今回のロンドン・パリ滞在ではWaterloo駅からEurostarに乗って海峡をわたりフランスに入ったわけだが、その過程でロンドン郊外とパリ郊外の風景が明らかに異なることに気づく。
ロンドンの都心から離れるにつれてケン・ローチの映画に出てきそうなすすけた感じの集合住宅があらわれる。建築規制でもあるのか、窓枠が白く塗られている以外は裏庭つきの一軒家も集合住宅も外壁のほとんどが焦げ茶色の煉瓦で作られている。ロンドン市内の建物もやはり茶色の煉瓦による外壁が目立つ。
そうしたロンドン郊外は広く見わたしたとき、木々や農地の緑と土の色の対比に建物が溶けこみとても美しい。帰国して成田から自宅まで帰る道すがら、色彩感覚皆無の千葉郊外にうんざりさせられた。
日本人の色彩に対する美的感覚が概しておそまつなのは環境のせいもあるだろう。情報システムの仕事でWeb系の開発をやると個人の色彩センスがあらわになる。ひとつの画面で色をつかうときにはルールがあるのだということをまったく理解していない人間が多すぎるのだ。
同系色で統一するか、明るさで統一するか、補色を使うか、などなど、カラーコーディネートにはさまざまな規則があって、あらゆるデザインは基本的にはその規則にならい、あえてそれを崩すのは才能あるデザイナーだけにゆるされた特権なのだ。
日本人の色彩に対する無理解は生活環境との悪循環が原因だという話はそれくらいにして、たしかにロンドン郊外の風景は美しいのだが、この煉瓦の外壁がロンドンの街をやや暗く見せている一因ではないかという気がする。ロンドンをパリと比較してどうも好きになれないと言った友だちがいたが天候のせいだけではないだろう。
それはEurostarで海峡をわたってフランス側に入ればはっきりとわかる。しばらくは英国の影響が強いためか焦げ茶色の煉瓦の家が続くが、パリに近づくにしたがって白壁の農家が目立つようになる。やがてパリに着くと、パリがロンドンに比べて華やかに感じられるのは、なるほど建物の外壁が煉瓦ではなく石の白い肌がそのまま使われているからだと納得される。

都心部の建物のファサードを比較しても、ロンドンがRegent Streetなど中心街でも一部分だけが階高や窓の形がそろっているのに対して、パリはだいたいどこを歩いても通りに面した建物は同じ明るい顔をしている。それだけにかえってゴシック様式の教会や18世紀の壮麗な建築物がひときわ栄えて、街歩きのかっこうの目印になるというわけだ。
また、オスマン男爵のおかげでパリの区画は整然としており、道路の幅にもメリハリがある。日本の都心と比べればロンドンも歩道の幅にはるかに余裕があり、歩くための街づくりが考えられているが、パリは目抜き通りを歩いているとロンドンよりさらに空が広く感じられる。
ロンドンもパリも川をはさんで広がっている点では同じだが、川ぞいの風景についてもパリの方が数段美しい。ロンドンでは国会議事堂の向かい側にご存じのように最近ロンドン・アイという大観覧車が建てられた。テムズ川のさらに東側、ロンドン橋近くの川岸でも奇妙な形をした何かの本部ビルが建設中だ。英国の川沿いの景観はますます統一感を失いそうだ。
同じ観覧車を作るのでも、パリはコンコルド広場にいつでも撤去できるちゃちなものしか作らない。しかし凱旋門からシャンゼリゼ通りの方向を見ると、ちゃんと真正面にその観覧車が輝くように設置してある。
そしてパリは新しい建築を街並みに調和させると同時に、古い建物を修復するのに力をそそいでいる。ノートルダム寺院の工事は終わったが、今はオルセー美術館などでお化粧なおしが進行中だ。
あんなに古い建物ばかりではLAN工事もままならず情報化が遅れてしまうだろう、などと心配したこともあったが、近代的なデファンス地区にでもまかせておけばよい。都心を低層の建築物と歩行者のための街づくりで快適性重視の空間にし、その周辺地区を高層建築で効率性重視の空間にする。
ロンドンとパリであらためて気づいたのだが、ご存じのようにこの2都市の都心の公共交通機関は地下鉄とバスしかない。鉄道が都心にまで乗り入れているということはなく、郊外へ延びる鉄道は都心の一歩手前で文字どおりの「ターミナル」(終着駅)となる。日本の都市には厳密な意味での「ターミナル」は存在しない。鉄道が都会のど真ん中を貫いているためだ。
そしてこのことが日本の都市を醜くする原因の一つになっている。都心に鉄道が走ると、歩行者のための街が分断される。街はやむをえず各駅を中心に広がっていくことになる。まず鉄道ありきで、その鉄道の主要駅に「点」として街ができ、徐々に周辺に広がっていく。そもそも点として生まれた街どうしを歩いてまわることは不可能に近い。
それに対してパリとロンドンはまず街があって、街の広がりを邪魔しないように鉄道は地下にもぐるか、都心の手前で終着駅となる。都心は無垢のままのこる。これらが日本と比較してパリやロンドンが僕にとって快適だと感じる最大の理由だ。東京も一度リセットしたいくらいだ。東海大地震がそのチャンスになるだろう(なんて不謹慎な)。