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「流行」は悪か?
( 19980822 )

Japanese/English

ビジネス誌を読んでいたら、ある大企業の社長が「会社経営は『流行』でするものではない。だからウチは取締役会の改革はやらない」と言い切っていた。

この社長の言葉はおそらく、「一国の主たるもの、時勢によってコロコロと変化する『流行』などに惑わされず、信念にもとづいて行動すべきだ」という主旨であり、一見、誠実そのものであるように読める。

しかし僕はあえて問いたい。「流行」は悪だろうか?

僕の答えはNo。「流行」とは市場の声に他ならないからだ。僕にすればこの社長は「マーケット無視の経営」を高らかに宣言しているようにしか見えない。

ソニーを皮切りに、日本でも執行役員制を導入する企業が増加している。執行役員制導入の目的は、業務の監督機能と執行機能を分離することで、取締役の経営責任を明確にすることである。もちろん、総会屋への利益供与、会社を私物化した散漫経営など、日本的経営の負の遺産を断ち切る努力のひとつであろう。

ソニーがいち早くこの制度を導入したのは、外国人株主の比率が高いこともあるだろうが、これを「流行」の一言で断ずるにしても、「流行」こそまさに市場の声であることには違いない。

しかし日本では、「初志貫徹」が無条件によしとされる精神がまだ根強い。

個人的な例をあげると、僕は最近、仕事の上で自分の主張を180度ひっくりかえす必要にせまられた。状況を考えるとそうするより他なかったからだ。ところがそのおかげで、僕個人の信頼は損なわれたようである。

このページの「愛と苦悩の日記」にも一度書いたことがあるが、ビジネスは所詮ゲームであって、絶対的な真理を追求する哲学的な場ではない。その場そのときに応じて最適な行動を取ることがすべてなのだ。

「総会屋対策」はかつては必要悪だったが、今は絶対悪である。逆に「内部告発」はかつては絶対悪だったが、今は必要悪である。このように時代とともに変化する市場によって、企業の行動に関する価値観も変化する。

そうした価値観や状況の変化を無視して「初志貫徹」することは、いさぎよくもなんともない。単なる頑迷である。にもかかわらず、古風なな日本企業ほど、日本的経営の「初志を貫徹」することを美徳とする考えに凝り固まっている。

とくに僕のかかわっている情報システム業界はドッグ・イヤーである。全社的な情報システム構築の指針も、すくなくとも2年に一度は見直すべきであり、それ以前の評価結果や方針にこだわることは会社にとって命取りになりかねない。

しかしそんな情報システム業界にも「初志貫徹」を無条件に善しとする風土は根強く、これと決めた道に突き進むことを正しいと信じて疑わない人間が、とくに中間管理職層に多く見られる。

たとえば、そんな企業が「顧客満足」や「マーケット・イン」をうたい上げて説得力があるだろうか?「マーケット・イン」とは、コロコロ変わる市場の要請にリアルタイムに答えていくことであり、そのために組織をフラットなものに改革することであるはずだ。

数年前の経営判断にこだわって時代の変化に答えられない企業が、いくら市場指向をうたっても、僕ら消費者は納得しない。そもそも僕らは、頑固さゆえに内外の信頼を失った政府にうんざりしているところだ。そんな消費者が頑迷な企業を見ぬけないわけがない。

「流行」とは僕ら消費者の意思表示である。それを無視する企業は、顧客を軽んじた罰をうけて、やがて市場という舞台を降りざるを得なくなるかもしれない。


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