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企業風土の改革?
( 19980329 )

Japanese/English

実は最近、小さな自動車販売会社の会長をされている女性から、このページを読んでの感想という形でメールを頂くことがあった。

このページにメールを頂く方の中には、まだ30歳にもならない僕のことを買いかぶって下さり、半ば「人生相談」のようなトーンの文書を送られる方が少なくない。

上記の会長さんも、どうもうちの会社では管理職が育たないのです、取引先の銀行からも、明確な数値目標を持った経営意識を社員に徹底させることが必要だと、日ごろから言われているのですが...という相談をしてくださった。

大企業の緊張感のない職場で、なおかつ勤続たった4年の僕に何もアドバイス差し上げる力はないのだが、今の僕に考えうる限りのことを書いて返事をお送りした。おそらく言わずもがなのことばかり書いてしまったと思うけれど、大企業病の反面教師としてであっても、何かのヒントにして頂ければと思ったからだ。

ところが、そうして返事を出してみると、やはりある種の責任を感じずにはいられない。上記の会長さんの問題意識は、「小さな会社が、大企業なみの経営感覚を持つにはどうすればいいか?」というものであるわけだが、これを自分の勤務している会社に置き換えてみた。つまり、「大企業が小さな会社のような活力を取り戻すにはどうすればいいか?」ということだ。

一言でいえば、「企業風土の改革」というテーマである。

先日、日経新聞を読んでいると、歴史的な赤字決算を発表したある電機メーカーの社長の交代劇が、比較的詳しく報道されていた。その記事の中では、辞任した社長の「風土改革」の中途半端さが、批判的に取り上げられていた。

僕の勤めている会社でも、この電機メーカーと同じように、やはり「風土改革」のような活動を行っているが、どうしても上からの押しつけの感が否めず、「ためにする活動」に終っているのが実状だ。かくも「風土改革」は難しいものなのかと考えさせられる。

入社して間もない頃、営業部門の人との付き合いで飲みに行ったとき、僕がフランス哲学の出身であり、それを職場の「風土改革」に生かせないか、などと青臭い意見を吐いたところ、現在課長に昇進している営業部門の当時担当者の方は、それは難しいよ、と否定的だった。

そんな会社でいくら社長が「風土改革」と頑張ってみたところで、やはりあの電機メーカーのように目立った成果があがらないまま、すべて社長の責任にされてしまうのがオチだ。

そんなことをつらつら考えていたところへ、絶好の書物に出会った。このタイミングの良さにはそら恐ろしいものさえ感じるが、先週、いつものように繁華街の大型書店をブラブラしていて、目をつけていた本ではあったのだ。

柴田昌治という人の書いた、『なぜ会社は変われないのか』という本である(日本経済新聞社、定価1600円)。1月末に出版されたばかりの本で、著者は1944年神戸生まれ、僕の大学の先輩で、大学院在学中にドイツ語語学院を始めた学生企業家という。今はコンサルタントとして活躍しているらしい。

「ビジネス戦略ストーリー」というサブタイトルのとおり、ある下請け自動車部品メーカーが、社内報に掲載されたある社員の社風批判文書をきっかけに、企業風土の改革という困難な課題に取り組んでいく様子を、物語として描いている。

「企業風土の改革」という、ともすれば抽象的になりがちなテーマを、物語として展開したところは、教育学部出身の筆者ならではのテクニックだろう。説教臭さがなく、シチュエーションが非常に具体的かつリアルなので、ついつい引き込まれてしまう。物語の力は教育的な場面で最大の効果を発揮するようだ。

内容を要約してしまうと、この本の魅力が半減してしまうので、ぜひぜひ、手にとってお読み頂きたい。こんなノウハウを1600円で公開しては、柴田さんの商売あがったりではないか?と思うほど、具体的な方法論がぎっしり詰まっている。

絶対読んで損はしない。『7つの』なんとかという本は読んだけれど、確かに良いことが書いてあるのに具体的な示唆に乏しくて...、という方に特にお勧めしたい。そういう意味での失望は、この本に関する限り無縁である。

この本の中で、企業風土の改革に重要な前提条件として説かれているのが、仕事に直接関係のない情報を交換することで、社員どうしの信頼関係をまず築く、ということだ。

日常業務とは離れた場で、プライベートなこともふくめた自己紹介を、じっくり時間をかけてやり合う。そして、「風土・体質とはなにか」など、できるだけ抽象的なテーマにそって、自由に意見を交換しあう。

その時重要なのは、結論を出そうとしないこと。話しを収束させようとせず、逆に発散させるようにすること。このような話し合いの場を、柴田氏は「オフサイト・ミーティング」と称している。

つまり、企業風土の改革を進めるにあたって、まず必要なのは、そのための土壌づくりだ、ということだ。柴田氏が繰り返し述べているように、「言い出しっぺが損をする」という土壌では、いくらトップが風土改革を進めようとしても、社員には「やらされる」という意識しか芽生えない。

その土壌づくりには、まずお互いをよく知り、信頼関係を作ることが第一だというのである。僕が個人的に思ったのは、そのように信頼関係を作る作業を、酒の席のようないい加減な場から、「オフサイト・ミーティング」という、ちゃんとコーディネートされた場に持ち込んだところが、柴田氏の卓見だということ。

いずれにせよ、企業風土を変えようと、頭ごなしにこうしろと言ったのでは、変わるものも変わらない。まず信頼関係を築き、あえてお互いの問題点を指摘し合うことが必要になってくる。

その意味で、冒頭で紹介した、あの自動車販売会社の会長さんも、まず、自動車マニアから脱皮して管理職になろうとしない社員たちの意見を、じっくり聞いてみるという場を、定期的に持つのもいいかもしれない。

いやいや、僕が青二才の意見を繰り返すよりも、まず柴田氏の本を読んでみられていはいかがだろうか。経営者としての経験から、会長さんは僕よりももっと多くのことを、この本から学ぶことができるはずだから。


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