ネーナの『ロックバルーンは99』の歌詞について前回のエッセーで翻訳をあきらめたと書いたが、カラオケで歌える数少ない(場合によっては唯一の)ドイツ語POPSなのでやはり挑戦しないわけにはいかない。分からない部分は分からないままでも全体として何とか意味がとれるようにしてみたい。
私に少し時間をくれる?
あなたに歌をうたっていい?
地平線へ飛んでいく
99個の風船の歌
まさか私のことを考えてるの?
あなたに歌をうたっていい?
99個の風船の歌
とてもおかしな話なの
※注釈:
最初の2行は疑問文だが、2行目の主語がichの疑問文をどう訳したものか。「Auf ihrem Weg」の「ihrem」は男性名詞複数Luftballonsをうけて三人称複数の所有代名詞。「g'rad」は「gerade」の省略形と推測したが、もしそうなら「g'rad'」のはずだがそうなっていない理由は不明。最後の行はやや意味が不明瞭。「sowas」は so etwas(そんなこと)の省略形ということは読者からの情報で分かった。オンライン辞書をよく読むとちゃんと「(参考)口語ではしばしばetwasの代わりにwasが用いられる」と書いてある。so etwasは口語で「そんなばかげたこと」という否定的な含意で使われるようなので、ここでは「(以下に述べるように)バカげたことからバカげたことが起こる」ということで、やはり ein Lied の要約であることは間違いなさそうだ。
99個の風船が
地平線へ飛んでいく
宇宙からきたUFOだ!と
ある将軍が飛行中隊を
派遣して追跡させた
もしUFOなら警告を出すために
でも地平線に見つけたのは
ただの99個の風船だった
※注釈:
「aus dem All」の「All」は中性名詞で「宇宙・万有」の意味、Weltallと同義。「'Ne」は「eine」の省略形。「Fliegerstaffel」は飛行中隊の意味だが、飛行中隊とは9機編成らしい。「Alarm zu geben」を目的を示すzu不定詞句としたが自信がない。「wenn's so wä」は「wenn es so wär」の省略形。しかしseinの過去形は war で接続法第二式は wäre、wär に該当する活用形がない。さきほどの「g'rad」もそうだが語尾の「e」は省略符号の「'」なしで随意省略されていると考えればよいのだろうか。「es」は上述の文の内容受けていると解釈した。war'n は waren の省略形で主語はもちろん Luftballons。
99機のジェット戦闘機は
一機一機が巨大な戦士
カーク艦長気取りで
巨大な花火を散らした
隣人は何も奪っていないのに
挑発されたと思って
地平線で撃ちまくった
99個の風船めがけて
※注釈:
Düsenflieger は Düse〔女〕ジェット+Flieger〔男〕飛行士;《俗》飛行機なので「ジェット機」さらに文脈から「ジェット戦闘機」と訳したが辞書にはない単語で単複同型。jeder は男性単数なのでDüsenfliegerを単数としてうける。Hieltenはhalten過去形の三人称複数なのでDüsenfliegerを複数形のまま主語とする。Captain Kirkはインターネットで検索したところ『スター・トレック』の登場人物らしい。4行目の主語 das は上述の状況全体を漠然と指していると解釈した。Feuerwerk は「花火」だがここでは比喩で戦火や砲火を意味していると思われる。次の行「Die Nachbarn haben nichts gerafft」は意味不明。ここでいう隣人は隣国の人民という意味か。nichtsが名詞なので raffen(サッととる、ひったくる)の目的語だということは分かるが、ここでは隣国へ侵略して何かを略奪したわけではない、という意味か。次の行の分離動詞 an|gemacht も意味不明。過去分詞で sich の補語の役割をしているので、受身の状態を意味していることは分かるが、「取り付ける、火を付ける」という意味の他動詞が、ここで文字どおり砲撃で燃やされてしまうということなのか、気持に火を付けられる=戦争をする気にさせられるという比喩的な意味なのか不明。次の行の主語が man になっている意図が不明。DüsenfliegerかNachbarnをうけて三人称複数の代名詞 sie にすればよさそうなものだが man になっているのは戦闘の混乱の中、風船を撃ったのが誰か特定できない状況を意味しているのか。
99人の国防大臣は
マッチ棒とガソリン缶のようなもの
策略家だと思いこんで
もう太った獲物をかぎ分け
戦を呼び、力を欲した
そう考えてしまったために
ついにはそんなことになった
99個の風船のせいで
※注釈:
2行目の「マッチ棒とガソリン缶」は「火に油を注ぐ」と同類の比喩で99人の国防大臣と同格と見なした。したがって hielten の主語は単複同型の Kriegsminister。4行目wittertenの主語も同じ。fette Beute は比喩表現と思われるが具体的に何を指すのかは不明。次の行では「Riefen: Krieg」の「:」は何を意味するのか。riefenはrufen(呼ぶ)の過去形三人称複数。riefen と wollten の主語はともに Kriegsminister と解釈した。次の行もよくわからない。関係代名詞 wer の先行詞は Man だと解釈したが、すると Man に対する動詞が見つからない。hätte は haben の接続法第二式三人称単数で、das は上述の内容をうけていると思われる。「こんなことを考えるようになったら」という仮定か。次の文も das と es の関係が不明。主語は es で漠然とした状況を指していると思われ「一度そんなところまで来てしまう」のような意味だと推測されるが、kommt がなぜ現在形なのか。また das は何のためにこの文に必要なのかが不明。
