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教授を失望させた日銀
( 19990414 )

Japanese/English

今日(1999/04/14)の日本経済新聞の経済1面は面白かった。日銀総裁「ゼロ金利維持」の記事の真下に、クルーグマン教授「日銀の金融政策に失望」の囲み記事があったのだ。積極的な金融政策を支持する新ケインズ派のクルーグマン教授は、日銀が日本の実体経済の悪化に反応せず「模様ながめを決めこんでいる」ことに危機感を持っているようだ。

日銀と教授のどちらが正しいのか?困ったときにはマクロ経済学の基本にもどろう。手元にあるスティーグリッツの Principles Of Macroeconomics の314ページから What determines the Effectiveness of Monetary Policy? という節が始まっている。「金融政策の有効性を決めるのは何か?」

この個所には、名目金利が低い場合には(まさに今の日本の状況)、積極的な金融政策をとってマネーサプライを増加させても、それ以上、名目金利を引下げる効果は弱いと書いてある。名目金利引下げ効果が弱いということは、実質金利もあまり下がらないので、企業が安い金利でお金を借りて設備投資する気にならない。つまりは経済効果はあまり期待できないということになる。(ここで注意したいのは、マネーサプライは「名目」金利との関数だが、投資は「実質」金利との関数だという点)

特に不況下では悪い条件がそろってしまう。この教科書にもハッキリ書いてあるが、今の日本のようにひどい不況で物価が低くなる(デフレ)傾向が進むと、実質金利が高くなる。たとえば物価が年10%落ちたとすると(そんなに落ちたら大変だけど)、たとえ名目金利がゼロでも、実質金利は10%という理屈。

今の日本は「名目」金利が低いので、マネーサプライを増やしてもそれ以上「名目」金利は下がらない。その上デフレ下では「名目」金利をゼロにしても、「実質」金利はそれより高くなるので、企業はなおさら設備投資をしぶる。この節は、経済学者の間には次のようなコンセンサスがあると結論づけられている。「経済が深刻な不況下にあるときは、金融政策が経済を回復させる効果は比較的小さい」

大事なのはここからの考え方。金融政策はムダだからやめましょう、となるのか、だからこそもっと思いきった金融緩和政策で効果を出しましょう、となるのか。クルーグマン教授の立場は明らかに後者だ。

金融政策に実質的な効果はないとする立場をマネタリズムと呼ぶ。マネタリズムは保守派の経済論者の理論的背景になっていて、ケインズ主義者のクルーグマン教授と真っ向から対立する。アメリカは保守派の経済理論に沿ったマネタリズムの金融政策を取ったために1980年代初頭に深刻な不況に陥ってしまった。保守派の経済政策は明らかに破綻した。

この辺りの話は僕が今夢中で読んでいるクルーグマン教授の Peddling Prosperity というベストセラーに詳しい(翻訳の題名は『経済政策を売り歩く人々』だったと思う)。保守派の経済政策をメッタ斬りにしている他、ちょっとした米国の戦後史にもなっているので面白くてためになるお勧めの一冊。

さらに教授は日本企業に広まっている過剰設備の廃棄について、需要低迷を放置したままで設備廃棄を進めることの危険性を訴えている。需要が低迷しているから企業は生産設備の縮小を進める。すると総生産が減少するので総収入も減る(output = input は経済学の恒等式)。すると需要はなおさら低迷する...この悪循環が起こるというのだ。

ポイントは、供給側(企業側)の事情だけに目を奪われるてはダメですよということ。結局のところ企業は需要があって初めて新たな設備投資に踏み切るのであり、たとえ実質金利が下がろうと、銀行の貸し渋りが緩和されようと、企業は売れないものを作る気はさらさらないのだ。

ところが面白いことに、同じ日のマーケット総合2面『大機小機』には、1999年度は企業の設備投資が増加するぞ!と書かれている。その理由として(1)1998年度の設備投資の減少は銀行の貸し渋りという特殊事情のためだから、(2)昨年度までに膿出しがひととおり終わったので、今年度は企業収益が好転するから、(3)設備投資を長らく抑制してきたので、いいかげん新規投資しないと設備が古くて使い物にならなくないから、という3つを挙げている。

しかしクルーグマン教授の最後の警告を考え合わせると、この「大機小機」は根本的な間違のような気がしてくる。まず銀行の貸出し枠が増えても、需要が回復しないと投資意欲に結びつかないし、企業収益も好転しないのでは?それに古い設備は捨てたり売ったりして資産圧縮する企業がほとんどではないのか。現に同じ日の企業財務面で住友金属鉱山の社長はROA改善のために資産圧縮を進めると明言している。

つまり設備投資は供給側の都合だけで決まるのではなく、クルーグマン教授の言うようにもっと思いきった金融緩和政策で、需要も回復させる必要があるということだ。いずれにせよこうして突っ込んで読んでみると、日経は同じ日の紙面でも対立する意見が掲載されていてなかなか面白いねぇ。


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