今日、品川グランドコモンズで初めてのオフ会を開いた。事前に参加希望をとったところ、このWebサイトの読者から6人の方が参加を希望して集まって下さった。大雨のために電車が遅れて、時間どうりに出席できなかった方もいらっしゃったが、オフ会そのものは大成功だったと言ってもいいのではないか。僕自身はオフ会が成功するかどうか少し神経質になっていたのだが、参加者のご協力のおかげで各人のお気に入りの本について楽しく話し合うことができた。参加してくださった読者のみなさんに感謝したい。今僕は改めてこのWebサイトを更新し続けていこうと思ったとともに、第二回のオフ会をたぶん10月に開こうという気になっている。
6人の参加者のうち、一人だけが大学生で、残りは会社員だった。5人の会社員のうち4人までが情報技術に関係する仕事をしていた。まあこのサイトではたびたび情報技術関係の話題を取り上げているので、当然といえば当然かもしれない。参考までに、参加者のうち1人だけが女性だった。ほとんどの参加者が例えば数か月前など、つい最近このサイトの存在を知ったということが驚きだった。
オフ会を円滑に進めるために、僕は参加者に事前に「宿題」を出させて頂いた。その宿題とはお気に入りの本についての説明も含めた自己紹介を準備しておくことだった。参加者の中には話すことを書き下した紙まで準備して頂いた方もおり、すべての参加者から、実生活でもきっとまじめな人なのだろうなという印象を受けた。こういった勤勉な人たちが自分のサイトの読者だと思うと、非常に幸福を感じる。
僕自身もふくめて参加者全員が自己紹介とお気に入りの本の紹介を順番におこなった。1番目の参加者は投資顧問として働いている方で、2冊の本を紹介して下さった。一つはロシア語通訳で、たびたびテレビでも見かける米原万理著『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』。もう一冊は暴力団関係者との非合法な取引があったとされ、クレイフィッシュを辞めざるを得なくなった同社の元社長である松島庸著『追われ者』という本だ。
2番目の参加者は社内情報システム部門でシステムエンジニアとして働いている方で、『五感で恋する名画鑑賞術』で、人気のあるテレビ番組『たけしの誰でもピカソ』を企画した美術評論家、西岡文彦氏が書いた本だ。この参加者は美術館を、展示品だけでなく設備やインフラの面も含めて格付けする非営利団体に参加しているということで、学生時代は理系だったのに、今は美術にも興味を持ち始めているとのことだった。
3番目の参加者は唯一の大学生で、ベストセラー『買ってはいけない』に対する強烈な反論の書『それは違う!』や、『偽善系』などの本を書いたフリーライターの日垣隆の著作を紹介して下さった。彼によれば日垣の書物には左翼系マスメディアの一方的な議論を批判したものもあるということだ。この大学生の参加者は大学では環境工学を人文科学的な側面から学んでいるという。上述のシステムエンジニアの方同様、この参加者も理系と文系の中間に立っていると言えるだろう。
4番目の参加者も、社内情報システム部門のシステムエンジニアとして働いている方で、橋爪大三郎、小浜逸郎をふくむ7人の社会学者が書いた『天皇の戦争責任・再考』という本を紹介して頂いた。この参加者は天皇の戦争責任そのものには中立の立場だが、戦時中に天皇が果たした役割についていくつかの史実を学べたということで、この本を評価されているようだった。この参加者のお気に入りの本も彼の仕事と直接の関係はない。僕のサイトの読者はどうやら知的好奇心のかたまりのような人が多いようだ。読者の皆さんの知性を、僕は誇りに思いさえしている。
5番目の参加者は働く母親で、日本人の女性小説家、桐野夏生の『グロテスク』という小説をご紹介頂いた。この小説のモチーフは、かの有名な東電OL殺人事件らしい。この参加者はジェンダー(文化的性差)の問題にも関心をお持ちのようで、興味深い論点をいくつか提示して頂いた。例えば、女性は自身の怒りを直裁に表現できない、日本のエリートの中でも60年代に生まれて、人生のすべてを仕事にささげた両親の影響を強く受けている人たちは、完璧を目指した末に燃え尽きて普通の生活から脱落し、たとえば新興宗教や犯罪行為に手を染めるようになる、僕らは子供たちにどうやって試合に勝つかだけでなく、敗北からどう這い上がるかについても教えるべきだ、などなど。
6人目の参加者は、携帯電話の動作試験をするシステムエンジニアとして働いている方だが、ITプロジェクト管理の方法論についての本『PMBOKによるITプロジェクトマネージメント実践法』という本をご紹介頂いた。この参加者の方は今ちょうど30人ばかりのプロジェクトチームのリーダをやっていて、新入社員や外部要因の教育にてこずっているとのことだ。僕もこのようなITプロジェクト管理の問題にかかわっているので、他人事とは思われなかった。
以上、参加者の発表の要約をお読みになって分かるように、このWebサイトの読者のみなさんは物事をさまざまな観点から考えようと努力されている。たしかに職場では一つの事柄に集中することが効率的かもしれないが、実生活ではそのような態度は非常に危険性が高い。何か深刻な問題に突き当たったとき、もし一つの観点しか持ち合わせていなかったとしたら、僕らは自分たちの生命をも危険にさらすことになるかもしれない。僕らはつねに自分が現実にやっていることについて客観的に考える努力をするべきであり、自分が実際にやっていることと距離を保つには、自分自身を時に疑ってみた方がよい。このWebサイトでも繰り返し述べていることだが、「誇張懐疑」は近代合理主義を確立したデカルトが僕らに遺した、最大の贈り物の一つなのだ。