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![]() 不平不満も転職理由のうち ( 20020820 ) 新卒で就職する場合と転職をする場合のいちばん大きな差は、転職の場合は自分自身に何が合って、何が合わないかが部分的に分かっているということだ。転職するということは辞める会社と自分自身に退職を決意させるだけの不一致があるということだ。それが「今の会社がイヤだから」という消極的な理由であれ、「もっとやりがいのある仕事をしたいから」という積極的な理由であれ、何かが合わなかったということだけは確かだ。 「何かが合わなかった」というのはつまり自分自身が会社で働くということについて何らかの理想像を頭に描いていて、それと現実に働いている会社の状況がズレているということになる。理想が高いのは良いことか悪いことかという議論は後述するとして、とくに何の理想もなく、ただ今の会社のある部分が気に食わないからという理由で転職を決意するのは最悪だ。 逆にいうと転職を決意するのであれば、その前に自分は一体どういう理由で辞めるのか、普通の人が十分納得できる程度の理由をちゃんと作り上げてから辞めるべきだ。できれば文章に書き下していつでも他人に説明できるようにしておくのが望ましい。 こういうことは市販の転職情報誌にもよく書いてあることだが、僕が思うのは転職情報誌に書いてあることはカッコよすぎるということだ。転職情報誌は会社を辞めるときは会社に対する不平不満を理由にしてはいけない、新しい仕事へキャリアアップする意志が理由でなければダメだと説く。つまり「プラスの理由でなければ転職は失敗する」ような書き方をしてある場合が多い。 しかし現実問題として勤めている会社に何の不平不満もないのに転職を決意する人は存在しないだろう。厳密に言えば、誰もがマイナスの理由とプラスの理由が混在した状態で転職を決断するのである。人によってマイナスの理由の部分が多かったり、プラスの理由の部分が多かったりする「程度の差」があるだけだ。 だとすれば転職情報誌のようなキレイごとは忘れて、自分自身が抱えているマイナスの理由についても、普通の人が納得できるような形にまとめて、いつでも説明できるようにしておくべきだろう。さらに僕としては今の会社に対する不平不満にこそ、転職を成功させるヒントが隠されているとまで主張したいところだ。 というのは、今の会社に対する不平不満から自分が思い描いている理想的な仕事や職場を描くことができるからだ。自分にとって今の会社の何が合わなかったのかを冷静に分析することで、自分が実力を発揮できるのはどのような環境なのかが分かってくるのだ。 この作業は比較的かんたんで、今の会社に対する不平不満を一つひとつ裏返しにして列挙すれば、自分にとって望ましい職場環境を描写できる。そしてその結果を客観的に眺めてみて「こんな理想的な会社どこにもないな」と思ったら、それは転職してはいけないというサインと解釈すべきだ。つまり自分がワガママすぎたということだ。 そうではなく「こんな会社ならどこかにありそうだ」という現実的な「理想像」が結果として出てきたら、そういう会社がないかどうか実際に探し始めてみるのもひとつの選択肢だ。 転職情報誌が「プラスの理由でなければ転職は失敗する」といったカッコいいことを書くのには、「会社に不平不満があるならまず自分でその問題を解決する努力をすべきだ」という理由が背景にある。しかし現実問題としてその問題が個人の発意で解決できる性質のものか、冷静な見極めが必要だろう。そうでなければ、とても個人の発意では解決できない「社風」という風車に立ち向かっていくドン・キホーテのような愚行をおかすだけになる。これはバカらしい。 そのリスクをおかしてまで歴史に名を残したい人はもちろん立ち向かえばよいが、多くの人は「仕事」に対してそれほど自分の人生を犠牲にしたいとは思わないだろうし、それだけのやる気がある人なら初めから被雇用者にならず、自営業で独立するか自ら起業しているだろう。被雇用者の立場で仕事をしている人は、現実的には原則として会社の方針をうけいれて仕事をしているのであり、会社と決定的に対立してまでその会社にしがみつくのは自己矛盾であるとさえ言える。 つまり会社に対する不平不満が会社の「社風」や「企業文化」に関わるものである場合、個人で改革に着手するのはまず不可能と考えるのが現実的だろう。業務の非効率や紙の書類が多いなどのテクニカルな問題であれば、問題の領域をしぼって対処療法的に解決することは個人の発意でもじゅうぶんに可能だが、それをやった後もなお残る問題というのは、多くの場合「社風」など長年その会社につちかわれた言語化不可能な部分であり、それを個人で改革しようというのはそもそも無茶な話なのだ。 だとすれば自分が望ましいと考える「社風」を頭に描いた上で、それにより近い「社風」を持っていそうな企業に転職する方が、一つの企業の中で疲弊して士気を下げてしまうよりはサラリーマンとしては良いやり方だという考え方もあるだろう。 さてそうなると問題の焦点は、自分にとってより望ましそうな会社が自分を採用してくれるかどうかに移ってくる。転職志願者にとって本当の意味でプラスの努力はここから始めればよいのだ。自分の抱いている理想に妥協がなければないだけ、自分自身の能力を高める努力にも妥協が許されなくなる。 転職を思い立つ理由は、別に会社に対する個人的な不平不満といったマイナスの理由でもぜんぜん構わないのだ。なぜなら最終的にその不平不満を解消し、より自身の理想に近い職場を手に入れるためには、自分自身で努力しなければならないからだ。 もし読者がいま転職を考えているとしたら、その動機が今の会社に対する不平不満であることを後ろめたく思う必要はない。むしろ不平不満を裏返しにした、自分にとっての「理想的な」職場で、自分はこういうかたちで実力を発揮できるのだということを売りにして、それを裏付けるだけの能力をつける努力をすればよいのではないだろうか。 無断転載禁止
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