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![]() Nagano On ( 20000227 ) オリンピック以降、国内平均以上に景気が落ちこんでいると言われる長野をおとずれる機会があった。長野市は長野最大の都市だが、もう一つの都市・松本へは学生時代に一人旅で立ち寄ったことがある。各駅停車に乗って東京を起点にさまざまな地方都市を歩き回っていたころのことだ。しかし今回は松本ではなく長野市である。 ちなみに長野を訪れるにあたって予習をしておこうと、リクルートのポータル「isize」からMapFanWebを検索したのだが、おどろくべきことにMapFanWebには長野県の中でも長野市の地図だけが登録されていないのだ。以前に訪れた長崎県諫早市でさえ市街地の地図があったにもかかわらず、なぜ長野市だけが空白地帯になっているのか理解に苦しむ。そういうわけで今回はもう一つのオンライン地図「MAPION」にたよらざるをえなかった。 さて、新幹線から降り立った長野の街は期待したほど雪深くなかったが、駅前のロータリーを取り囲むように立ち並ぶビルの背後に、白い山々がひかえている眺めは圧巻だ。長野駅の改札は二階にあり、善光寺口に向かって歩くとペデストリアンデッキというほどの広さでもないデッキが駅前のロータリーにせり出して左右にエスカレーターが降りている。 長野駅はかつてお寺のようなかっこうをした駅舎だったが、オリンピックの玄関口として格好悪いということか、市民の保存運動にもかかわらず改築されたらしい(「新浅川鉄道の部屋」の「信濃路・きのう・きょう」参照)。今では採光窓をたっぷりとった天井の高いスマートな、逆に言えば東京ならどこでも見かけそうな没個性的な駅舎になっている。 右のエスカレーターを降りるとMIDORIという駅ビル、左に降りるとティリアという駅ビルがある。MIDORIには百貨店が入っていて、1階が婦人服、地階が食料品、最上階がレストラン街という典型的な駅ビルで、ティリアはプレハブ突貫工事が見え見えの2階建て。ただ、このティリアにはPRONTO、マクドナルド、カプリチョーザと東京から来た人間にとってはホッとしないでもない店舗がならんでいる。 そしてペデストリアンデッキから正面に見えるビルの壁には巨大な画面があり、広告を垂れ流している。これは名古屋駅前にもあった。駅前広場の大画面を広告媒体にするというのも完全に日本の大都市の紋切り型になってしまっているようだ。 大画面のあるこのビルには平安堂という長野最大の書店が入っている。駅前から長野の事務所に電話をかけて道順をたずねたところ、事務所の女性の口から「平安堂の入っているビルの道を...」という言葉が自然に出てきたので、地元の人にとっては長野駅前といえば平安堂書店なのだろう。ちなみに平安堂書店の書籍ベストセラー第1位は『相性まるわかりの動物占い』、第2位は『恋愛動物占い相性・結婚まるわかり』である。東京の流行に毒されすぎだ。 朝食を新幹線の中ですませていた僕は、わずかな自由時間を有効活用すべく、さっそく善光寺にむかう。小一時間しかないので善光寺参り程度の観光しかできないのだ。それでも朝6時起床、朝食ぬきで家を出てきたのだから、これで善光寺にも参れないようでは泣くしかない。 平安堂のあるビルのすぐ右の通りには駅前からも目立つ大きなゲートがあって、「善光寺参道」と真っ赤な文字で書かれている。そのゲートをくぐって裏にまわると「長野駅前」と書かれてある。善光寺方面からそのゲートをくぐれば長野駅が見えるのだから当然といえば当然だ。ただ、善光寺は駅前から見えるほど近くないので「善光寺参道」という案内は観光客の助けにもなるが、目の前に長野駅が見えているのに「長野駅前」という案内は無意味だろう。まあいいや。 そのゲートをくぐって末広町の交差点(おそらく地元の人にしかわからない)にで信号待ちをしていたとき、「善光寺まで1.7km」という看板が目に入った。そんなに遠かったのか。のんびり歩いていたのでは往復に1時間かかってしまう。そう思い直した僕はすぐにバス停をさがした。期待どおり交差点を善光寺方面に少し歩いたところにバス停が見つかった。 朝のラッシュ時間帯にかかっているせいかバスの便はよい。名古屋に住んでいたころ近所を走っていた路線バスよりもはるかに便数が多い。これは意外だった。数分待てば善光寺前ゆきのバスが来るようなのでそのまま待つことにする。このバスが走る善光寺参道(=「中央通り」)は長野市のメインストリートといったところか。 ほどなく到着したやや旧式のバスに乗りこむと乗客は5割ほどしかいない。しばらく走ると左手にまず「again」というショッピングプラザが見えてくる。陳腐な店舗名のわりにあなどれないファッションビルで、1階にはちゃんとコムサが入っている。もう少し走るとやはり左手にダイエーが見えてくる。開店前の入口に「中のいすにかけてお待ち下さい」と、底冷えのする長野ならではの気づかい。買い物客にお年寄りが多いことを見越した上だろうか。地図の上ではダイエーのある交差点のはす向かいに長野そごうがあるはずだが、残念ながらバスから確認できなかった。 またしばらく走ると左手に北野文芸座という演芸場が見える。外観は歌舞伎座や御園座(名古屋人にしかわからんな)を5分の1のサイズにした感じ。