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反トラストの経済学
( 19980531 )

Japanese/English

英エコノミスト誌にちょっとおもしろい記事をみつけたので、自分で理解を深めるついでにここにまとめてみる(掲載号は1998年5月2〜8日号)。

記事のタイトルは「反トラストの経済学」で、今コンピュータ関係者の間で議論になっている米司法省によるマイクロソフト提訴について、じゃあいったい、経済学的にトラスト状態かどうかを判断する基準は何か?という根本的な疑問に答える記事になっている。

たしかに言われてみれば、マイクロソフトはソフトウェア業界で独占的な地位を占めているといったとき、それが合法か非合法か、その線引きはいったいどうやってなされているのか、肝心な点に傍観者である僕らは無関心である。

歴史的にアメリカにおける反トラスト法訴訟がよりどころとしてきた基準は、「ある企業が価格支配力を行使しているかどうか、つまり、競争が許す価格よりも高い価格を設定することができるかどうか」にかかっているらしい。これを定量的に測定する方法として、「ハーフィンダール=ハーシュマン指数」というものがあるということだ。

ううっ。僕は経済学についてはまったくの素人なので、こんな長ったらしい名前の指数は初耳なのだが、どうやらある市場に参入している全ての企業のマーケットシェアの平方の和によってこの「ハーフィンダール=ハーシュマン指数」は計算できるらしい。この指数が低いときは、競争原理が正常に働いており、逆に高いときには独占市場に近いことの警告である。

これはとってもシンプル。たとえばマーケットシェア50%の企業が2社なら、0.5×0.5+0.5×0.5=0.5。また、マーケットシェア5%の企業が20社なら、0.05。後者の市場より、前者の市場の方が独占に近い。当たり前だっちゅぅーの。

ところが、この「ハーフィンダール=ハーシュマン指数」にはシンプルさという長所の影に、(1)対象とする市場の限定が困難、(2)この指数と価格支配力の関連が不明確、という2つの欠点がある。

前者の例としてあげられているのは、現在、英国航空とアメリカン・エアラインズの提携が反トラスト法にひっかかるかどうかの調査で、当事者の2企業は米=ヨーロッパ間の路線に市場を限定してシェアは低いと弁護するのに対して、EUは米=英間というさらに狭い市場で、この提携がとんでもない独占状態を形成すると反論している。このように、市場をどの範囲と見るかで、この指数は大きくちがった結果を導き出す。

後者の例としては、アメリカの清涼飲料水市場は、コカコーラとペプシコが75%のシェアをにぎり、「ハーフィンダール=ハーシュマン指数」はとんでもなく高いのに、激しい価格競争が行われているという事実があげられている。

で、こんなあてにならない指数に見切りをつけて、最近の経済学者は別の方法を取りはじめているらしい。それは、独占状態のモデルを、コンピュータ上でシミュレートしてしまうという、最新のテクノロジーを応用した方法だ。これを可能にした条件として、同誌はデスクトップPCの飛躍的な発展と、「小売店のレジのスキャナー」(僕はPOSシステムのことだと思うのですが...)の2つをあげている。

つまり、無数の商品の日々の売上データをすべて電子データとして集めてきて、それをコンピュータで処理してやれば、たとえばある2つの企業が合併した後に市場がどれほど独占状態になるかを、かなり正確にシミュレートできるということだ。

同誌によれば、この手法が最初に応用されたのが1995年、米3位のパン小売点インターステート・ベーカリーズが、その競争相手のコンティネンタル・ベーキングを買収しようと持ちかけたときだという。伝統的な「ハーフィンダール=ハーシュマン指数」手法では、まず、小麦パン市場とライ麦パン市場は別物と考えるか同じ市場の部分と考えるか、という議論から始めなければいけなかったけれど、米司法省は毎週の小売POSデータを収集することから始めたという。その結果、2社の競合する地域の小売価格が、競合しない地域よりも低くなっていることが実証され、米司法省はこの買収にストップをかけた。買収すれば競合がなくなり、この2社は価格を釣り上げることができるからだ。

こうした新しいスタンスは、どうやら1970年代から80年代にシカゴ大学の経済学派に起源をもつらしい。その学派の原理は2つ、(1)政府は規模ではなく、価格支配力だけをチェックすべきだ。(2)かりに企業が価格支配力を持ったとしても、それは一時的なものだ。なぜなら(価格支配力は)新規参入企業を引きつけるから。

この発想からすると、米司法省はあまり合併や買収に介入しない方がいいことになる。たとえ価格支配力を持つ企業が登場しても、新規参入によってそのうまみはすぐになくなるからだ。じっさい、このシカゴ学派の絶大な影響によって、80年代には米司法省は反トラスト訴訟にあまり積極的でなかったという。

ところが、この同じ理屈が、今や逆にアメリカやイギリスの司法当局が積極的に買収や合併に介入する後ろ盾になっている。その鍵は、市場のcontestabilityという概念にあるのだ。シカゴ学派のバックボーンである「contestableな市場」という概念には、じつは致命的な限界があった!!

というわけで、ここでおしまい。これ以上英エコノミスト誌からの引用を続けると、引用しすぎだと叱られてしまうので、続きをどうしても読みたいという方は、図書館へお出かけの上、上掲の号の66ページからをご参照ください。エコノミストは、セクシスト(女性差別的)な記事もたくさんあってときどきはらわた煮えくり返りますが、隅々まで読むと意外におもしろい記事が隠れていたりして、お買い得ですね(お前は英エコノミストの回し者かぁっ!)。


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