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London, echo
( 20010402 )

Japanese/English

僕のロンドン滞在中に英国音楽史上初の快挙がなしとげられた。デビューシングルを発売1週間でなんと50万枚以上も売上げたのだ。今ロンドンのミュージックシーンでもっともホットなグループは、間違いなくこの記録を打ち立てたHear'Sayの5人だ。

...とその辺の音楽雑誌みたいなことを書いてみたが、事実としてHear'SayのデビューシングルはBBC公式チャートでTOP 1となり、英国ITVやBBCなど主要放送局のニュースでも取り上げられるほどだった。しかしその様子をロンドンのホテルで見ていた僕は心の中で「それでいいのかロンドンっ子」と叫ばずにはいられなかった。

Hear'Sayとは英国ITVの視聴者参加オーディション番組「Popstars」で、一般視聴者からオーディションで選ばれた男性2人、女性3人のグループだ。番組ではオーディションの様子から、彼らがタブロイド紙のゴシップ記事や家庭内のあつれきなどのさまざまな困難を乗りこえてTOP 1の地位にのぼりつめるまでがドキュメンタリー風に放送される。

そう、どこかで観たことがある。言うまでもなく日本で放送されているテレビ東京『ASAYAN』である。「英国版モーニング娘。」。いや、より正確に言えば「英国版モーニング娘。と太陽とシスコムーンを足して2で割ったグループ」だ。なにせHear'Sayのメンバーの一人Kymは2人の子供の母親なのだから。

BBC公式チャートTOP 1の第一報をうけ、彼らはインタビューに答えて曰く「夢は願えばかならずかなうから、みんなもあきらめずにがんばって!」。放送局とレコード会社が共同で大々的なプロモーションを打てばTOP 1くらい比較的容易に達成できるだろう。『ASAYAN』も同工異曲。

それを新世紀のAmerican dreamならぬBritish dreamであるかのように語るほど英国の若者たちは夢を持てない状況に置かれているのだろうか。英国のテレビ局は虚しい夢を与えてまで視聴率を稼ぎたいのだろうか。もちろん日本のテレビ局も大差ないが、悲しいのは英国の音楽産業がそこまで落ちぶれてしまったということだ。

ロンドンは音楽好きにとって天国のような街かもしれない。なぜならFM局が異常に充実しているからだ。クラシック専門局だけでも2つある。Popsは言うに及ばず、House・Techno、黒人音楽、Jazzなどの各ジャンルに専門局が存在する。中でも個人的に気に入ったのはPops専門局で過去の名曲をふりかえるリクエスト番組で、80年代の名曲を久しぶりにいくつも耳にすることができた。

またTVの音楽番組にも妙なものがあって、スタジオの若い男女計10名ほどが、やはり70年代、80年代のヒット曲をカラオケで歌って騒ぎまくるという番組だ。ごていねいにテロップで歌詞まで表示されて家庭内カラオケそのもの。僕も思わずいっしょになって歌ってしまった。

また別の音楽番組、というよりむしろ音楽クイズ番組では、アーティストの名前をいろんなヒントから当てるという趣向のクイズが出題されていた。そこに登場するアーティスト名も、80年代のものがほとんどだ。

つまり英国はThe Beatlesから80年代のMTV世代全盛期にいたる過去の遺産でなんとか現時点でのエンターテインメントを維持しているということになりそうだ。British Airwaysの喜劇チャンネルが10年以上前の、あの『空飛ぶモンティパイソン』的な格調高い(?)コメディー番組の名作群に依存しているのも無関係ではないだろう。

別の見方をすれば、英国はすでにメジャーな音楽シーンが成立しなくなっているということか。日本で人気のUnderworldやChemical Brothersはどちらかといえばクラブシーンを代表するアーティストだ。Duran DuranやCulture Clubのような人気グループが「メジャー」でありえた時代はもう終わり、マスメディアにそっぽを向いた若者たちが多数派などというものをバカにしつつ徹底的にcoolに、minorなpopular musicという自家撞着をあえて「聴く」ようになったということかもしれない。

ならばHear'SayのCDを買ったのは誰なのか?マスメディアに踊らされて彼らをTOP 1に押し上げたのはいったい誰か。あるいは本当に英国の若者は彼らに自分の果たせぬ夢を投影したというのだろうか。夜、時差ぼけで眠れぬままClassic FMでSamuel Barberの「Adagio for Strings」の声楽版を耳に、ひっそり闇に沈んでいくロンドンの街を緩慢な衰退のイメージに重ねていた。


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