ポスターによれば2000年3月22日(水)18:30〜立川談志の独演会があるらしい。地方都市で純粋な江戸っ子の談志がどんな毒舌を吐くというのか、ちょっと想像もつかないが。 そのうちバスのアナウンスが「善光寺大門前」という駅名を告げ、どうやら乗客のほとんどが降りるようなので、僕もつづいて降りることにした。後で分かったのだが「善光寺前」はもっと先だ。「善光寺大門前」から善光寺にいたる参道には自動車が入れないので、バスは参道を迂回して「善光寺前」に到着する。ただ、「大門前」で降りたのはむしろ正解だった。仁王門までの参道は白い石畳に舗装されて、明治・大正風の街灯や建物とあいまってなかなかこじゃれた雰囲気になっている。 仁王門をくぐると参道はいきなり浅草寺風になる。名前もまったく同じ「仲見世通り」。どちらがパクったのだろうか?後は三門をくぐって本堂に入り、てきぱきとお参りをすませて同じルートでもどってきた。子供のころからどうも仏像のグロテスクさにはなじめない。神器が置いてあるだけの神社の方がいい。 さて、帰りのバスも本数は多く、数分待つだけでやはりちょっと旧式のバスに乗ることができた。お年寄りばかりの車内に2人、制服姿の女子高生が目立っている(スーツ姿の僕はさらに目立っていたのだが)。受験シーズンの高校3年生なら分からないでもないが、そうでなければ明らかに学校をサボっている時間帯だ。一人は知念里奈似で長野らしい(長野に対する偏見以外の何ものでもないが)素朴な感じだが、もう一人のヘアスタイルはどう見ても何かをしようとして失敗したとしか思えない。これも長野的女子高生のご愛敬といったところか。二人ともルーズソックスでなかったのは、校則に従順だからか、はじめからルーズソックスなんてはく気がないのか。 実はバスに乗りながらずっと耳にFMラジオのイアホンを入れて長野市のコミュニティー放送局「FMぜんこうじ」(76.5MHz、1995年7月1日開局)を聴いていたのだが、たとえMr.Childrenがかかっていても明らかに東京で聴くBAY−FMと時間の流れる速度が違う。ちなみに今月からFMぜんこうじでは毎週日曜日7:50〜8:00に『詩歌の心をたずねて』という詩吟番組(!)が始まったらしい。時間の流れる速度は違って当然。きっと彼女たちもはじめからルーズソックスなどはく気がないのだと思いたくなる。 駅前までもどってきてからは駅ビル「ティリア」のマクドナルドでコーヒーを飲みながらモバイルしていたので、特筆すべきことは何もない。あえて付け加えるとすれば長野市でもちゃんとH"の64kbps通信はできましたよ、ということくらいだ(当たり前か)。 さて、どうして僕が立川談志独演会の日程やFMぜんこうじの詩吟番組の時間帯まで知っているのかといえば、実は長野駅のキヨスクで『月刊NaO』という長野県の情報誌を仕入れてきたからだ。ちなみに『NaO』とはNagano Onの略で、おそらく「長野で流行っているもの」という意味を持たせたかったのだろう。 これがなかなかよくできた情報誌で、僕が高校生のころ愛読していた関西ローカルの情報誌『L-Magazine』(今度は大阪人にしかわからんね)よりもはるかに装丁は美しい。今月号の表紙がオレンジ色であるせいか、ぱっと見『オレンジページ』と見まごうばかりの、グラビアがふんだんに盛り込まれた雑誌だ。ちゃんとWebサイトもあるのでいちどチェックしてみる価値はある(http://www.country-press.co.jp/)。 この『月刊NaO』をもとに、スキーやスノーボードにまったく興味のない僕が仮に長野市に住むことになったとして快適な生活ができるかどうかを検証してみた。まず映画。ご想像のとおり状況は絶望的だが、松本市の中劇シネサロンという劇場がかろうじてレイトショーで一日だけ『ポーラX』をやっていたりする。 しかし長野から東京までは新幹線でたったの1時間半。その次のページにはちゃんと東京の映画情報がのっていて、アルトマンの新作『クッキー・フォーチュン』が紹介されている。しかもその数ページ先には軽井沢にマイホームをかまえて東京まで新幹線通勤している公益法人職員さんの生活が紹介されている。長野は都内通勤圏なのだ。 さらにページをめくって「イベントスケジュール」を見ると、学生時代の僕が福島県で初めて耳にした「浜通り」「中通り」と同じくらい新鮮な長野独自の語彙が目に入ってくる。「北信」「東信」「中信」「南信」。漢字変換もされない。長野市は「北信」に入っているらしいが、長野県の人たちはそれぞれの範囲を正確に知っているのだろうか。ちなみに僕は5年半名古屋に住んでいたが、いまだに「尾張」の範囲が分からない。 結局のところ車の免許をもっていない僕は長野にも住めそうにないことがわかった。地方都市で生活するなら部屋に閉じこもって年中ネット生活を送る覚悟が必要だろう。まさに「ひきこもり」。駅前のマクドナルドから外を眺めても人物ウォッチングするだけの人ごみもないのだから。ちょっと通りすぎるにはおもしろい場所ではあるけれども。 注:2000/03/04に読者の方から人口・面積とも長野県で最大の都市は松本市ではなく長野市であるとのご指摘いただきましたので訂正させて頂きます。申し訳ありませんでした。 無断転載禁止
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