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日本的な「構造」
( 19980428 )

Japanese/English

大蔵省幹部の大量処分などをめぐって、各紙の大蔵省批判が一層激しさを増しているが、どうもふに落ちないところがある。とりわけ日本経済新聞の4月28日朝刊「『集権と裁量』断つとき」というタイトルの記事である。

この記事は、接待に現れている構造腐敗の原因はルールの明確でない裁量行政であり、その背後には大蔵省への権力集中、さらにその背後には日本人の「お上」意識があると論じている。まったく正しい。

しかし、大蔵省の構造腐敗を言うなら、接待を行った銀行側、もっと言えば民間企業にもまったく同じ構造による腐敗が潜んでいるのではないか。大蔵省の構造は、日本的商習慣の構造そのものではないか?だとすれば一般の民間企業も、大蔵省をスケープゴートにできないはずである。

たとえばこの日経新聞の記事は、大蔵省内部では、接待の回数の多さが官僚の能力の尺度になっていたようだと書いている。続いて、「問題は、なぜ接待を受けることが大蔵官僚の仕事になったか。なぜ大蔵官僚のいう『社会常識』が本当の社会常識から逸脱してしまったかである」と書いているが、僕は大蔵省の接待漬けという「社会常識」は、民間企業の「社会常識」と、それほど大きく乖離していないと思う。

日本人の「お上」意識→大蔵省への権力集中→ルールの明確でない裁量行政→接待漬けという、構造と呼ぶにはあまりに単純な「構造」は、民間企業にもその縮図を見ることができる。

民間企業における「お上」意識の対応物は、上司の指示を絶対視し、上司に対する批判をタブーとする日本企業の風土である。課長は部長の顔色をうかがい、係長は課長の顔色を、平社員は係長をと、組織の構成員全員が上司の顔色をうかがうことで、日常の意思決定を規制されている。これが「お上」意識でなくて何だろうか。

次に「権力集中」の対応物は、一向に権限委譲をしようとしない経営幹部の集権体制である。とくに全社的な意思決定にとって重要な経営情報ほど、隠蔽しようとする傾向が強く、下部の社員は自律的に仕事をしようにも必要な情報がないのでできないという状況に自然と追い込まれる。したがって上司の指示待ちするより他なくなるし、その指示を絶対視せざるを得なくなる(それ以外の判断基準がないわけだから)。「お上」意識と権力集中は、どちらが原因とも結果とも言えないものだ。

また、3つめの「裁量行政」の対応物は、日本企業における職制が、かならずしも明文化されたルールにもとづいていないことである。一人ひとりの職務範囲が、どこからどこまでと明確に決まっていないため、何か新しい仕事をしようとするたびに、いちいち上司にお伺いを立てて許可をもらわなければならない。

よく、日本的経営の経営者は「ほう・れん・そう」ということをバカの一つおぼえのようにくり返す。上司に対する「報(ほう)告・連(れん)絡・相(そう)談」を怠るなということだが、彼らはなぜ「ほう・れん・そう」が必要なのかということに、全く気づく気配がない。

言うまでもなく、いちいち上司に対する「報告・連絡・相談」が必要なのは、個々の職務範囲が明確化されていないためだ。仮にルール化されていれば、上司は部下のアウトプットだけを評価すれば十分である。アウトプットだけでなくプロセスの評価もする必要があるなら、定期的に面談を行うなど、これもルール化して実施すればよい。何も毎日のように「ほう・れん・そう」する必要は全くないのだ。

このように、日本的経営の民間企業でも、大蔵省と同じく明文化されていない「暗黙のルール」をベースに仕事をせざるを得ないのだから、相手の腹をさぐるために接待営業がはびこるのは当然である。大蔵省で接待の数が能力の尺度なら、民間企業でも、受ける側かする側かを問わず、接待の数が営業能力の尺度になっているのではないか?それはこの文章を読んでいるサラリーマンのみなさんが、自分の会社を振り返ってみれば分かることだろう。

接待だけではない。上司に対するおべっかがなかば制度化され、儀礼的な会議や形式的な承認ワークフローが山ほどあるのは、ルールの明確化されていない日本的経営のまさに「構造問題」である。大蔵官僚の腐敗は、民間の構造問題と相互に補完してはじめて腐敗になっているのであり、大蔵省批判が民間企業の構造問題の免罪符になるわけではない。

大蔵省の裁量行政があったから、民間銀行は大蔵官僚を接待漬けせざるを得なかった、という被害者的な口ぶりは、民間の側の構造問題の責任逃れである。官僚の構造腐敗を批判するなら、民間企業も日本的経営・日本的商習慣にひそむ構造問題を自己批判すべきだろう。

でなければ、民間の構造問題が温床となって第二第三の官僚腐敗を産み、結局のところ官僚腐敗を根絶することは永遠に不可能になるのだから。


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