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ザ・インタビュー
( 20020808 )

Japanese/English

就職や転職をするとき、当然のことながら実際に入社するまでは限られた情報からその会社の「社風」を判断しなければならない。会社員として何を重視するかは人によって違うだろうが、入社前にいちばんとらえにくいのは「社風」だろう。このページではコーポレート・カルチャーと社風を同義に使うこともあるが、コーポレート・カルチャーがそのときの経営者の言行から推測できるであるのに対して、「社風」はもともと誰かの意志で作り出されるものでなく、当の社員も自覚していない場合が多いので、入社前に把握することは至難の業だ。

ただ、それぞれの会社が広報活動を通じて世間にアピールしているイメージと、じっさいの「社風」の間にあまりに大きな格差があるために驚かされることがある。外面と内面に格差があるという事実そのものが、その会社の「社風」だと言えるのかもしれないが。

個人的な経験から例をあげると、面接に臨んで面接官の態度に面食らった例がいくつかある。

僕の応募する情報システム関連の社員は基本的に紳士・淑女であるはずだというのは僕の勝手な考えである。ここで紳士・淑女と言っているのは身だしなみなど外見的なことではなく、たとえば相手を非難するときでもおおげさな表現を使わず、事実をその大きさのままに冷静に指摘することであったり、ことの優劣を露骨に表現しない謙虚さであったり、要するに頭の中ではいくら過激なことを考えていてもいっこうに構わないのだが、それを口に出すときは節度を保つという態度のことだ。

ある外資系ソフトハウスの面接では、面接官の一人が僕に対して「そんなこと秋葉原に歩いている中学生でも知ってますよ!」と罵声をあびせかけた。文字どおりののしるような勢いでそういう言葉を発したのである。「あなたの技術力では不十分です」ということを伝えるために「秋葉原に歩いている中学生」を持ち出す必要はもちろんない。別の言い方はたくさんあるはずだ。うがちすぎかもしれないが、この面接官の態度は僕の何かに対するひがみとしか受けとれなかった。

幸い他の面接官は立派な紳士であり、「あなたは不合格です」ということを面接が終わるまでに婉曲に伝えるだけの話術をもっていたため、最後まで冷静に対応することができた。当時僕は外資系企業にはクールでスマートな人材が集まっているというイメージを勝手にでっちあげていたが、むしろチームワークと協調性を重視する日本企業に適応できない人物が外資系に集まるのは自然ななりゆきかもしれない。

他にも1社だけ外資系の面接を受けたが、みなさん紳士的な対応だった。外資系企業への転職を専門にあつかう人材紹介会社から国際電話と電子メールでアプローチがあったりもしたが、すべてお断りしている。このソフトハウスの面接以来、僕は外資系アレルギーになってしまったらしい。

(外資系ソフトハウスの名誉のために付け加えれば、ここで書いたソフトハウスは誰もが良く知っている企業ではない。ある専門分野に特化した非常に優秀なパッケージソフトを開発している企業で、業界人でも知っている人は少ないだろう)

さて、外面と内面のギャップという点でいちばん驚かされたのは国内の某大手食品メーカだ。日本人なら知らない人はいないという有名な企業で、経営も堅実、一生働きつづける会社として安定性には文句がなく、面接を受ける前は何としてでも入社したいと思っていた。

ところがその会社に関してテレビCMから持っていた良いイメージは、最初の面接で完全に崩壊した。面接官が一貫して主張したのは、その当時僕が勤務していた企業の販売しているソリューションなど大したことはない、わが社が構築してきたシステムの方がはるかにすぐれているということだけだった。それも初めからバカにしたような態度で、こちらは間もなく退職するという身分ながら思わず弁護したくなるほど不愉快な批判のしかただった。

それだけ自社に対する忠誠心の高い社員がいるからこそ好業績を保てるのかもしれないが、外部から経験者を迎える面接で見せる態度として、というより社会人として適切な態度とは言えないだろう。

しかしこの企業の印象はさらに悪くなる。次の面接は入社すれば配属されるであろう部署の部長との面接だったのだが、せまい会議室に2人きり、部長は会議室に入るなり目の前でタバコをぷかぷかと吸いはじめた。

