先日、日本の某大手自動車メーカー米工場でのセクハラ訴訟が結審し、このメーカーは多額の賠償金を支払うことになったようだ。経営学的には日本企業のリスク管理の甘さがもろに出た感じだが、フェミニズムの観点からは、ただただ言葉をなくす。
この企業、提訴された直後に、その訴訟に抗議する集会を開いたというから驚きだ。まったく良識をうたがう(今は反省しているだろうけれど)。
ただ、背景には日本とアメリカの、セクハラに対する温度差があるのも事実だ。この企業の経営陣はその温度差をあきらかに読みちがえた。日本の寛大で同情的な被害者(主に女性)が見のがしてくれることでも、アメリカではれっきとした社会問題になる。
この問題について、あるホームページの掲示板で僕は次のような発言をした。僕の働いている職場では、職場の女性にむかって「早く結婚しろよ」「より好みしてるから結婚できないんだぞ」などと平気で言うおじさんがいる。でも、女性たちは笑って受け流すことに慣れてしまって、「不愉快です」という態度をまったく見せない。どう思われますか?
これに対して、ある女性から返答をもらった。その論点は2つ。ひとつは、男性が圧倒的優位にある環境ではほとんどの女性が抗議の態度を示せない。「私もそれは改めていくべきだとは思いますが、どうしようもない環境も理解してもらいたいと思います」(引用)、という点。
もう一点は、多少のセクハラ発言でも、発言をした人が会社をクビにされてしまうのが分かっているとき、「私は(セクハラ発言をした人に)同情してしまいます」(引用)、というものだった。
まず最初のポイント。圧倒的な男性優位社会の「どうしようもなさ」については、たしかに僕も職場に限らず日本が圧倒的な男性支配の社会であることは分かっている。これは日本に限ったことではない。そして、それが「どうしようもない」レベルであることも理解している。
ただ、それを「どうしようもない」と言ってしまえば容認したのと同じことになる。性差別社会が自分を維持する戦略のひとつは、男性・女性の両方に「どうしようもない」と思わせることだ。昔からそうだったからどうしようもない。何十年かけても変わらなかったからしかたない、など。
しかし、フェミニズムという思想の訴えていることは、「しかたないとあきらめないで!」ということではなかったか?
そんなこと、声をあげる価値などない、と言われていた些細なことに対して、ちゃんと抗議の意思を表明する。そうやって小さな成果を積み重ねていくことではじめて、「どうしようもない」ものが「どうにかなる」ものに変わっていく。
上記のセクハラ訴訟を含めて、セクシストに揶揄されながらも(英エコノミスト誌はかなり性差別的な雑誌で、以前セクハラについて「くだらないことで騒ぐな」という趣旨の記事を載せていた)アメリカの主に女性たちが訴訟にもちこんでいるのはそのいいお手本だ。
また、次のポイント、ちょっとしたセクハラ発言のために会社をクビになるおじさんに同情する、という視点は、まさに上記のセクハラ訴訟について、一時期 NEWSWEEK誌やTHE ECONOMIST誌などに見られた男性側からの論調である。上記のセクハラ訴訟の被害者である女性のなかにも、こういう意見の人はたしかにいたようだ。
だが、個人的な同情と、公の場で不法行為の決着をつけることとは、まったく別次元の問題だ。たしかに少しでも不愉快な態度を示すことは勇気のいることだけれど、泣き寝入りは第二、第三の被害者を増やすだけ。そしてますます男性支配の社会は「しかたない」ものになっていく。
別に訴訟など決定的な行動に出る必要もないから、思い切って理解ある上司に相談してみればよい。あるいは、職場のミーティングで軽く取り上げてもらうなどの方法もある。
総会屋スキャンダル以来、日本企業もこうした倫理的な問題にひじょうに敏感になっているので、何らかのリアクションはあるはずだ。また、対応の仕方についてサポートしてくれる組織や草の根レベルの女性のネットワークが各地にあると思う。
ただ、僕は別に日本の状況は「どうしようもない」と悲観しているわけではない。出生率の低下や晩婚化など、女性は意識するしないにかかわらず、ある種の「抗議」を結果的に表明している。出生率の低下それ自身は、いいことでも悪いことでもないが、「国力」を気にするセクシストたちにとってはかなり有効なボディーブローであることは間違いない。
またこれらの傾向は男性の「協力」なしに成り立たないが、このことは男性の中にも、女性にとって生き難い社会に「適応」して生きる人が増えてきたことを意味している。つまり、結婚という事態がもたらす男性的な責任の過重を、あえて避けて通る男性が増えてきたということだ。
(ここで一言ことわっておきますが、男性優位社会はイヤだ!と言いながら、「理想の男性は私をリードしてくれる人です」、なんて矛盾したこと言わないでちょうだいよ、このページを読んでる貴女!)
最終的にはセクハラおじさんが何度「早く結婚しろよ」と言おうと、結婚したせいで勤めづらくなるくらいなら結婚しない!という女性は確実に存在するだろうし、そうやってセクハラおじさんの発言は換骨奪胎されていく。
後に残るのはセクハラおじさんという化石の埋まった堆積岩の地層だけ。セクハラは死ななきゃなおらない。