think or die :

1970年代生まれの
人たちのための
エッセー集

think or die home > 日常生活を考える > 愛と苦悩の人生相談

愛と苦悩の人生相談

私は彼と結婚すべきでしょうか?

2003/06/23

ある読者から僕の結婚観がどんなものか教えてほしいというメールを頂いたので、回答してみたい。その前に僕がこの種の質問に答える資格をもっているかどうかを考えてみよう。

結婚観についての相談に答える資格をもっている人物として考えられるのは、まず何度か結婚経験があり(したがって離婚経験もあり)、結婚について現実的で冷静な考えを述べることができる人。まったく逆のパターンとして結婚について非常に理想的な考えを持っている人。

残念ながら僕はどちらでもない。僕の回答はおそらくこの読者が身近にいる結婚経験者に気まぐれに相談したときの回答と大差ない程度のものだろう。何か違うとすれば、平均的な人よりは多少理屈っぽく答えるだろうということくらいだ。

この読者からの相談内容を要約してみる。彼女は結婚することを考えている彼氏がいるが、その彼氏からたびたび「考えても仕方のないことをいつも考えてくよくよしている」と言われるのだという。彼は会社員ではなく職人であり、考えるより行動を優先させるタイプとのことだ。

この読者は「彼のそんなところが男らしいと思ったのだが、勘違いだったのだろうか」と自問している。僕がこの相談にぜひ回答してみようという気になったのは、この書き方に興味を引かれたからだ。その理由をこれから説明したい。

まず典型的な「男らしさ」の定義から言えば、「考えるより行動を優先させるタイプ」は間違いなく男らしい。したがって彼氏は男らしい人であって、この点に疑問の余地はない。この女性読者は、彼氏が男らしいという事実については何の疑念も抱いていないと考えてよいだろう。

では彼女は一体何に疑念を抱いているのか。この問題はメールの中でとてもあいまいにしか書かれていないので、推測するよりほかない。一つの可能性として、「自分はもしかすると『男らしい』タイプを好きになれないのではないか」という疑念を抱いていることが考えられる。

彼氏が職人気質でもともと「男らしい」タイプであることを知って、そこにひかれて彼女は交際を始めた。しかし付き合ううちに、果たして自分は本当に「男らしさ」を求めていたのだろうか、少なくとも「男らしさ」をいちばん大事なことと考えていたのだろうか。そのあたりが自分であやしくなってきたという可能性である。

そうだとすると「男らしさを第一に求めていた私は間違っていたのでしょうか?」という質問の方が適切だっただろう。

もしそうでないとすれば、別の可能性が考えられる。たしかに思考より行動を優先する彼は「男らしい」のであって、自分がその点に引かれていることには間違いないのだが、自分にまで行動優先という「男らしさ」を求めるのはいかがなものか、という疑念である。本当に彼が「男らしい」のなら自分がどんな考え方やふるまいをしても、それを受け入れてくれるのが本来ではないか。ありのままの自分を受け入れてくれない彼と生活を共にしてもよいのだろうか。

そうだとすると「男らしさを自分にも求めるような彼と付き合ってしまったのは間違いだったのでしょうか?」と質問する方がよかったかもしれない。

しかしまだ別の可能性が考えられる。たしかに彼は「男らしい」し、自分も行動優先という「男らしさ」を身につけるべきだと思う。しかし行動優先という価値観が、男性にとっても女性にとっても望ましいこと、両性に共通の美徳であるなら、どうしてそれを「男らしい」と呼べるのか。もしかすると行動優先という美徳は「男らしい」のでも「女らしい」のでもなく、人間として誰もが持つべきものなのではないか。

そうだとすると「考え込むのなら行動しろ!という考え方は、はたして男らしいと言えるのでしょうか?」と質問した方が的を得ていた。しかしこの場合、彼女は純粋に言葉の定義についてだけ悩んでいるのであって、彼と結婚すべきかどうかを悩む必要はない。しかし行動優先という美徳を持ち合わせていない自分は、彼の結婚相手としてふさわしくないのではないか、という疑念を抱いているのかもしれない。

