ブログ「愛と苦悩の日記」で、日本青少年研究所の「高校生の友人関係と生活意識−日本・アメリカ・中国・韓国の4ヶ国比較−」という調査結果について、誤った結果分析がひとり歩きしていることに警鐘をならしたが、じつはその後に日本経済新聞朝刊の社会面を読んだ。
日本経済新聞も誤った結果分析をやらかして「『希望の大学に入りたい』日本の高校生、最低の29%」と特大の見出しを打っている。しかも京都大経済研究所教授や、かの教育評論家・尾木直樹氏のコメントまでとって、その間違った結果分析を補強している始末だ。
ここで、問題になっている調査の「問8 あなたは現在、大事にしていることは何ですか?」の回答結果をあらためて分析してみよう。下記は日本青少年研究所のWebサイトにある「単純集計結果」からの引用に、選択率の合計と、1人あたりの選択数、選択率の合計で各選択肢の回答率を割りもどした数値(「率」という各列の数値)を僕が追加した表だ。
| 選択肢 | 日本 | 率 | 米国 | 率 | 中国 | 率 | 韓国 | 率 |
| 1 希望の大学に入学すること | 29.3 | 9.6 | 53.8 | 8.9 | 76.4 | 13.0 | 78.0 | 14.1 |
| 2 成績がよくなること | 33.2 | 10.8 | 74.3 | 12.3 | 75.8 | 12.9 | 73.8 | 13.3 |
| 3 自分の趣味や特徴を生かすこと | 30.0 | 9.8 | 39.7 | 6.6 | 45.9 | 7.8 | 47.0 | 8.5 |
| 4 何か特技をもつこと | 22.9 | 7.5 | 26.2 | 4.3 | 46.6 | 7.9 | 43.8 | 7.9 |
| 5 友人関係がうまくいくこと | 39.8 | 13.0 | 66.7 | 11.1 | 52.8 | 9.0 | 44.3 | 8.0 |
| 6 自分で自分の道を決めること | 28.1 | 9.2 | 49.3 | 8.2 | 39.9 | 6.8 | 67.4 | 12.2 |
| 7 好きな異性と仲良くできること | 17.9 | 5.8 | 46.2 | 7.7 | 27.7 | 4.7 | 33.6 | 6.1 |
| 8 クラスの人気ものになること | 4.9 | 1.6 | 10.0 | 1.7 | 19.0 | 3.2 | 12.4 | 2.2 |
| 9 親に自分のことをわかってもらうこと | 7.9 | 2.6 | 36.5 | 6.0 | 38.4 | 6.5 | 25.6 | 4.6 |
| 10 先生に理解されること | 5.6 | 1.8 | 15.4 | 2.6 | 26.7 | 4.5 | 10.2 | 1.8 |
| 11 思い切り遊んだり、好きなことをしたりする | 34.6 | 11.3 | 42.7 | 7.1 | 39.4 | 6.7 | 51.7 | 9.3 |
| 12 家族が仲良くすること | 13.8 | 4.5 | 57.7 | 9.6 | 42.0 | 7.1 | 35.2 | 6.4 |
| 13 社会に貢献できることを見つける事 | 10.1 | 3.3 | 19.3 | 3.2 | 28.4 | 4.8 | 12.2 | 2.2 |
| 14 部活や競技などで活躍すること | 19.6 | 6.4 | 32.7 | 5.4 | 17.9 | 3.0 | 15.2 | 2.7 |
| 15 その他 | 4.8 | 1.6 | 32.2 | 5.3 | 8.9 | 1.5 | 2.7 | 0.5 |
| 16 特にない | 3.7 | 1.2 | 0.8 | 0.1 | 1.8 | 0.3 | 1.1 | 0.2 |
| 選択率合計(複数回答のため100%を超える) | 306.2 | 100.0 | 603.5 | 100.0 | 587.6 | 100.0 | 554.2 | 100.0 |
| 回答者1人あたりの選択数 | 3.1 | 6.0 | 5.9 | 5.5 |
この表の「希望の大学に入学すること」という選択肢で、日本人高校生の回答率が低く見えるのは、単に日本人高校生が他の3国の高校生とくらべて、この設問に興味がなかったというだけのことである。「回答者1人あたりの選択数」の行をご覧いただければ、日本人高校生が他の3国の高校生の半分の選択肢にしか丸をつけていないことがわかる。
その証拠に、たとえば同じ調査で、同様に複数回答を許している設問「問7 今、あなたは何か悩みをもっていますか?」では、回答者1人あたりの選択数は、日本 3.0、米国 2.8、中国 3.7、韓国 4.4と、問8ほど国別の選択数に開きがない。同様に「問9 あなたは、どのタイプの生徒になりたいと思いますか」では、日本 4.6、米国 5.7、中国 7.5、韓国 6.7と、中国の選択数が多くなっている。
