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「家」=HR・HR
( 20010120 )

Japanese/English

まず最初に書いておくと、とある読者の方からお勧めのあった『ゴミ投資家のための人生設計入門』はこれから持ち家を買おうと考えているすべての人にとっての必読書である。

で、今回のエッセーは持ち家と賃貸どちらが得かというきわめて世俗的な命題にかんする真剣な議論である。僕の疑問は当初、「一般人はどうして借金を抱えてまで、利益を生み出さない持ち家という固定資産を取得しようとするのか」ということだったが、ここには二重の誤りがあった。

まず家計において損益は問題にならないということだ。損益とは収益(もうけ)に対する費用を一定のルールにもとづいて継続して計算した場合にだけ意味のあることで、自営業者でもない家計について損益計算書を作ってもあまり意味がない。

家計にとって重要なのはキャッシュフロー(現金の出入り)である。そして持ち家はキャッシュフローを産み出さないのではなく、ちゃんと産み出しているということだ。こういう基本的な間違いに気づくのに一週間もかかるのだから僕もそうとうな経済音痴だ。

持ち家を買うということはどういうことか。「借金してまで賃貸用不動産に投資したが、他人に貸さずに自分で住んでしまった」という状態のことだ。

ところで、株であれ不動産であれ、資産に投資するということは何らかのリターンを期待していることになる。株の場合は将来売却したときの値上がりによる利益(キャピタル・ゲイン)と、毎期の配当(インカム・ゲイン)を期待している。不動産の場合も同じように将来売却したときの値上がりによるキャピタル・ゲインと、毎年の家賃収入(インカム・ゲイン)を期待している。

ただし「持ち家」の場合は、投資した賃貸用不動産に自分が住んでしまうので、たしかに家賃収入というインカム・ゲインを得ているのだが、その家賃収入を支払っているのも自分自身だということで、キャッシュフローとしては差し引きゼロになる。

持ち家はちゃんとキャッシュフローを産み出しているのだが、そのキャッシュを支払っているのも自分自身なので、お金の流れが見えなくなっているだけなのだ。

よく「同じお金を払うなら、自分の物になるマンションを買いなさい」という人がいるが、これも完全な間違いである。マンションを買うために支払っている住宅ローンは、マンションを自分のものにするために払っているお金ではない。マンションを買うときに借りたお金を返すために払っているお金である。

このお金はマンションを買わなければ発生しなかったのであり、これを生活上の必要経費である賃料と比較するのがおかしいことはすぐに分かる。持ち家を買ったとしても僕らは生活上の必要経費として「賃料」を払い続けなければならないが、その支払先がたまたま自分自身になる、というだけなのだ。

したがって賃料を比較するなら、持ち家に引っ越した後の「賃料」と比較すべきなのだ。持ち家の「賃料」というのも変な言葉だが、これって一体なんだろうか?答えは、自分の持ち家を仮に他人に貸したときに受け取れるであろう賃料のことである。

たとえば3000万円で購入したマンションが、もし賃貸物件として月10万円で貸せるのなら、そのマンションの架空の賃料は10万円ということになる。これがとりもなおさず「マンション」という資産が産み出すインカム・ゲインなのだ。

不動産という資産が産み出すインカム・ゲインの金額と、あなたがその不動産に投資するために借りたお金の月々の返済額が無関係だということはおわかりだろう(金額は似ているかもしれないが)。「同じお金を払うなら持ち家」という人はこのことが全く分かっていないのだ。

ところで、株も不動産と同じく投資の一種である。「3000万円のマンションが月10万円の賃料収入を産み出す」のは、「3000万円で購入した株が半期60万円の配当金を産み出す」のと大差ない。(諸経費とリスクの差異についてはここでは考えない)

で、世の中に借金してまで株式投資する会社員はほとんどいない。にもかかわらず、借金してまで不動産投資する(=マイホームを買う)会社員は腐るほどいるのだ。

仮に、借金してまで株を買った会社員がいたとしよう。住んでいる賃貸マンションの家賃を払いながら、借金を返しつつ、株の配当金を得る。家賃は「給料」というもう一つの、会社員にとってはいちばん大きな現金収入から払う。

