正に動き出している。
市場平均よりかなり厚めに持っていた電機や精密株を大幅に圧縮しており、住友電なども
減らした模様だ。
 
「運用体制修正へ」
意地悪な言い方をすれば、戦略株ファンドは損切りの積み重ねだ。設定当初も一兆円もの
資金をIT株を中心に百五十銘柄に集中させ、短期間で売却を迫られた。設定から昨年九月
までの七ヶ月で平均十二万円強で買ったソフトバンクを五万円以下(株式分割を勘案)で売って
おり、今回もIT株急落の局面で処分を迫られている。
問題は損切りした資金の振り向け先だ。これまではIT株にとらわれ、損失分を穴埋めできぬ
まま傷口を広げてきた。野村アセットも手をこまぬいているわけではなく、調査と運用部門を
統合し銘柄選定のプロセスを見直した。運用チームと増員した社内アナリストの専用会議も
開き、投資判断の共有化を目指す。投資銘柄も六月末で二百四十二に増やし、輸送株や一部
小型株の発掘などの成功例も出てきたという。
ほぼ一貫して運用成績が悪化してきた戦略株ファンド。巨額のマネーが年1.9%の信託報酬を
支払いながら塩漬けになっている。戦略株ファンドの再建策の行方は野村アセットの評価のみ
ならず、投信そのものに対する投資家の見方をも左右しかねない。