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企業会計のスループット

『企業会計』1999年6月号特集

1999/06/03

大企業の大工場なんだから『企業会計』ぐらい購読してるだろうと思ったが考えが甘かった。古巣の経理部には『税務通信』しかないということで、有給休暇を取った今日、鶴舞図書館へ『企業会計』1999年6月号を読みに行った。TOC(Theory of contraints)とスループット会計の特集記事があったからだ。

今、Theory of constraintsを小説仕立てで解説している『The Goal』という本を読んでいる関係で『企業会計』の表紙にあった「スループット会計」の文字にピンと来たのだが、何の事はない、直接原価計算の単なるバリエーションで....

   Thoughput = Sales - Material Cost
   Profit = Thoughput - Operating Expense

これだけのことだ。ただしMaterial Costには売り上げた製品だけでなく、売れずに在庫になった製品の材料費も含める。なぜなら、いくら在庫を積み上げても、売れた分の利益さえ出れば良いというのでは、スループット会計が本来ねらっている在庫の縮減を促すような管理指標にならないからだ。

伝統的な原価計算の世界でいちばん重要なのはOperating Expenseをいかに削減するかで、その次にThroughputの増大、Inventoryの縮減の順になるが、スループット会計では文字通りThoughputを最優先し、次にInventory、Operating Expenseとなるらしい。その理由は、伝統的な原価計算では直接材料費の他に、直接労務費、直接経費を変動費(生産高に応じて変動する費用)と考えるが、実際には企業にとってはいずれも固定的なOperating Expenseであって、ほんとうに変動費と言えるのは直接材料費ぐらいだからだ。

その対極にあるのがABC(Activity-Based Costing)ということになるらしい。TOCの提唱者であるゴールドラット氏は、製品原価は直接材料費のみで、その他の費用を製品原価に配賦する必要はないとまで言い切るが、ABCは「その他の費用」をすべて、製品の製造に関わるあらゆる活動を基準にしてきめこまかく配賦する。

伝統的な原価計算に対して、いい加減な配賦ならいっそのことやめた方が良いというのがスループット会計で、逆に厳密な配賦を目指したのがABCということになる。なぜ伝統的な原価計算から離反する流れが生まれたのかと言えば、言うまでもなく少品種大量生産から多品種少量生産への転換があったからだ。

大量生産は操業度の変動が少ないので、いったんさまざまな配賦レートを決めてしまえば、標準原価と実績原価にそれほど大きな差異は生まれない。全体の操業度実績を基準に毎年レートを見なおせば大過ない。しかし多品種少量生産になると母数が小さくなるので、そもそも一律に配賦レートを決めるということに無理が出てくる。

そこで配賦レートを精緻化する方向に向かうのがABCで、ばっさり捨ててしまうのがTOCを基礎とするスループット会計ということだ。

ただ、ABCとスループット会計は対立するものではなく、前者が後者の役に立つ面もあるという。製造プロセスや業務プロセスを詳細に分析することで、何がボトルネックになっているかを見つけ出せるからだ。スループット向上の道具としてABCの活動分析が使えるというのだ。

なるほど。しかしこれだけのことを言うのに、「管理会計のrelevance lost」だの、「複雑性理論」だの、ヒトデを裏返すと起き上がろうと無理して体が裂けてしまうだの、わざわざ議論をわかりにくくしてしまうような比喩を持ち出す必要は全くないのではないか。

どうもサラリーマンや会計学の先生方など、実業の世界に関わる人々は、よく練られたシンプルな真理を、必要以上に複雑化するのがお好きらしい。複雑化することでいかにもひと仕事したような感覚を持てるからだろうか?

しかしこれこそTOCが批判している「とにかくよく働けばそれでいい」主義である。シンプルな真理はシンプルなまま伝えるのが、会計学者〜企業の経理マン〜生産管理をむすぶ企業会計という名の生産ライン「全体」のスループットを向上させることにつながるのではないだろうか。



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