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![]() 今日の主人は、明日の奴隷 ( 20001227 ) 『リクルートのナレッジマネージメント』という死ぬほど面白い本を読み終わったところだ。ナレッジマネージメント(以下KM)について野中郁次郎教授などの理論を中心に解説した本はたくさんあるが、ここまで生々しいKMのノンフィクションはなかったと思う。ぜひみなさんに一読をお薦めしたいビジネス書である。 KMをごく簡単にいうと、個々の従業員が体得している知恵をグループで共有して、会社全体として競争力を高めようという考え方のことだ。知恵やノウハウなど、なかなか組織の中を人から人へ流れていきにくい情報を流れやすくするために、いろいろなKMの仕組みが考え出されている。 その一つが、ロータス・ノーツのようなグループウェアを使うという方法である。別の方法は『なぜ会社は変われないのか』で柴田昌治氏が書いている「オフサイト・ミーティング」のように、「気軽にまじめな話をする場」をもうけることである。日本のサラリーマンが得意な「飲みにけーしょん」だけではダメで、しらふで、気軽だけどまじめな話をする場がKMには必要なのだ(米国のパワーランチはオフサイト・ミーティングに近いかもしれない)。 KMは、別の見方をすれば特定の個人に特定の能力を集中させない工夫でもある。会社の業務というのは「流れ」である。特定の個人に特定の業務スキルが集中すると、そのスキルが個人の既得権となって、業務全体の流れを阻害するリスクをはらむ。 また、特定の個人に能力を集中させないということは、先輩社員から後進へちゃんと業務のノウハウが伝わるようにするということも含まれる。後進の指導をいい加減なOJTにたよっているような会社は長期的に見て競争力を殺ぐだろう。 こうしたKMの実践において、もっとも重要な役割を果たすのは、野中教授の説を待つまでもなく中間管理職である。その会社でKMがうまく回るかどうかは、中間管理職のレベルにかかっていると言ってもいい。 このことを検証するために一つの思考実験をおこなってみよう。ここにマネージメントのできない中間管理職がいたとする。そこへ何でもかんでも「私がやります!」と気軽に引き受けてくれる部下が入ったとする。これが思考実験の設定条件である。 この部下は旧来の日本的経営の文脈では、無条件に「良い部下」である。このマネージメント能力のない管理職は、ついついそんな部下を便利に使ってしまう。そういうことがしばらく続くと、上司はそれが自分の統率力のなせるわざだと勘違いし、部下は自分の能力が高いから寵愛されているのだと勘違いする。 実際にはこの二人は、お互いの幻想・思いこみに依存しあっているだけである。まさに「主人と奴隷の弁証法」的な状況だと言える。主人は奴隷がいなければ主人たりえないし、奴隷は主人がいなければ奴隷たりえない。そして状況は主人の方がより悲劇的である(奴隷はまだ自分の「実力」に気づくチャンスがある)。 そんな管理職が自分の失敗に気づくのは、その部下がいなければ仕事がまったく回らないと気づいた瞬間である。こうなってからでは完全に手遅れだ。特定の部下を便利に使い続けたばかりに、グループ全体の業務がうまく流れなくなる危険度を高くしてしまったのだ。 こういう管理職は一人の人間としては良心的で憎めないタイプだが、残念ながら管理職にはまったく向かない。では正しくはどのようにすべきなのか?それを考えるときに役立つのがKMの考え方である。 基本は部下どうしを適度に競争させるということである。「便利に使える部下」に甘えたい気持をぐっとこらえて、業務スキルにラップする部分を作る。同じ質の仕事を場合によって別の部下にふるのだ。するとその部下は、以前その仕事をやっていた同僚に聞かざるをえないが、聞かれた同僚もすすんで教える気持になりやすい。なぜなら聞かれた同僚もいつ自分が聞く立場になるか分からないことを知っているためだ。そうして個人の知識がおもてに現われやすい状況が自然とできていく。 競争するためには「敵」を知らなければならない。逆に、まったく競争のないところでは「敵」を知る必要さえなく、独立独歩あるのみだ。同僚どうしの競争はけっして人間関係をギスギスさせるものではなく、一定の知恵・ノウハウの流れを作り出すはたらきを持つ。それを狙って意図的に業務スキルを重複させたり、「便利に使える部下」から距離をおくのが中間管理職のマネージメント・スキルであり、「場のマネージメント」ということである。 中間管理職は便利に使える部下が何人いても何の自慢にもならない。今日の「便利に使える部下」は、明日の「使いづらい部下」であり、今日の「一見統率力ある上司」は、明日の「部下に頭の上がらない上司」である。便利に動いてくれる部下に甘えたい気持は分からないでもないが、そこで甘えてしまったら何のための管理職かということになる。 無断転載禁止
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