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新卒時代の就職戦線
( 20020901 )

Japanese/English

今回のエッセーでは僕自身の転職体験について書いてみたい。ただし当然ながらそれを模範として提示するわけではない。唯一の正しい会社員生活などどこにもない。読者が下記に書かれたことから何らかの「教訓」を引き出して頂ければと思う。なお、事実そのままでは関係者に不都合を生じるので、本質を残してかなり脚色されていると考えて頂きたい。

大学を卒業して最初に就職したのは一部上場の電機メーカだ。僕は文系出身だが大学に残って現代思想の研究を続けるつもりだった。しかし現実には書物と一対一で向き合う孤独な研究生活に耐える自信がなくなったこと、研究生活を送れるほど経済的に豊かでなかったことを理由に就職することにした。就職は一つの妥協だったわけだ。

そうしたことから学生時代、会社員としてどのような仕事をするかまったく考えなかった。唯一の手がかりは中学一年生以来、趣味として続けていたパソコンだ。しかしその技術も中途半端で、Visual Basicで簡単なプログラムを書くぐらいはできたが、関係データベースやネットワークなどの関連知識は皆無、C言語も中級レベルで理系の技術者に互して仕事をすることなどできそうになかった。

また純然たる文学系の勉強をしていたために、会計・税務など実務に役立つ知識はおろか、法学や経済学の基礎的な知識もなかった。会社員として売り込めるスキルは皆無だったと言ってよい。

結果として僕は職種を限定できないまま、就職ではなく「就社」の観点から会社選びを始めた。何の方針もなかったので有名な一部上場企業に手当たりしだい資料請求のハガキを送ることになった。ただし無差別に企業と接触すると際限がないので、多少なりともパソコンに関係のある業種、具体的には電機メーカ、通信関連、SI事業者などを選んだ。

さいわい接触した会社はすべてOBとの一次面接を受験できた。合計で20社は確実に超えたと思う。バブル崩壊後、就職戦線は完全な買い手市場で活動する側の立場として相当な危機感を抱いていた。ハガキを出した数割でも反応があればまだましと予想していたが、結果は予想外だった。

OBとの一次面接はご存じのように企業側から見れば人物評価が目的で、先輩相手にほとんど雑談といった内容だ。二次面接は中堅レベルのOB。職種に直結する話題は少なく、あくまでこちらの「素材」としての質を見極められているようだった。

面接を進める中で会社員としての自分が何をすべきか、おぼろげながら方向性が見えてきた。それは経理職だ。僕の身内には自営業者が多いため、そもそも会社員というものが日常的にどのような仕事をしているか具体的なイメージがなかったのだが、各社のOBからいろいろな話を聞くにつれて、事務系では経理がもっともパソコンのスキルを要求することが分かってきた。

方針が見えてくると自然に経理について勉強する意欲がわいてくる。何の準備もないまま入社していきなり経理実務を始めるのはさすがに不安があった。書店で簿記会計の入門書、日商簿記3級の参考書などを購入し、財務会計の勉強を始めた。就職活動中の勉強をスキルとして売りこめるわけではない。飽くまで社会人になる準備としての勉強だった。

最終的に一部上場の電機メーカーを選択した理由は、正直に告白すればOBに比率が多く、彼らの印象がよかったことである。まだ社会に出たことのない学生が判断するのだから、それ以外に材料がなかった。

いまふり返ると個々の会社に関する情報源が面接官との対話に限定されているなかで、自分に最適な会社を選択するのはどう考えても無理がある。最近ではインターンシップ制度など新卒学生の定着率を高める努力がなされているが、それでも社会経験のない学生がたった数か月でその会社の社風までを識別することは不可能だ。

本当に新卒学生の定着率を上げたいのなら、少なくとも学生時代に職種だけはしぼれるような専門教育をすませておくべきだろう。しかし個人的に大学は理系は基礎理論、文系は広範な教養を教えるべき場だと考えるので、学生時代に職種をしぼるのは無理である。

むしろ最初の就職先がミスマッチになるのは「当然」というくらいに考えて、社会人3〜4年生の中途採用市場を活性化するのが望ましいのではないか。大学時代に中途半端な専門教育やインターンシップ制度を導入するよりは、実際に社会に出た後での反省を次の職場に活かすという仕組みにする方が、企業側にとっても合理的だと思われる。

いま企業は新入社員に対して定年までの在籍を前提とした長期間の教育研修を行うが、入社3〜4年で転職を考えることが普通になれば、職種によって即戦力化を目的とした短期間の研修など、一律の研修制度にも多様性が出てくるのではないだろうか。


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