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ITと経営の弁証法的探求
( 20020908 )

Japanese/English

前回のエッセーでふれたように一ユーザ企業の情報システム部門で、SEとしての能力を評価され、かつ、その企業で行われていたとあるシステム開発の問題点を正確に指摘できたことで、僕は必要以上の自信を抱いてプチバブル時代に突入することになる。が、そのプチバブルは次の勤務先のたった半年間で崩壊することになる。

僕が初めての転職で移った先は国内の大手コンピュータメーカだ。昔から国産のメインフレームメーカとして実績を積み上げてきて、外資を除けば国内の同業種の中でダウンサイジングの流れにもっとも適応してきた企業ではないかと考える。

僕が入社前に希望したのは経理知識を活かした業務システムの適用の仕事だったが、入社後、実際に配属されたのはERPパッケージの財務会計モジュールを売る仕事だった。プリセールスやコンサルティング・セールスと言えば体裁はよいが、要するに純然たるセールスマンである。当時の上司は僕をセールスマンにした覚えはないと反論するかもしれないが、当人からすればセールスマンとしてこき使われていた印象しか残っていない。

その証拠に半期毎の受注目標が金額と企業数で与えられ、それを達成しなければ業績給の部分が削られるという人事評価になっていた。ちなみにこの企業は現在、成果主義人事制度の見直しを進めているという。結果を重視しすぎたために容易に達成できる無難な目標を設定する社員が増え、成果主義が機能しなくなったためのようだ。

この人事制度ひとつとってみても企業文化の差異がよく現れている。「極端に走ってバランスを欠く」というのがこの企業の特徴である。たしかに時代の変化に適応するという意味で「拙速」は一つの手法だが、もともと緻密さを欠く業務の品質をさらに下げる口実になる一面もあり、結果として後から相当な軌道修正を迫られる。この企業は業務の進め方や組織がもともと比較的ルーズなので、結果至上主義の導入は弊害の方が大きかったのではないか。

逆に僕が最初に働いていた企業はバランス感覚の鋭敏な社員が大多数を占めているため、時代の変化に適応するのにやや時間がかかるという特徴をもっていたように思う。「拙速」の正反対で、慎重すぎて物事が進捗しないという短所が顕著だった。

さて、ERPセールスマンとしての僕は関東地方を中心に南は長崎から北は宇都宮まで、さまざまな業種の企業に赴いて製品のデモンストレーションを行った。この経験から学んだのはまさに企業文化の多様性である。

同社のERPはBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)や経営改革の道具としての活用を期待されていたため、製品紹介のプレゼンテーションは経営の根本的な改革の提案にふれることになる。このような内容のプレゼンテーションに対する反応には、顧客企業の経営改革に対する姿勢を露呈させるのである。

ある企業はこちらから経営改革の提案をするまでもなく、すでに練り上げてある改革の方向性にこの製品が妥当するかを検証するためにこちらの提案を聞いていた。もっと戦略の明確な企業はこちらがプレゼンを用意する以前に入札形式でRFP(Request for Proposal)をいきなり提示してくる場合もあった。これらの企業はなるほど名の通った大企業として着実に業績回復していたり、安定した業績を維持していたりする。

正反対のタイプの企業は「おたくはウチのことをよくご存じだから...」というスタンスである。経営改革に関する提案にはまったく耳を貸さず、情報システム部門の担当者が長い取引実績があるというだけでこちらのソリューションを選択し、あとは価格交渉でできるだけ安く買おうという方法をとる。顧客のロイヤルティーが高いというのは、必ずしもその顧客にとって良いこととは言えないようだ。

こうした企業はどれだけ自分のわがままを安く聞いてくれるかという観点からのみSIベンダーを選択し、そのソリューションが全社の経営方針に合致しているかなど考えもしない。こうした企業には同族・オーナ企業、創業は古いが業績が低迷したままの企業、経営者が情報システムにまったく無関心な企業が多かった。

自分の受注高目標など忘れて、不謹慎ながら客観的な目で顧客企業の対応を見ていると、経営戦略が明確で情報システム部門にもそれが徹底されている企業と、古い体質を温存して明らかに身動きがとれなくなっているのにそれを頑として変革しようとしない企業とでは明らかな差異があった。ここまでの開きがあると「日本企業」というくくりはまったく意味をなさないほどだ。

ただ自分が単なるセールスマンとして受注目標に縛られ、本来の自分のテーマであるシステム適用に取り組めない状況を放置するわけには行かなかったので、僕は半年強でそのコンピュータメーカに見切りをつけることにした。セールスマンとして多数の顧客企業の実態を知るという経験にそれなりの意味はあったが、SE、あるいはITコンサルタントとしてこの企業での半年間はほとんど無意味だったと言える。

ベンダー企業に在籍することの最大の欠点は、売上や受注などの収益目標に縛られるということだ。収益目標に縛られるということは、ときに顧客にとって何が本当に良いのかを無視して、数字の達成に走る必要があるということだ。

顧客のロイヤルティーが高いというのは、顧客にとってもベンダーにとっても必ずしもよい結果をもたらさない。上述のように「おたくはウチのことをよく知っているから」とすりよってくる顧客は、ベンダーにとっては継続的な売上をもたらす優良顧客かもしれないが、こちらの提供するソリューションは経営上の問題点を温存する結果になってしまう。僕としてはそれが納得できなかった。

今から考えればそんな当たり前のことを、僕はベンダー企業に入って初めて実感できた。そしてユーザ企業の社内情報システム部門にもどることに決めた。

ユーザ企業の社内情報システム部門であれば、社内の利用者に嫌われても「あるべき」情報システムと経営の関係を追求することができる。経営戦略と整合性が取れている限り、利用者に嫌われたとしても社内情報システム部門は仕事を失うことはないからだ。

経営改革と情報システムの整合性というテーマに取り組むには、僕にとっては社内情報システム部門の方が適している。ベンダーでの経験から僕はそう確信した。こうして僕的にプチバブルな、そして無為な半年間は大きな負の教訓を残して幕を閉じた。


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