99個の風船のせいで
99個の風船
99年の戦争は
一人の勝者も出さなかった
もう国防大臣もいない
ジェット戦闘機もない
今日私が円をえがくと
廃墟と化した世界が見える
風船ひとつ見つけたら
あなたを思って飛ばしてあげる
※注釈:
2行目の動詞 liessen は三人称複数の過去形だが主語がない。99 Jahre Krieg は単数形なので ließ になるはず。しかし Krieg 以外に liessen の主語が見あたらないので Krieg を主語とした。3行目の「gibt's」は「gibt es」の省略。4行目は zieh が謎。後続の3行を見ると動詞はいずれも一人称単数現在形の省略形なので、すべて主語は ich で4行目も一人称単数現在形と見るのが順当。しかしziehという形の一人称単数現在形をもつ動詞はなく、おそらくziehen(引く)の一人称単数現在形 ziehe の最後の e が省略されたものと思われる。実は動詞 zeihen(罪を問う)の一人称単数過去形が zieh で完全に一致するのだが「〜の(4格)罪を問う」という意味では文脈にまったく合わない。ziehen なら「線を引く、描く」という意味があるので Runde〔女〕「円、環」を目的語にとってもおかしくはなさそう。ただそれでも「私の円を描く」とはここでは具体的にどういう意味なのか不明。次の行は目的語が Welt でその補語が不定詞 liegen。次の行は「'nen」が「einen」の省略形。最後の4行はすべて一人称単数現在だが、意味としてどのようにとればよいのか不明。単に事実として私がこのような行為をする(あるいは、している)というのでは歌詞として意味をなさないので「〜してあげる」という風に翻訳してみた。
というわけでいちおう翻訳してみたものの、やはり細かい部分に文法的・意味的に不明な点が多数ある。しかし歌詞全体としては反戦歌であり、Nachbarn は1983年当時の東独を指していたのではないかと考えるとかなり政治的な含意があるようにも解釈できる。ただこれは僕個人の勝手な思いこみであり、正確なところはまったく分からない。
【2002/08/22追記】その後、とある読者の方から情報を頂いた。こちらのページにこの楽曲の誕生にまつわるエピソードが紹介されている。ネーナがローリング・ストーンズのドイツ公演を見に行ったとき、風船が放たれる演出があったらしく、この風船が東独に飛ばされていったら爆弾と勘違いされるのではと想像したことからこの曲が生まれたのだという。やはり東西ドイツ統一前の状況が背景にあったということのようだ。また「sowas=so etwas」であるということもご教示頂いた。
99 Luftballons
Auf ihrem Weg zum Horizont
Hielt man für Ufos aus dem All
Darum schickte ein General
'Ne Fliegerstaffel hinterher
Alarm zu geben wenn's so wär
Dabei war'n dort am Horizont
Nur 99 Luftballons
99 Düsenflieger
Jeder war ein grosser Krieger
Hielten sich für Captain Kirk
Das gab ein grosses Feuerwerk
Die Nachbarn haben nichts gerafft
Und fühlten sich gleich angemacht
Dabei schoss man am Horizont
Auf 99 Luftballons
99 Kriegsminister
Streichholz und Benzinkanister
Hielten sich für schlaue Leute
Witterten schon fette Beute
Riefen: Krieg und wollten Macht
Man wer hätte das gedacht
Das es einmal so weit kommt
Wegen 99 Luftballons
Wegen 99 Luftballons
99 Luftballons
99 Jahre Krieg
Liessen keinen Platz für Sieger
Kriegsminister gibt's nicht mehr
Und auch keine Düsenflieger
Heute zieh ich meine Runden
Seh' die Welt in Trümmern liegen
Hab' 'nen Luftballon gefunden
Denk' an dich und lass' ihn fliegen