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掃いて捨てるほど
( 19990327 )

Japanese/English

このホームページの「サラリーマンを考える」では、サラリーマン社会を一歩引いたところから眺めて批判を展開してきたが、最近どうもネタ探しに困ってしまう。もしかすると自分がサラリーマン社会に適応してしまったのかと危機感を持ったが、実際はサラリーマン社会があまりに変わらなさ過ぎるからだと分かった。

『現代思想』1999年3月号は久しぶりにジャック・デリダを特集しているが、その内容はもはや僕がフォローできるものではなくなっている。とりもなおさずデリダがアクチュアリティーに責任を持って答えながら思想を深化させているからであり、デリダを論じる日本の思想家たちも日本なりの状況に対して答えようとしていることを示している。

状況が変化すれば思想も変化する。そうした当たり前のことが生起しているにすぎない。哲学の場合は問いかけに対する答え、そしてその答えに対する答えという際限ない差異を肯定する対話のシステムが状況への適応をいっそう加速しているように思う。

一方サラリーマン社会には絶えず変化を生み出すシステムそのものが存在しないかのように見える。金融ビッグバンだの情報化社会だの、まるで経済界が激変しているかのような表現がメディアを騒がせているにもかかわらず、結局サラリーマン社会の適応速度はイライラさせられるほど緩慢なのだ。

僕が同年代として期待を寄せる若手社員たちも、多くは自分の父親たちのサラリーマン人生を体得するのに必死である(女性は「お手本」がないだけまだ自由に自分自身のスタイルを創造しやすいのかもしれない)。あえて自虐的な小市民的生活を選択する。自分が単なる親バカになってしまったことを自虐的に語りながらも、カイシャに自分のアイデンティティーを預けてしまう。年長世代との差異を語るのではなく、自らそれに同化していくことでサラリーマン社会を補完していく。

僕はカイシャの独身寮に住んでいるが、最近、管理人が寮生のモラルの低下が目立つと張り紙をしている。共同トイレの個室に入るとタバコの吸い殻が散らかしてあったりして、「おまえは中学生か!」とツッコミを入れたくなる。

理由はおそらくこの不況だろう。一握りの企業をのぞいてほとんどが業績を悪化させ、一時金で年間所得を調整するという日本独特の賃金制度にしたがって、ボーナスがバッサリと切られている。カイシャに自分を預けてしまっているサラリーマンは、士気と同時にモラルも低下する。カイシャの業績とともにモラルも低下させるサラリーマンは単なる寄生植物だ。

他方、上級管理者層はリストラを恐れているせいか意外に勉強熱心な人が多いようだ。ところがその勉強がことごとく上滑りしている。現実に自分が管理しているビジネスの現場と、さまざまなビジネス書を読み漁って詰め込んだ知識が乖離したままなのだ。そうした知識を現実に適用する権限を持った管理者層が、ERPやBPRやSCMといった流行の3文字言葉を吹聴しつつ、旧態依然の日本的システムにどっぷりつかってそこから動こうとしない。

若手も管理職も絶えざる変化が必要な時期にかえって保守化している。確かに少しずつ日本企業の戦略も変化しつつあるが、どの変化もよくよく考えてみれば当たり前のことが実現していく過程にすぎない。

そうした適応の遅さを支えているのは、全国何千万人の善意のサラリーマンたちだ。彼らは知っていて動こうとしない悪意の人たちではない。そもそも他の考え方もあるということを知らない。染みついてしまったサラリーマン的発想の他に思考法があることにさえ気づいていない。だから善意なのだ。一生懸命変えようとしているのに今までと同じ方向に進んでいる。

最近事務所のレイアウト変更のため同じ建物の中で引越しをした。そのとき今まで僕の部署がいたフロアーに引越してくる部門の管理者が、僕の上司に抗弁していたこと。それは、フロアーの半分は他部門の管轄だから、自分たちに掃除する義務はないということだった。

電気掃除機なら3分で掃除できる猫の額のようなフロアーについて、いったい誰が週一回の掃除を担当するべきか?そういう聞いて呆れるほど下らない問題について、声を高くして抗弁する。それが日本のサラリーマン社会なのである。そんな下らないことで自部門の縄張りを必死で守ろうとする男たちが日本のサラリーマン社会を作っているのだ。

そりゃぁ変われなくて当然だ。変わらない限り僕の批判のネタも枯渇していく。そこに残っているのは変われない哀れな男たちが切り盛りしている、変われない社会だ。


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