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パワフル・フェミニズム
( 19980920 )

Japanese/English

まったく期待せずに観はじめたのに、むちゃくちゃおもしろい映画というのがたまにある。NHK教育「アジア映画劇場」で9月20日に放送された韓国映画『灼熱の屋上』(1995年 110分)もそんな一本だ。

日本では昨年の「アジアフォーカス・福岡映画祭'97」で上演されているようだが、ほとんどの方がご覧になっていないと思うので、ストーリーをご紹介する。

舞台はソウル。気温が40度近くまで上がった真夏の日曜日の朝。とある食堂のおかみは、暑さを言いわけに働こうとしない旦那を尻目に近くの団地へバイクで出前にでかける。

その団地ではそれぞれの家庭で平凡な日常の風景。同じ部屋に同居している若いホステス2人は、日曜の朝から常連の客に電話で呼び出されて不機嫌な様子。

電器の修理屋の妻は、なかなか仕事から帰らない夫を小さな娘に呼びにやらせる。娘は独身女性の部屋の入口で部屋の主といちゃついている父親の姿を見つけて母親に告げ口。

姑と同居している若夫婦は、姑が菓子箱などつまらないものを収集する癖に腹を立て、窓からそのミシンを放り投げてしまう。

団地の前の道路では、夫たちは花札に興じ、主婦たちはスイカを食べて婦人会の会長を中心に井戸端会議。

そんないつもどおりの日曜日の風景に突然、団地の階段口から男と女が走り出てくる。男は逃げようとする妻をベルトでなぐりつける。妻は体中あざだらけだ。

花札の男たちはいつもの夫婦喧嘩だと気にもとめない。しかし主婦たちはあまりのひどさに逆上してその夫を止めにかかり、たまたまそこへ出てきたさっきのホステス2人も巻き込み、ついには殴る蹴るの暴行に。

救急車が呼ばれるが、女たちになぐられた男は車中で息絶える。警察隊が団地前に到着すると、主婦たちは事情を知らされないままいっせいに屋上へ逃げ、鉄の扉をふさいでろう城。警察はハンドマイクで男が死んだことを告げる。

その屋上では修理屋と浮気をしていた独身女性がビキニで甲羅干し。たちまち修理屋の妻とけんかになるが、つまらないことでいがみ合っている場合ではない。うだるような暑さの屋上で、女たちと警官隊の膠着状態が続く。

そんなことも知らず、2人の不審な男が団地のある部屋に泥棒に入っていた。金目の骨董品をごっそり盗んで帰ろうとするが、いつの間に団地の前には警官隊。逃げるに逃げられなくなってしまう。

その事件を知ったテレビの女性記者が現場に駆けつけ、屋上の女たちの様子をニュースで伝える。殺された男は毎日のように妻を虐待していたのだ。

全国の女性団体が屋上の女たちに支援の声を上げ、ろう城2日目の夜、警察隊の封鎖をぬって食料を届ける。部屋に閉じ込められた例の泥棒は冷蔵庫の食料を食べつくし腹ぺこだが、テレビで報じられる屋上の女たちに「女を殴る男は許せねぇ」となぜか同情的になってくる。

警察が女たちの身元を調査したところ、男が一人まぎれこんでいることをつかむ。そのニューハーフに呼びかけて仲間割れをたくらむが、殺された男の妻は彼(彼女?)の孤独の苦しみを理解する。ろう城3日目のその日が偶然にも彼の誕生日。初めはオカマだと気持ち悪がっていた若いホステスの2人もいっしょに誕生日を祝い、踊る(食堂のおかみがブギウギを歌ってみんなが踊るシーンで痛快!)。

翌朝、ついに警察隊にかわって鎮圧隊が動員される。女たちは覚悟を決めて屋上から鎮圧隊の用意したクッションにむかって飛び降りる。

この映画は、女たちが晴れやかな表情で護送車に乗っているシーンのストップモーションで終わるが、夫の家庭内暴力に耐えつづける妻と、彼女に対する同情からその夫を殺してしまう女たちという非常に重いテーマを扱っているにもかかわらず、笑いながら観られる娯楽作になっているところがすごいのだ!

最後の鎮圧隊の動員の場面では、団地に押し寄せるものすごい数(エキストラ)の女性団体が登場し、1995年でも韓国映画は社会派なんだなぁ〜と思わせるが、社会派なのに娯楽映画なのである。

解説者の映画評論家・佐藤忠男はこの映画の始まる前に、「最近は女性が強い韓国映画が増えた」とまったくチンプンカンプンなことを話していた。

この映画は、家庭内暴力が一家庭の問題ではなく、そこから社会へとつながっていく普遍的な意味をもつ問題であることを、娯楽の要素もきちんと織り込みながら伝えることに成功している。

監督のイ・ミニョンはこの作品が初メガホンらしいが、テーマを維持しながら大衆性もそなえた映画を撮れる人のようだ。そういう映画が作れる韓国のエネルギッシュな映画界にむしろ嫉妬を覚えるべきなのに、「女の強い映画が増えた」とは、佐藤氏もそろそろ引退の潮時か?

ちなみにこの映画で婦人会の会長を演じているのは、1980年の伝説的な作品『風吹く良き日』や『神様こんにちは』(1987年)に出演している女優キム・ボヨン。間抜けな泥棒の一人を演じているのは、韓国映画ファンには『ホワイト・バッジ』のアン・ソンギとの共演でおなじみのイ・ギョンヨンである。

技術的な評論も加えたいが、観ていない方がほとんどだと思うので一言だけ。この映画でいちばん好きなシーンは、女たちが屋上から願い事を書いた紙飛行機を飛ばすシーンだ。


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