設問によって各国の高校生は興味を示したり示さなかったりで、その結果、1人あたり平均いくつ丸をつけたかがばらついている。まずこのばらつきを除外しなければ正確な比較はできるはずがない。
したがって、上の表の正しい分析結果は「日本人高校生は『あなたは現在、大事にしていることは何ですか?』という設問に対して、他国の半分の興味しか示さなかった」ということである。日本経済新聞が書いているように「日本人高校生は『希望の大学に入学すること』に関心がない」と結論づけ、それを大見出しにするのは間違いだ。
たしかに、設問そのものに興味がないということと、その設問の個々の選択肢に興味がないということの間には一定の相関関係があるが、その選択結果の実数(例えば日本の29.3)をそのままとりあげて他国の数値と比較するのは明らかな間違いである。国どうしの比較をするなら、まず1人あたりの選択数による影響を除外する必要がある。
そういうわけで、この表を正しく分析するために「率」の列だけを活かし、その最大値と最小値に2倍以上のひらきがある部分を色づけしてみよう。それが下の表だ。ただし、そもそも回答率が4か国すべてで5%を割っているような選択肢(つまり、どの国の高校生もほとんど「無視」した選択肢)は考慮に入れないこととする。
| 選択肢 | 日本 | 米国 | 中国 | 韓国 | 最大値(A) | 最小値(B) | (A)/(B) |
| 1 希望の大学に入学すること | 9.6 | 8.9 | 13.0 | 14.1 | 14.1 | 8.9 | 1.6 |
| 2 成績がよくなること | 10.8 | 12.3 | 12.9 | 13.3 | 13.3 | 10.8 | 1.2 |
| 3 自分の趣味や特徴を生かすこと | 9.8 | 6.6 | 7.8 | 8.5 | 9.8 | 6.6 | 1.5 |
| 4 何か特技をもつこと | 7.5 | 4.3 | 7.9 | 7.9 | 7.9 | 4.3 | 1.8 |
| 5 友人関係がうまくいくこと | 13.0 | 11.1 | 9.0 | 8.0 | 13.0 | 8.0 | 1.6 |
| 6 自分で自分の道を決めること | 9.2 | 8.2 | 6.8 | 12.2 | 12.2 | 6.8 | 1.8 |
| 7 好きな異性と仲良くできること | 5.8 | 7.7 | 4.7 | 6.1 | 7.7 | 4.7 | 1.6 |
| 8 クラスの人気ものになること | 1.6 | 1.7 | 3.2 | 2.2 | 3.2 | 1.6 | 2.0 |
| 9 親に自分のことをわかってもらうこと | 2.6 | 6.0 | 6.5 | 4.6 | 6.5 | 2.6 | 2.5 |
| 10 先生に理解されること | 1.8 | 2.6 | 4.5 | 1.8 | 4.5 | 1.8 | 2.5 |
| 11 思い切り遊んだり、好きなことをしたりする | 11.3 | 7.1 | 6.7 | 9.3 | 11.3 | 6.7 | 1.7 |
| 12 家族が仲良くすること | 4.5 | 9.6 | 7.1 | 6.4 | 9.6 | 4.5 | 2.1 |
| 13 社会に貢献できることを見つける事 | 3.3 | 3.2 | 4.8 | 2.2 | 4.8 | 2.2 | 2.2 |
| 14 部活や競技などで活躍すること | 6.4 | 5.4 | 3.0 | 2.7 | 6.4 | 2.7 | 2.3 |
| 15 その他 | 1.6 | 5.3 | 1.5 | 0.5 | 5.3 | 0.5 | 11.0 |
| 16 特にない | 1.2 | 0.1 | 0.3 | 0.2 | 1.2 | 0.1 | 9.1 |
この表を見ると、各国間で本当に差が出ているのは、選択肢の9、12、14であることが分かる。つまり「愛と苦悩の日記」にも書いたように、むしろこの表から分析できるのは、日本の高校生が親や家族との関係を「大事にしていない」ということなのである。
この表で、日本経済新聞がでかでかと見出しに掲げていた「希望の大学に入学すること」を見ると、むしろ米国の高校生の方が「大事にしていない」ことがわかる。米国の高校生も日本の高校生も、「希望の大学に入学すること」より「成績がよくなること」を重視し、「友人関係がうまくいくこと」を重視している点では、よく似ているとさえ言える。それに対して、中国と韓国の高校生はともに、希望の大学への入学を、成績がよくなることと同程度に大事にしているようだ。
日本と韓国の高校生が似ている点は、「思い切り遊んだり、好きなことをしたりする」ことをかなり大事にしている点だろう。「自分で自分の道を決めること」という選択肢で、中国の高校生だけが低くなっている点も興味深い。
...という具合に、今回は、日本経済新聞朝刊の社会面に大嘘が書いてあったというエッセーだった。