葬儀代の請求

 私の会社は、東京都葬祭業協同組合(略して 東葬協)に所属しております。それは区ごとに支部が分かれていて、うちは大田支部に属しています。
ほぼ月に一回、「常会」と称して支部員が集まり、本部からの連絡事項(各契約葬儀についてなど)を伝えたり、情報交換を行っています。たまに会合が終わってから、懇親会を行います。
 ある時、その懇親会の中で私と若手の葬儀社何人かで、支払いの遅れている顧客様からの請求方法について話をしていました。内容証明を作って送る方法とか、分割支払い方法とか、様々な案でまじめに話していました。その時、前の方の席からちょっとお酒のはいった老舗の葬儀社(うちも老舗です)の社長が、話しかけてきました。
「よう、メイシン(支部ではそう呼ばれています)。葬儀代の支払いが遅れているって人は、たぶんそうとうな事情があるもんなんだから、情をもって接しなきゃだめだぞ!」
「はい、うちも地元密着の葬儀屋ですから、いつも心がけています。」
「だったら、そんな催促の方法をかんがえるより、大きな気持ちで多少待つぐらいのことをしなきゃいけねぞ。今の若い人はすぐにキチンとならなきゃ気が済まない。商売はそんなにすべてキチンとならねぇもんなんだ。たまには損をしたりするが、それが後々得になったりも、するもんなんだ。」
「わかりますけど…」と私は少し口ごもりました。
すると「もう、30年前ぐらいになるけどな… 」と社長は、話はじめました。

 その社長の親しい友人からある方の葬儀を頼まれました。ただ、その友人からは「その家の奥さんがなくなられたんだが、とにかくお金がないのでお願いします。」といわれていました。
 早速、自宅にうかがうと六畳一間のアパートで、そこにご主人と小学生の息子さん達二人の三人が、故人を前にうつむいていました。皆、粗末な格好をして、見るからに生活に困っていそうです。
 そこで社長は「○○さんからいろいろと聞いております。無理に葬儀をすることないんですよ。先に荼毘にふしてあげて、それからお寺で供養してあげたらいかがですか。それでも十分供養になりますよ。またそれが一番ご負担が少ないですよ。」とその主人にいいました。
しかし、そのご主人は
「いや、そんなことはできない。私が体を壊して、妻には散々苦労をかけてしまった。だから、立派じゃなくても、葬儀だけはちゃんとしてあげたいんだ。」と涙ながらにいわれました。
社長はご主人の気持ちを大事にしたいと思い、特別に勉強した、葬儀の見積もりをしました。
 見積り後、その総額をご主人に提示して何度も確認しましたが、ただ主人は「大丈夫です。それでお願いします。」というばかりでした。

 その当時は、どんな方でも自宅で葬儀をする時代でした。当然そのご自宅で葬儀をすることになりました。しかし、六畳一間に祭壇を飾って葬儀を行うのはやはり大変です。社長は苦労しながら葬儀の設営をしました。
 社長が設営をしている時です。そのお通夜にだす料理の材料を近くの八百屋さんが運んできました。(その当時は、近所の人達が手分けをして料理などを作ってくれた。)

「すいません。八百屋ですが、ご注文の品をお持ちしました。」
「ご苦労様です。ちょっとここの主人がいないから、そこに置いていってください。」と社長。
「いやぁ、それは困ります。お代と引き換えじゃないと…。」
「すいません。私は葬儀屋なんですよ。今、喪主は葬儀の手伝いのお願いとかで外に出てるんだ。後で言っておくから置いてってくださいよ。」
「じゃぁ。このお品も引き取って参ります…。」
「ちょっと待ってくれ。もう手伝いの人も来ちゃうからそれも困る。しょうがない。私が立て替えておきます。」
「すいません。私もそうするように店の主人から言われているもんで…。」
社長は仕方なく、その代金を立て替えました。
 そうこうしていると、今度は酒屋さんが来ました。やはり同じようなことを言われたので、また社長が立て替えました。そしてお米屋さんも来ました。それも社長が立て替えました。そのことを帰ってきた主人に話しました。すると「葬儀屋さん、本当に申し訳ない。その代金は葬儀代と一緒に支払うから、少しの間立て替えておいてください。」と言いました。それには社長もとても不安になりました。

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