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![]() 「禁じ手」もムダ? ( 19990207 ) この「サラリーマンを考える」は、本来は僕がサラリーマン生活で感じた違和感をねちっこく分析するコーナーだが、たまにはモロに経済学的な議論もいいでしょう、ということで今回は話題の「日銀国債引受」について、続報。 なにが続報なのかと言えば、「愛と苦悩の日記」に日銀による国債引受と「買いオペ」の違いがわからん!と書いたら、さっそくこのページの読者の方からメールを頂いたのだ。さすがこのページの読者の知的レベルの高さ!「読者からの感想」ページでもご紹介したことのある「元会社員Tさん」からだ。 Tさんによれば「買いオペ」とは、銀行間の短期金融市場でおこなわれる現先取引のこと(こう書いても全然わけがわからないだろうけど、ちゃんと説明するから安心して。僕もいろいろ調べながらこれを書いてるんだ)。 銀行間市場とは主な金融機関と証券会社がおたがいに資金を融通しあうための金融市場で、「買いオペ」とは日銀がそこで債権を買い取ることだが、一定期間後に一定価格で売り戻すことを条件にする。 ここで注意したいのは、債権や株券には「発行市場」と「売買市場(流通市場)」の区別があるということだ(日経文庫『金融の知識』参照)。「発行市場」とは、企業や政府が株券や債権を新規に発行するとき、その買い入れ希望者を募集する市場。一方、「売買市場」とは、そうやってすでに誰かが買い入れた債券が、また他の誰かに売られたりする市場のことだ。 「買いオペ」の話にもどると、日銀による短期金融市場での「買いオペ」は、「売買市場」での話しだ。つまりすでに金融機関が引受けている債権を日銀が買い取る。ここで、元会社員Tさんのメールにしたがって、「買いオペ」の影響を、マネーサプライに対する影響と、金利に与える影響に分けて考えてみよう。 まずマネーサプライに与える影響は、あまり期待できない。なぜなら、たしかに債権を日銀に買い取ってもらった銀行はベースマネーが増えて、貸出余力は増える。だからといって必ず銀行が貸し出しを増やすとは限らない。これは「ご存知のように」(僕もこれは知っていたが)自己資本比率規制があるからだ。 では、金利に与える影響はどうなのか。ちょっと考えると、買いオペは短期金融市場の公開市場操作(=オペレーション)であり、しかも一定期間後に売り戻す条件での買い取りなので、短期金利は低めに誘導できるが、長期金利にはあまり影響を与えない、と思いがちだ。 しかし、Tさんは、日銀が継続的に買いオペを行えば、長期債権の需要を増加させ、長期金利をも低めに誘導できる可能性があるという。現に、日本経済新聞1999年2月6日の5面「浮上する禁じ手(下)」で、日銀OBの間に「買いオペ増容認論」が出ているとのこと。 「買いオペでも長期金利を下げられる」という、テレビ東京『ワールド・ビジネス・サテライト』のコメンテーターの発言は、たぶん以上のような論拠があったのだと思う。つまり、単発の買いオペではダメだが、継続して買いオペをやれば長期金利にも効いてくるということだ。 さて、では問題の「日銀による国債引受」とはなんだろうか。まずさっきの「発行市場」と「売買市場(流通市場)」の区別に戻れば、「日銀による国債引受」は、買いオペのような「売買市場」での話ではなく、「発行市場」での話だということ。つまり、はじめから日銀に引受けてもらうという前提で、政府が新規に国債を発行することだ。 では「日銀による国債引受」についても、マネーサプライに与える影響と、金利に与える影響を分けて考えてみよう。 まずマネーサプライに与える影響について。元会社員Tさんのメールによれば、ふつう新規に発行された国債は民間(企業などの投資家[一般の人もふくむ])に買い取られる。なので、その分の現金が政府のふところにながれこむことになり、マネーサプライはいったん減少する。そして政府はこうして得た資金で財政政策(公共事業とか)を行うことで、このお金はふたたび市中へもどっていく。つまりマネーサプライが増加する。中長期的に見れば、マネーサプライはいったん減ってすぐ増えるので、プラス・マイナス・ゼロ。つまりふつうの国債発行の場合は、マネーサプライに対する影響はない。 しかし「日銀による国債引受」の場合は話が別だ。新規に発行された国債を日銀が買い取るので、政府にその分の現金が流れ込む。しかしこの現金は日銀から来たのであって、市中から来たものではないから、市中のマネーサプライは減らない。そして政府はこうして得た資金で財政政策を行い、このお金を市中に流し込む。ここでマネーサプライが増える。先ほどのふつうの国債発行の場合は、いったん減って、また増えるので±ゼロだが、「日銀による国債引受」の場合は、いったん減らずに、増えるだけなので、市中のマネーサプライが純増する(もちろんこれは、日銀が引受けた国債を市場で売りに出さず、買い切ってしまうという前提だ)。 要は、いったん政府のふところを通過するけれど、日銀が政府の信用だけでお札を余計に刷っているのと同じことになる。だから「禁じ手」と言われるのだろうと思う。 話をもどして、今度は「日銀による国債引受」の金利への影響だが、これは話が簡単。国債の需要・供給バランスを考えたとき、政府が国債を発行して供給が増加するのと同じ額だけ、日銀が国債に対する需要を作り出すので、国債の価格は影響を受けない。だから日銀による国債引受は金利を上げずに、マネーサプライだけを増やすことができる。 しかし、Tさんによれば、「日銀による国債引受」は日本政府と日本銀行の格付けの引き下げ要因になるだろうということだ。格付けの引き下げということは、たぶん別のかたちでの金利上昇懸念が出てくるということだろう(たとえば国際金融市場でのジャパン・プレミアムの上昇とか?これはちょっと自信ありません。間違ってたらご指摘ください)。 しかも、上記の日経新聞のコラムによれば、市場の反応は逆になっているという。2月4日に日銀総裁が「国債引受けはやらない!」と言ったところ、国債の金利は低下したという。 もし市場が国債引受による金利低下を期待していたのなら、日銀総裁の発言にがっかりして国債を売り、金利は上昇するか、少なくとも変化しないはずだ。ところが市場は日銀総裁の発言にホッと安心して、国債を買い戻し、結果として金利が低下した。 その理由は、日銀がいったん引受けを始めると、国債の増発に歯止めが利かなくなると市場は思っているからだという。要は、市場は日本政府の財政政策を信用していないのだ。日本政府が「節度のある」国債発行などできるはずがないと思っている。だから市場が理論とは逆の反応を示すのだという。 そうなると、ルービン財務長官やMITのクルーグマン教授(上記のコラムにもこの日銀引受論者として名前が登場する)がいくら言ってもムダだということになる。 ってことは、いったい日本はデフレ克服のために何ができるっていうの...? 無断転載禁止
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