足のしびれ
最近は葬儀も式場で行うことが多くなりましたが、少し前までは自宅で葬儀を行うのが一般的でした。
自宅の葬儀では、祭壇の前に座るお身内は当然、正座で座られます。しかし、正座に強い方と弱い方といらっしゃいます。葬儀の時間は一時間、その一時間の正座に耐えられる方はなかなかいらっしゃらないんじゃないでしょうか。私なんか、全然だめです。せいぜいもっても15分ぐらいです。そのころは葬儀の度にお寺様はすごいなと感心していました。
もうずいぶん前の話です。
御葬家に知的障害を持ったお子さんがいらっしゃいました。その御葬家では御主人がまだ五十代の若さで亡くなられ、残された奥さんは非常に悲しみ、見ていて痛々しいほどでした。これから、そのお子さんと二人で生活していくことの不安が、大きかったのでしょう。
告別式開式前のことです。そのお子さんと奥さんがとてももめていました。葬儀に人がたくさん来て、興奮してしまったのか、そのお子さんがだだをこねて、奥さんから離れません。
そしてついに、それまでの様々なストレスを吐き出すかのように、奥さんは、棺にむかい、すがりついて大きな声で叫びました。
「お父さん! どうして、こんな子を置いていくの!私だけじゃ、もう、どうしようもないわ。私も死にたい!」
式場の中にいた親族は皆、涙を流し、この奥さんを慰める方法が見つからず、下を向いていました。
しかし、もう開式の時間です。そして、お寺様は何事もなかったかのように、祭壇の前にこられました。
すると、その老僧侶はやさしく、奥さんの肩を抱いて、自分の横に座らせ、奥さんにこういわれました。
「お母さん。この子は大変やさしい子ですよ。昨日、お通夜の読経が終わったあと。私が着替えてる部屋に来て、「お坊さん。ずっと座ってて、足しびれてなーい? 僕、マッサージしてあげるよ。」といってマッサージしてくれたんですよ。「上手だね。」って私が言ったら、「お母さんが、こうすると直るって教えてくれたんだ。」っていってね。ニコニコ笑っていましたよ。お母さん、良い子に育てましたね。なんにも心配することないじゃないですか。それに、お母さんは決して一人じゃないですよ。こんなに親戚だっているじゃないですか。それに、近所にはこんな暇な坊主だっているんです。いつだって来なさい。」
「葬儀屋さん。少し遅れてすいません。はじめましょう。」
私は、開式の言葉がなかなかいえませんでした。
金子直裕
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