悪い葬儀屋

大きい病院では、だいたい霊安室に出入りの葬儀屋さんがいます。もちろんその葬儀屋さんは葬儀の営業もしますが、病院から委託されているという形で、霊安室の管理(病棟への連絡や、火の元の始末など)をしています。私たちが病院に故人をお迎えに行く時は、まずその葬儀屋さんの指示にしたがって行動します。看護婦さんたちが死後の処置をしているときや、お身内がまだ悲しみで落ち着かれない時に病棟にいって、待っていては、他の患者さんやお身内に不快感を与えてしまいます。ですから病棟にお迎えにあがるタイミングなどをその葬儀屋さんに聞くのです。親切なところでは、一緒に病棟にいって手伝ってくれたりします。

 あるとき夜中に、ある病院へお迎えにいったときのことです。そこにはやはり出入りの葬儀屋さんがいて、だいぶ年配かたでしたが、親切な方で一緒に病棟までいって手伝ってくれるとの事でした。準備が整い、その葬儀屋さんと二人で霊安室から病棟までの廊下を歩いている途中、前から寝巻きを着たおばあさんが歩いてきました。確か、おばあさんが歩いていく方向には、もう霊安室しかないはずです。わたしは少し不思議に思いましたが、おばあさんはそのまま私たちの横を通り過ぎました。
そのとき、隣の葬儀屋さんが、
「金子さん。いま振り返っちゃだめですよ。あのおばあさん、一年前にここで亡くなって、うちで葬儀施行した人なんですよ。身寄りがなく、かわいそうな人でね。確か一人息子さんがいたんですけど、ゆくえがわからないらしくて…。最近、ああやって息子さんが霊安室に迎えに来てないか、確かめに来るんですよ。だいたいこの時間にね…。」と言うのです。
私は背筋がぞっとして、カタカタ震えていると。
「金子さんも、若いな。そんなんじゃ、葬儀屋なんてできないぞ。婦長さんですよ。看護婦さんの仮眠室がそこにあったじゃない。まったく金子さんて、おもしれーな、はははっ。」

まったく、悪い葬儀屋です。

金子直裕

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