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![]() クイック・ビューティー ( 20010902 ) 美容業界の価格破壊ということで有名な1000円美容院「QB House」に入ってみた。えりあしだけが伸びてきて不愉快だったので、いっそのこと周りを刈り上げてしまおうと思ったからだ。それだけのために3500円も払うのはさすがにバカらしい。 かといって毎月1回のカットを1000円ですませる勇気もなく、自宅最寄り駅の改札の真ん前にありながら一度も入ったことがなかったのだが、えりあしぐらいなら失敗しても大過あるまいと思ってようやく入る気になった。 店の表に出ている赤、黄、緑3色の「アンドン」は組立メーカの工場に勤務したことのある者にとっては懐かしさを感じさせるに違いない。この美容院は「アンドン」が暗示するとおり、まさにムダを一切省いた1個流しの生産ラインだ。流れるのは部品ではなく人間の頭である。 まず入口が自動ドアではなく、よく美容院にありがちな総ガラスにステンレスの持ち手だけがついたドアでもなく、新聞販売所の入口によく見られるアルミサッシの引き戸である。 驚いたことに現金の管理コストにも注意が払われている。客は1000円札を自動販売機に入れてチケットを購入する。釣り銭は出ないので必ず1000円札を持っていなければならない。これによって現金はすべて壁の内装に埋めこまれた自販機に保管され、金庫なくして盗難のリスクを回避できている。 さらに待合い席はソファではなく、お尻と腰を支える2本の水平なパイプにビニールシートがついただけの簡易ベンチ。そもそも30分以上待たされることはないのだから居心地のよいソファにする必要もないわけだ。 僕が入ったときは美容師が2人で先に入った2人の客の髪をほぼ同時に切り始め、ほぼ同時に切り終わった。所要時間は宣伝文句どおり約10分。客が座る席の根っこ部分が平たい長方形を断面とするパイプになっており、床に落ちた髪の毛をそのパイプの中に掃き入れる。なのでちりとりがいらないし、掃き集めた髪を捨てにいく移動時間もかからない。 客の荷物は座席の目の前の鏡が物入れの扉になっており、そこへ入れるので、入口のカウンターでホテルのクロークよろしく預けた後に荷物を管理する手間も省ける。先述のように釣り銭の受け渡しがないのでレジが必要ないし、会員カードを作らされることもないので、もとよりレジを置いたり、会員カードを発行したりするための入口のカウンター自体が不要なわけだ。これでさらに内装費用が削減できることになる。 席にすわり、ふつうの美容院なら首の回りに巻くタオルも、使い捨ての紙で代用されている。この方が衛生的だし、タオルを清潔に保つためのクリーニング費用もかからない。 はさみの切れ味があまりよくないらしく、髪によく引っかかるのが気になったが、それでもてきぱきと仕上げていく。余計なおしゃべりもない。店内には無難なJ-POP最新ヒットがかかっている。 何度も書くがそもそも10分で終わるのだから、美容師さん自身、つまらない世間話で間をつなごうとか、週刊誌を客に渡さなきゃとか、余計な気をつかう必要もないわけだ。 現金の管理をしない、作業時間を10分で済ませる、この2点を実現するだけで、美容院に半ば不可避なものとしてごてごて付属していたありとあらゆるサービスが省略できているわけだ。 そんなことに感心しているとあっという間に仕上がっている。髪を流す台はなく、細かい髪の毛は天井からぶらさがった真空掃除機で吸いとる。仕上げのブローもないし、ムースやワックスなどの仕上げ剤も使わない。 つまり客の髪を洗う必要がないばかりか、美容師は自分の手を洗う必要もないので、余計な動きが発生せず、なおかつ水回りの内装がトイレだけでいいということになる。 最後のかんたんな仕上げに使うコームは使い捨てで、本来は店が責任をもって処分すべきだろうが、その処分コストをも削減するために、ご丁寧にも客に「プレゼント」してくれるのだ。どう見ても製造コスト10円とかかっていないプラスチック製のコームを使い続ける気にもならず、家に帰ってゴミ箱へ直行。コームといっしょにバンドエイドを4枚を持たせるのがご愛敬といったところか。 待ち時間も含めて店に入ってから出るまで25分。明るく清潔な店内、マニュアルどおりの対応だが、無駄がなくきびきびした美容師の作業は決して不愉快ではない。むしろ客としても余計な気を遣うこともなく、会員制で拘束されることもなく、「次回はぜひ予約をとってご来店ください」とうるさいことを言われることもなく、1000円という価格に比例したそこそこの仕上がりでコストパフォーマンス的には不満もない。 まさに美容院のマクドナルド化。美容師のとっても単位時間あたりの収入ではふつうの美容院と変わりないだろう。美容院に通う客にも他のすべてのサービス業と同じく、単にカットしたいだけの客と、きっちりセットまでしてもらいたい客の二極分化が進み、中途半端な位置づけの町の美容院は「QB House」のようなチェーン店によって淘汰される。 しかし、この調子でデフレの「余勢」をかって世の中すべて合理化、合理化が進んだ果てには、いったいどんな風景が待っているのだろうか。少数が高価なアナログの風情を楽しみ、残りの大多数が極度に合理化された生産ラインにのって規格どおりのサービスをうける。 少なくとも生活のどの部分に金をかけるか、その選択権が自分の手に残されている限りは、それでもよいのだろうが。 無断転載禁止
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