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![]() 名もない病(2) ( 20020120 ) パニック障害についてのエッセーを書いた折もよく、今日の朝刊に日本精神神経学会が「精神分裂病」という病名を「統合失調症」に変更するという記事があった。かのキングクリムゾンのプログレッシブ・ロックの名曲も『21世紀の統合失調症患者』に変更しなきゃいけないのかどうかは知らないが、病名変更の理由は「医学的に不適切な上、『精神全体が分裂しているような印象を与え、差別と偏見を助長する』などとして、患者や家族からも根強い要望が」あったことらしい。 同じ記事の用語解説によれば「精神分裂病」あらため「統合失調症」とは、「脳内の神経伝達物質のバランスが崩れて発病するとの説が有力で、発病率は約0.8%。国内には約70万人の患者がいるとされ、うち約20万人は入院しているが、日本精神神経学会によると、治療薬の進歩などで半数以上は社会復帰が可能な状態にまで回復する」とある。 パニック障害に関するエッセーで非常に重要な点を書き忘れたのだが、意外なことに僕の身のまわりの人もその点を完全に誤解していることに驚いたので、ぜひここで記しておきたい。それは、こころの病だけがなぜ本人の責任にされてしまうのか、ということだ。 どうやら世間の多くの人はウツ病やパニック障害などのこころの病気は当人の性格がわざわいしているのだと考えているらしい。昔は僕もそう思っているところがあった。しかし上に引用した新聞の用語解説からも分かるように、パニック障害も脳内の神経伝達物質(セロトニン)のバランス異常による単なる病気なのだ。病気であれば医者にかかって治すのが当たり前。ところがこころの病気にかんして日本ではその常識が通用しないらしい。 たとえばあなたの友達が風邪をひいているらしいとしよう。あなたはふつう「無理しないで早めにお医者さんにかかったほうがいいよ」と言うだろうし、風邪をひいている当人もよほど仕事などに追われていない限り早めに医者にかかって、薬を飲んで、場合によっては注射でもして早く治そうと思うだろう。 ところが、である。もしあなたの友達がウツ病らしいとしよう。ほとんどの人は「そんなにくよくよしないで気持ちを明るく持とうよ!」とか「家に閉じこもってるからダメなんだよ。気晴らしに旅行にでも出かけてみたら」など、それに類したことを言うだろう。これは病気の当人にしてみれば「ウツ病なんかになっちゃうのはあなたの性格が悪いのだ」と言われているのと変わりない。ウツ病を「病気」だと思っていない何よりの証拠である。 友達が風邪をひいているときに「それはあなたが普段から体力づくりをしておかないからだ。そんな風に家に閉じこもってないでジョギングでもしてきたら」とは誰も言わない。ところがそれと同じようなことをこころの病にかかっている人に対しては、善意から言ってしまいがちなのだ。 ことが他人事である限り一見実害はないようだが、「こころの病は本人の性格が原因だ」という間違った認識があまりに世間に広まっているために、いざ自分がこころの病になったときも自分の性格をなんとかすれば、自分が頑張れば治るのだと考えてしまう。その結果、医者にかかって専門的な治療を行わず、ひとりで我慢してしまうためにかえって症状を悪化させるという悪循環に陥りがちなのではないか。 繰り返しになるが、こころの病気も風邪と同じ単なる病気なのであってみれば、早めに医者にかかって薬や適切な治療法で治してしまうのが正しい対処方法なのだ。こころの病気にかかるのは、別に本人の性格がわざわざいしてるからでも何でもなく、たまたまそのときにいろんな要因が重なって発症したに過ぎない。風邪をよくひく人が、たまたま仕事の疲れや無理がたたって風邪という病気を発病してしまうのとまったく同じことである。 もちろんこころの病気が部分的に当人の性格に起因しているということはあるだろう。しかしそれは風邪をひきやすい人が普段から運動不足で抵抗力が落ちているのと同じことで、風邪の直接の原因は運動不足ではなく、ウィルスである。同様に例えばパニック障害の原因は細かいことを気にする性格ではなく、脳内物質のアンバランスなのである。ウィルスは抗生物質で治療すればいいのだし、脳内物質のアンバランスは「パキシル」のようなSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)で治療すればいいのだ。ことは非常に単純である。 ウツ病になっているのに旅行で気分転換したり自分ひとりで何とかしようとしている人は、風邪をひいたからといって体力をつけるために一生懸命ジョギングして高熱にうなされるのと同じくらい馬鹿なことをしているのだと考えよう。風邪をひいたらジョギングして体力作りする前にまず安静にするとか、薬を飲むのが先決であるのと同様、こころの病気にかかったらまず専門家に診てもらって適切な治療をするのが先決。自分の性格を変えたいのなら(体力をつけたいのなら)病気が治ってからにすべきである。 「精神分裂病」をわざわざ「統合失調症」と改名しなければ世間の偏見がなくならないところを見ると、人はなかなか「体の病」と「こころの病」を平等に単なる「病気」として考えられないらしい。 無断転載禁止
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