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偽の脱フリーター法
( 20030515 )

Japanese/English

新聞・雑誌に掲載されている評論の類を読んでいると、同じテーマについての文章が、おしなべて同じような議論になっていることにたびたび気づく。きっと他人の評論を盗用したり、じっくり論を練る時間がないまま原稿を引き受けてしまっていたりするのだろう。

うがった見方をすれば、同じような議論になるということはそれが一種のコンセンサスだという証左であって、一般的な新聞や雑誌の雑文は人々のコンセンサスを確認するためだけに存在すると考えるのが適切なのかもしれない。

あるいは、あるテーマを与えられたとき、誰でも考えつきそうな議論しかできない人物こそマスメディアに選ばれる人物であり、コンセンサスから外れた議論をする人は選ばれないということなのかもしれない。

こんなことを考えたのは、某雑誌社のWebサイトに掲載されていた、増え続けるフリーターをテーマにした評論を読んだときのことだ。この評論は、若者がフリーターを脱出するために「まず最初に必要なのは、どういう仕事をしたいのかをはっきりさせること」だと書いている。

「think or die」の賢明な読者諸君は、この評論の主張をもっともらしいとは決して考えないはずである。当たり前すぎるのでは?と直観でいればかなりいい線を行っている。実際には「脱フリーターの第一歩は、やりたい仕事の明確化である」というのは、まったくの誤りである。

フリーターのようなモラトリアム人間や、転職を繰り返す人間が話題になるたびに、かならずこの手の分析が登場する。僕自身ある会社から転職するときに、「何がやりたいのか良く考えなさい」と当時の上司から助言されたことがある。

この議論が正しいかどうかを検証するのはとてもかんたんだ。学校を卒業してすぐに就職した人々や、数十年前に就職活動をした当時の学生たちは、やりたい仕事をはっきりさせていたのか、と問うだけでよい。答えはもちろん否である。

おそらくほとんどの学生は、そのとき運よく入れた会社や、なんとなくいちばん良さそうな会社に入ったのであり、本当は会社員以外にやりたいことがあったが、生活のためにやむなく会社員をやっているに違いない。自分のやりたい仕事を会社員としてすることができている人々は、幸福な少数派である。

したがって、脱フリーターの第一歩が、やりたい仕事の明確化であるという議論は端的に間違っている。始末が悪いのはこの評論の筆者が僕の大学の先輩で、なおかつ進路指導論の専門家であるという事実だ。この筆者は現場でじっさいにこのような助言を若者のフリーターに与えているのだというから、ますます困ったことだ。

このようなまったく見当違いの理論で武装した専門家が、若者の指導に当たっているという笑えるに笑えない状況こそが、まさにフリーターが増え続ける温床になっているのである。この専門家は自分のやりたいことを学生時代に明確化することができ、なおかつそれを生業にできているという状況を、無自覚にも普遍化するという誤りを犯している。つまり、自分にできたのだから、誰もがそうするべきだという論の展開になっている。いかにも無茶な議論である。

仮に僕が「一日進路指導論専門家」になったとして、フリーターの若者に何かアドバイスするとすれば、間違いなく逆のことを言うだろう。たとえばこんな風に。

食べるための仕事というのは、自分のやりたいこととは本質的に違うものだ。でもまあ、多少なりとも自分の好きなことや、やりたいことに近いに越したことはない。それさえ見つからなかったら、何か自分なりに働く動機を見出せるような仕事、たとえば職場が新築のオフィスビルにあるとか、自宅から近いとか、そんな理由で仕事を選ぶのもぜんぜん構わない。

たとえ自分の思うような業種の会社に就職できたとしても、自分のやりたい仕事をやらせてもらえるとは限らないし、世の中の会社員のほとんどが仕事に何らかの不満を持っている。じぶんのやりたいことを仕事としてやれている人なんて、ほとんどいないと言ったほうが正確だ。

それでも、どんな仕事をやっていても、どこかしらに小さな喜びがあったり、意外なところにやりがいがあったりするものだから、やらないよりはやってみた方がいいだろう。ゆめゆめ自分のやりたいことがやれるなんて思ってはいけない。

そのかわり、まず自分のやりたいことを見つけなければ、フリーターを脱出できないなんて、堅苦しく考える必要もない。仕事は人生のすべてではない。僕らは仕事のために生きているのではなくて、生きるために仕事をしているだけなのだから。

【参考記事】日経BPエキスパート『フリーターはなぜ増え続けるのか・脱出のヒント』


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