(給料+投資のインカム・ゲイン)

−(実際の家賃+借金の返済+その他生活費)

一方、借金して家を買った会社員は、自分で住んでいる家の架空の家賃を払いながら、住宅ローンを返しつつ、自分の家から架空の賃料収入を得ている。自分で自分に家賃を払っていることになるので、下の式で、投資のインカム・ゲインと架空の家賃は差し引きゼロになる。

(給料+投資のインカム・ゲイン)

−(架空の家賃+借金の返済+その他生活費)

このように、「借金してまで株を買う」という行為と「借金してまで家を買う」という行為に本質的な差はない。ただそこには量の差異があるだけだ。

にもかかわらず「借金してまで株を買うなんて単なるバカだ」と思っている人がほとんどなのに、その同じ人が「借金して家を買うのは会社員として当然だ」と思っている。ここまでバランスの崩れた投資観念ってあるだろうか。これほどまでに僕らは「持ち家神話」に洗脳されているというわけだ。

同じ3000万円で株を買った場合の配当と、マンションを買った場合の想定される架空の収入のどちらが多いのか。そして、今あなたが支払っている賃料と、あなたが買おうとしているマンションの想定賃料のどちらが安いか。最後に、株を買うために借りるお金の金利と、住宅を買うために借りるお金の金利はどちらが安くすむか。そこまで比較した上で「借金してまで株を買う」のか、それとも「借金してまでマンションを買う」のかを考えるべきなのだ。

(※さらにキャピタル・ゲインや、投資にかかる諸費用も考慮に値するが、詳しくは上掲書『ゴミ投資家のための人生設計入門』をぜひお読みいただきたい。かんたんに言うと不動産は株に比べて投資にかかる諸費用がかなり高く、特殊なリスクの種類が多いということだ。)

いろいろ比較すると、株に比べてマンションが絶対的に有利な投資とはどう考えても言えない。まして自己資金なしでマンションを買うなんていかにバカげているか、「100%借金で株を買う」と言い換えてみればよく分かる。ふつう会社員が株を買うのは、手元に余った現金があるからだ。誰も株を買うために借金しようとは思わない。

なのに今まで「借金してまで家を買う」ことが絶対に正しいことであるかのように言われてきたのは、たまたま戦後の日本に、不動産が継続的に値上がりする(要は「必ず値が上がり続ける株」みたいなもの)という特殊な環境があったからなのではないか。

そういう特殊な環境にあってはたしかに、不動産という資産は必ず将来大きなキャピタルゲインをもたらすのだから、投資しない方がバカだ。

しかし今や不動産は必ず値下がりする。キャピタル・ゲインは期待できない。したがって死ぬまで売却せずに、架空の家賃だけをあてにして投資することになる。ちょうど株を売却せずに配当金だけをあてにして塩漬けにしておくようなものだ。しかもその「架空の家賃」も徐々に下がっていく。古い「賃貸マンション」の家賃はどんどん下がって当然なのだから。

このように不動産は不動産なりのリスクがあり、株は株なりのリスクがあるが、両者とも預貯金に比べればハイリスク・ハイリターン型(HR・HR)の投資であることに違いはない。しかもそのハイリスク・ハイリターン型の投資商品に、借入金によるレバレッジをきかせてまで投資するのだから、マイホームの購入というのはかなり勇気と決断が必要な行為なのであって、30歳を過ぎたら当たり前のように考える通過儀礼などでは決してない。

ではあなたはどちらを取るのか。あるいは投資そのものをやめるか。投資額を減らすか。

そこで初めてあなたが何に重きを置くか、純然たる価値観・人生観の問題になる。「サラリーマンたるもの一国一城の主になるのが目標だ」というわけのわからない価値観・人生観が最初にあるのではない、ということだ。


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