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誤算巨大合併その後
( 20031015 )

Japanese/English

ご存知の方はご存知のように、2003/09/29付け米『Business Week』誌にダイムラーとクライスラーの合併は世紀の大失敗だったという記事が掲載され、その日本語訳が『日経ビジネス』2003/10/06号にも転載されたのだが、どうやら『Business Week』誌2003/10/20の「Readers Report」欄にそれに対する反響が3通届いているらしいことを同誌のWebサイトで知った。さすがに『日経ビジネス』も読者の反響まで転載はしないだろうと期待して、このページで3通の反響を紹介したい。

一通めはローマ在住のピーター・ホバートさん。「そのとおり。ダイムラークライスラーの合併は間違いでしたし、今でも間違っています。そして三菱自動車をその中に合併するというのはさらに悪い決定です。世界の自動車業界で何年も働いてきた米国中西部出身者として、私はすべての自動車会社をよく知っていると感じています。貴誌のすぐれた記事は動きのはげしい状況をひじょうによく伝えていましたが、いくつか触れられていない点があります。

これまでクライスラー製品を購入してきた人々は、一般的に技術指向で、愛国心の強い米国中西部の住民です。クライスラーはつねに卓越した国家的戦略企業で、ちょうどダイムラーと三菱がそれぞれドイツと日本でそうだったのと同じです(戦車、ミサイル、軍用車、極秘プロジェクト等)。まだその当時を覚えている人にとっては、いま敵が勝利をおさめたということになります。

ドイツ人はいまだに反米の敵対者と見なされますし、日本人は軍事力を誇る三菱マークをもっているのですから、なおさらそうです(真珠湾を攻撃したのは三菱の零戦でした)。このグローバリゼーションの時代に誰もそんな醜い思い出を掘り起こしたくはないでしょうが、ダイムラークライスラーのCEO、ユルゲン・シュレンプが無視したいと願っても、やはりそういった人たちは依然として存在するのです。

一般的に企業の合併はひじょうに難しいことですが、その生まれからして軍事的利害をもっている企業どうしはさらに難しくなります。米国の軍事力戦略のためには、米国にとってクライスラーのように強力な技術力をもつ企業が必要です。クライスラーは米国でもっともすぐれた技術をもつ企業にもどるべきでしょう。まだ遅くなければの話ですが...。」

以上がローマ在住の読者の意見だが、この期に及んで真珠湾の話を持ち出すとは何と時代錯誤な。しかし米国中西部の人たちはいまだに三菱マークを零戦と短絡的に結びつけるのだろうか。三菱自動車の製品は日本国内の販売がリコール隠以来落ち込んでいたのに対して、米国の販売実績は最近まで好調だった。第二次大戦のことなんてどうでもいい若年層をターゲットにしている限りは問題にならないと思うのだが、どうだろうか。

次はベルギー在住のタイラー・チャンバースさん。「合併ははじめからペテンでした。メルセデスはほんとうに対等な提携など決して考えていなかったのです。米国で自動車を購入する人たちは、メルセデスがクライスラーの先進的なデザインに見合う、目に見えた品質向上をもたらしてくれると思っています。しかしドイツ人はクライスラーの生産ラインのためには何もせずに、クライスラーの経営幹部を重要でない地位にしようとさかんに画策しています。これでは車が売れるわけがありません。」

次にノースカロライナ州在住のリチャード・カーランダーさん。「ダイムラークライスラーの合併が悲惨な状態だということにはまったく驚きません。クライスラーの製品は、見掛け倒しの職人気質と、細部への不注意、顧客無視の態度などの記録を延々と続けています。私は不運なジープ・グランドチェロキーの所有者で、いろんなところを修理するために20回以上さまざまなディーラーをたずねあるいています。シュレンプ氏とクライスラーグループのCEO、ディーター・ツェッチェ氏に手紙を書きましたが、満足の行く答えを得られていません。ほとんどの企業が品質管理と顧客に正しく対応することの重要性に気づいています。ダイムラークライスラーは単にそれができていないだけです。」

こうして読んでくると、二番目のチャンバースさんを除いて、わざわざ雑誌に反響を寄せる読者の常として、個人的な動機から非常に主観的な見解が書かれているようだ。もちろんクライスラーを米国の国策自動車メーカと見る人は皆無ではないだろうし、クライスラー製品の品質にうんざりさせられている顧客も少なからずいるだろう。しかし米国人が全員そうだというわけではない。不満な顧客がまったくいない消費財メーカなど原理的に存在しないのだから。

むしろ考える必要があるのは、このような少数派の顧客が『Business Week』の記事に対して思わず反響を寄せたくなる状況の方だ。このような状況を生み出しているのは、ダイムラークライスラーの経営陣に対するメディアやアナリスト、一般顧客の不信感である。その不信感をよく表現しているのがチャンバースさんの投書だ。チャンバースさんの意見そのものは憶測にすぎないとしても、そのような憶測の流布を許さないだけの十分な反証を与えていないのは、経営陣の責任である。

データに裏付けられた説得力のある説明が経営陣によってなされていれば、そもそも『Business Week』にあのような記事を書かせる余地を与えなかったはずだ。対外的なコミュニケーションにおける危機管理が不十分であるということになるだろう。


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