オフィスを禁煙にするかどうかは各企業の自由だが、面接試験の受験者とはいえ社外のお客様として応対するのが常識、ふつう面接時間中は遠慮するか、ひとこと断ってから吸うだろう。少なくとも他の会社でこんなぞんざいな態度を見せる部長クラスの方はいらっしゃらなかった。

しかもその部長が僕の手書きの履歴書を見て開口一番に言ったことは、「君、字が下手くそだね」。それから延々と履歴書のあらさがしのような質問が返答の余地も与えない勢いで続いた。それも一貫してタメグチである。

最後に「何か質問ある?」と質問され、こちらが1つ2つ質問してもう終わりだろうと思っていると、「それだけしか思いつかないの?もっと何かおもしろい質問を考えてよ」とすごまれたのである。大企業の部長面接を受けたというよりは、「や」で始まる自由業の方の事務所に軟禁された感じがした。

冷や汗かきかきようやく面接を終えたが、驚くべきことに翌朝、人事部から次の面接を案内するメールが届いた。あの部長面接は合格だったのである。もちろん即刻電話で断った。

人事部の若い担当者はとても感じの良い人で、「もしよろしければ辞退される理由をお教えいただければと思いますが」とたずねてきた。「御社の社風が合わないので」と婉曲に答えると、彼は面接に同席したとき面接官としっくりいかないのを心配していたのだと告白した。そしてさらに「面接官に何か問題がありましたでしょうか」と質問してきた。

まだ社歴が浅く、他の企業を経験したことのない彼には、自分の会社の中間管理職がいかに特殊な心性をもっているか本当にわからなかったのだろう。僕はあえてあの部長の面接態度には触れなかった。仮に僕が指摘してあの部長の面接が「改善」されれば、入社してから後悔する人が出てくるだろうと考えたためだ。

よく圧迫面接というのがあって、面接官がわざと意地悪な質問をして受験者の反応を見ることがある。大卒のとき某大手通信会社の面接がそれだったが、そのときは後から人事部担当者がちゃんと「種明かし」をしてくれた。しかしこの大手食品メーカの場合は人事部担当者が部長面接の実態を本当に知らないようだった。

100年以上の伝統ある会社なので、社員が自分の会社に高い忠誠心と誇りをもつのは納得できるし、そのこと自体は素晴らしいことだと思う。しかしそれをありのまま社外の人間に対して表現してよいということにはならない。僕のようにただただ不愉快な気分だけを残して面接を辞退するような応募者を出すのは、この会社にとっても望ましくない結果だと思うのだが。

面接の後味の悪さでは以上の2社がとびぬけて悪く、それ以外の会社はどこも非常に紳士・淑女的で気持ちの良い対応をして頂いた。新卒時代を含めて僕が今まで面接をうけた企業数は50社を下らないので、むしろこの2社だけがきわめて異常なのだと結論づけてもよいと思う。

また、配属予定先の面接官におとらず判断材料になるのが、人事部担当者の印象である。ややマイナスの印象が残っている面接としては、配属予定先の面接官と2人きりで面接をしていたら、人事部担当者が15分も遅れて会議室に入ってきた上に、居眠りをし始めたというのがあった。

面接官とひとしきり話が終わると、人事担当者はいつの間にか目を覚ましており、何事もなかったかのように人事的な質問を始めた。その人がたまたま居眠りの天才だったのかもしれないが、印象が良くないことは確かである。

別の会社では人事担当者が経営者のビジョンに対する共感を1時間近く熱っぽく語りつづけたこともあった。社員をここまでひきつける経営者もすごいものだと感心したが、逆に言うとそれだけ社長に心酔できなければ長く働けないという判断ができる。

人事担当者が自分の会社を誉めすぎるのは、おそらくほとんどの場合逆効果になると思う。そんなに良い会社ならばと気持ちを動かす受験者もいるだろうが、自分がいざ社員になったときに会社に対してそれだけの忠誠心を要求されるのだと考えた方がよい。

と、いろいろ分かったようなことを書いているが、就職が成功か失敗かなど極言すれば死ぬまで分からない。現時点でやりがいのある仕事ができればよいという人なら、一つの就職の失敗にはこだわらないだろうし、人生は仕事じゃないという人はそもそも社風がどうこうということなどどうでもいいだろう。


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