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お茶会のすすめ
( 19980328 )

Japanese/English

少し前に、このページで、「サラリーマンの自己紹介ほどつまらないものはない」と書いたが、誤りを正直に認めて一部訂正したい。サラリーマンの自己紹介がつまらないのは、その人自身が本当につまらないからではなく、当たりさわりのない自己紹介しかできないような雰囲気があるからである。

同じ職場の中で自己紹介する機会といえば勤務時間中であり、どうしても仕事に関連しての自己紹介、というバイアスがかかってしまう。だから、内容は必然的に「何年入社で、今までどんな仕事をしてきて、家族は何人で...」というきわめてつまらないものになってしまう。

僕がこのことに気付いたのは、先日、やはり同じような自己紹介の場でのことだ。以前「サラリーマンの自己紹介ほどつまらないものはない」と書いたのは、僕が新参者で、受け入れる部署の人々の自己紹介を聞く立場にあったときだった。

先日の自己紹介の場では、僕は逆に受け入れ部署の側として自己紹介したのだが、前回とは違った自己紹介を聞くことができた。ある人は体の弱い子供の健康を気づかってベジタリアンになろうかと言っているし、他の人はつい最近両親が離婚したという(はやりの熟年離婚というやつか)。

「面白い」と言っては明らかに語弊のある内容ではあるが、それぞれに必ずしも平坦でない人生があると知って、今まで2次元的だった人物像に奥行きが感じられるようになる。

どうして以前の自己紹介の場では出なかったようなことが自己紹介として話されたのか?それはそれとして大きな疑問だったが、今思えば、今回は新人さんが女性であったことが大きな要因だと思う。僕はただでさえ人に気後れを感じさせる人間なので(自分でわかってるならもっと打ちとけろよと自分にも言いたいが、それができないのは少なくとも今の僕は非力すぎてそれしか「売り」がないからなのだ)、おそらく僕の前では無難に自己紹介をこなそうとする。

それに対して、今回は女性の新人さんだったので、みんな「個人的なこと」から話しはじめる。エリートコースまっしぐらの男性と、平凡な(と言っては言い過ぎか?)女性が周囲に醸し出す雰囲気には決定的な差があるのだ。一つは経歴の理由で、もう一つは性別の理由で。やはり女性は、(今回の自己紹介に現れているような)良い意味でも、そして(れっきとした待遇の差があるという)悪い意味でも、職場では男性とは違う記号として受け取られている。

原因の分析はそれくらいにしておいて、そういうわけで僕は、人物そのものが退屈なのではなく、退屈な自己紹介をさせる雰囲気が悪いんだ、ということに気づいたわけだ。

しかし、会社生活をふりかえってみると、同じ職場で働く人々の「個人的なこと」を聞く機会がいかに少ないか。しかしながら、「個人的なこと」を知ることがいかに人間どうしの信頼関係を深めるか、そうしたことに気づかされる。

「そのためにこそ、あんたの否定する酒の席があるんじゃないか」と、年長者の方々は鬼の首をとったように反論するかもしれないが、残念ながら今の若者は酒を酌み交しながら腹を割って話すなんていう、ダサダサの習慣を持ちあわせていない。

たぶん僕らは、ファーストフードや喫茶店、学食やサークル部屋なんかで、清涼飲料水片手に「まったりと」話すことで人と親しくなる流儀なのだ。あくまで「しらふ」が前提である。

それに、酒が入るとろくなことはない。

まず話しがどうしても非建設的なグチばかりになる。それに、始末の悪いおやじは、その場にいる女性に「おみ足がきれいですね」とか「色っぽいですね」とか、ろくでもないことを言い出す。

僕が酒の席を嫌う理由はここにもある。酒の席ではどうしても女性はお酌の役割を押しつけられ、自分の言いたいことも言えなくなってしまうのだ(そうでない女性もいるが)。

そういう意味で「酒の席」というものは、インフォーマルな面でも女性をメインストリームから締め出す、女性差別の装置になっている。カラオケパブや宴会の席で、どうして職場の女性がリラックスして悩みや問題を打ち明ける雰囲気になれるだろうか?

「お酌」という行為には、どうしても職場の上下関係が持ち込まれてしまう。これでは言いたいことがあっても言えない。打ち解けるはずの席が逆に職場の延長線上になってしまう。

しかし、上司はこのことに気づかない。酒が入れば若手も腹を割って話してくれるだろうと勘違いをしている。「お酌」は上下関係である。ここからいったいどんな本音が引き出せるというのか?

結局上司は自分が言いたいことを言って、説教を垂れておしまい。若手の立場からしてみれば、「上司のいる酒の席=上司の説教」「上司のいない酒の席=上司の悪口大会」になっていまう。

そこで僕は一つ提案したい。職場で「お茶会」を企画してはどうか?

酒は禁止。ソフトドリンク・オンリーで、ふだん仕事をすすめる上で抱えている問題や、個人的なことを自由に話し合う。その前提としてたっぷり時間をとった自己紹介もいいだろう。

わざわざ「お茶会」と銘打つのが照れくさいのなら、「定例ミーティング」というタイトルで、ただし、会議室を使うのではなく、社内喫茶や休憩室のようなところで開催するのも手だろう。

お茶会に「お酌」はない。それぞれが勝手に飲み物片手にお菓子でも食べながら、対等な立場で自由に話す。女性も宴席でのような気づかいがなく、安心して参加できる。

もちろん学生時代のように楽しい「お茶会」が実現できる公算は少ないだろうが、「自由な討議」がやりにくいなら、「現在のプロジェクトの問題点について」などもっともらしいお題目を一応決めておいて、ブレーンストーミング型のミーティングをやればいい。

いつもの会議と違って、時間もしばらず、テーマもしぼらず、結論も求めない。とにかく思ったことを自由に意見し合う。そして、ふだんの業務では同席しないような人が同席するようにメンバーを設定する。

そうすれば、今まで思っても見なかったような意見や、共通の課題が見つかる可能性もある。

僕が管理職になったら、そんな「お茶会」をやってみたいなぁと思う。別項でも書いたように、今の日本の企業に必要なのは、インフォーマルな情報の共有から生み出される信頼関係だと思うからだ。


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