発生実績のあるコストをどう切りつめるかだけが、コストマネージメントではない。問題は、現状は「たまたまラッキー」で発生していないが、実際には定常的に発生しているはずのコストを発見することだ。
たとえば、部門Aが自前のクライアントサーバシステムを持っていて、「たまたまラッキー」なことに、部門Aにはパソコンにくわしいタナカ君がいるので、彼が日常業務のヒマをみつけてシステム管理を行っている。
業務が忙しいときには、システムの面倒を見ている暇もないが、今のところそれほど支障はないので、部門Aの部長はとくに問題とは考えていない。したがって、仮にシステム管理をアウトソーシングした場合のコストも、実績として発生していない。
このような部門Aの状況は、大きく分けて2つの深刻な問題を抱えている。
一つは、部門Aの部長が問題を認識していないのは、実際に問題がないからではなく、実際には発生しているのに、表面化していないだけであること。これは完全な事実誤認である。
もう一つは、部門Aの部長が「たまたまラッキー」という非常に不安定な状況をベースにして状況を認識していること。これは、1000万円の宝くじにたまたま当選した人物の年収を1000万円であると考えるのと同じくらい、馬鹿げたことである。
一つめの事実誤認は、目に見えるものしか見ることができないという、認識上の欠陥による。存在するものがすべて目に見えるわけではない。ちょっと哲学的な物言いになりすぎたが、見えないコストとは機会損失なのだから、実業人にもおなじみの概念のはずだ。なのにどうして、表面化していない問題を洞察することができないのか?
二つめの「たまたまラッキー」をベースにした現状認識は、まったくバブリーな発想で問題外である。
この2つの問題によって、部門Aはどのような潜在的なリスクを抱えているだろうか。
まず分かりやすいのは、タナカ君が異動になった場合、部門Aには他に「パソコンにくわしい人」(なんて曖昧な定義だろうか。こんなものに依拠した部門システム管理が仮にも「管理」といえるのか?)が存在しないから、システム運用が滞る可能性があるということ。これは100%発生するとは限らないが、可能性のある将来のリスクである。
ただ、これは大した問題ではない。ひょっとするとタナカ君は死ぬまで部門Aにとどまるかもしれない。タナカ君がシステム管理に歯が立たなくなる程度にボケるころには、別の「パソコンにくわしい人」が配属されている可能性もある。部門Aの部長は、企業家精神でもって、その投機的な可能性に自部門の未来を賭ける権利はあるわけだ(その前に部長本人がどこかへ異動になるかもしれない。それが栄転であることを心から望んでいるが)。
将来のリスクは、そのリスク自体が発生しない可能性もあるから、より重要度の少ない問題である、と言い換えることもできる。
しかし、リスクはタナカ君がしこしこシステム管理を行っている、その1秒1秒にも発生している。こちらは、目には見えないが、確実に現在発生している現在のリスクであり、れっきとした「コスト」である。
この現在のリスクには、まず、タナカ君の定常業務への影響がある。いくら片手間と言っても、変化の激しいコンピュータ業界の流れにつきあいながらシステム管理をこなすのは、自助努力が必要である。
ただこれはタナカ君が模範的な社員で、たとえシステム管理業務の負荷が増えてきても、文句も言わずに付き合ってくれればそれでいい。
より大きな問題は、素人がシステム管理を任されていることによって、部門Aの新たなシステム開発の根が絶たれてしまうことである。たとえ他部門から新システムの要請があったとしても、部門Aはそれに答えられない。むしろ、他部門が新システムの要望を出す根を、部門Aは知らぬ間にもとから絶ってしまっているのだ。
たしかに部門Aは、今クライアントサーバシステムのアプリケーション運用をアウトソーシングすることで、それだけのコスト負担することになる。しかし、それによってタナカ君は本来の業務に専念でき、新たなシステム開発に着手することもできる。
さらに、「たまたまラッキー」のような不安定なベースによらず、部門Aのアプリケーションを安定して運用でき、運用ノウハウを個人の資質にたよらず確実に継承していくことができる。もちろん最新技術の動向にも、部門Aとしては結果的にキャッチアップしつづけることができる。
さて、タナカ君がシステム管理をし続けるのと、アウトソーシングを選ぶのと、どちらが健全な経営だろうか?
タナカ君は部門Aにとっては、いわば覚醒剤の役割を果たしている。覚醒剤を打ち続ける限り、現状のシステムは活用されるが、その一方で部門のシステムは先細りになる。
アウトソーシングすればそれだけ疲れを感じることになるが、むしろ自分のほんとうの体力が明確になる分、その強化の方法も考えることができる。
見えないコストと見えるコストのトレードオフを、正しく判断できるかどうか、それが部門Aの部長の名誉回復の鍵になるだろう。
(だれがこんな2流パソコン雑誌みたいな記事書けって言ったんだ?)