とりあえず以上3つの可能性を想定した上で、それぞれの質問に回答してみよう。

まず第一のケース。「男らしさを第一に求めていた私は間違っていたのでしょうか?」というのが本当の質問だった場合。彼女は自分の判断基準の正当性を疑っていることになる。回答は「間違っています」となるだろう。ただし間違っているのは「男らしさを第一に求めていた」ことではなく、「男らしさ」のような根拠薄弱であいまいなモノサシで結婚相手を選ぼうとしていたことである。

結婚相手の選択といったような人生の一大事にあたって、基準にする考え方として「男らしさ」なんてあいまいすぎる。こんないい加減な判断基準で結婚相手を選ぶべきではない。たとえば彼が生涯受取る可能性のある年収を、一定の利子率で割り引いて、彼の「正味現在価値」を計算してみるのはどうだろうか。年収の予測さえきっちりできれば、かなり客観性のある判断基準である。

あるいは、できるだけたくさんの親類縁者や友人にアンケートを送付する手もある。アンケートで彼氏の人となりをかんたんに紹介して、こういった人物と私が結婚することについてどう思われますか、という質問を1〜5点の5段階評価で回答してもらうとよい。回答結果の平均点をとって3点以上なら結婚するというのも、かなり客観的な判断基準だ。

次に第二のケースを見てみる。「男らしさを自分にも求めるような彼と付き合ってしまったのは間違いだったのでしょうか?」。この場合彼女は、自分の判断基準は正しいと信じているが、彼氏が当初予想していなかった側面を見せたことで、自分の判断の結果を変更すべきかどうかを悩んでいることになる。

この場合の回答は「あなたには二つの選択肢があります。一つは自分の判断基準を変えて、男らしさを自分に求めるようなタイプが自分にとって望ましいのだということにしてしまう方法。もう一つは自分の判断基準を変えずに、彼の性格を変えるか、彼と別れる」となる。

この回答を読めば分かるように、判断基準さえ明確であれば、どのように行動するかはたちまち場合わけできる。楽といえば楽だ。それぞれの場合に自分が何を捨てて、何を得るのかも比較的はっきりしている。自分が何を妥協したのか、その結果何を得たのか。この二つを意識しておくことで、少なくとも訳も分からず悩むということはなくなる。

最後に第三のケースを見てみる。「考え込むのなら行動しろ!という考え方は、はたして男らしいと言えるのでしょうか?」。この場合彼女は判断基準に悩んでいるのではなく、言葉の定義について悩んでいることになる。このケースはいちばんありえないように見えるかもしれないが、実はもっとも根本的な問題なのである。

第一のケースですでに述べたように、そもそも「男らしい」という言葉の定義が誰にもはっきりしているなら明確な判断基準たり得たのであり、それにもとづいた判断についても悩まなくてよかっただろう。現実には「男らしい」という言葉の定義は非常にあいまいで、人によって考え方が違う。

したがってこの場合の回答は、「男らしいとも言えますし、男らしくないとも言えます。男らしさの定義は人によって違うからです。いちばん大切なことは、『男らしさ』という言葉に、誰もが疑問を抱かない明確な定義は存在しないということを知ることです」とでもなるだろう。

僕らは言葉が明確な定義を持っているという前提で、その定義にもとづいて行動を起こしてしまう。しかし先日書いた「ビジョン」「ミッション」の定義についてエッセーをお読みになって分かるように、あやふやな定義しかない言葉にもとづいた行動は大きな混乱を生んでしまうだけだ。

ただし、言葉がつねに明確に定義できないものであることもまた事実だ。「ビジョン」「ミッション」といったいかにも明確な定義を持っていそうな言葉でさえ、現に人によって異なる意味を与えられてしまっている。いたるところに言葉の意味についての誤解は起こりうる。まして「男らしさ」などといういい加減な言葉については言うまでもない。

言葉にもとづいて行動しようというときは、判断基準にした言葉そのものの定義が揺らいでしまうおそれを考えておいた方がよい。それは「男らしさ」に限ったことではない。「恋愛」や「結婚」という言葉についてもそうだ。

「当然、結婚とはこういうもだと相手も思っているはず」というような期待で結婚するのは間違っている。むしろ相手と自分の「結婚」という言葉に関する定義は必ずどこかで食い違っているはずだという認識から出発すべきなのだ。このことを認識するには「まず行動!」という原理にしたがうのではなく、「まず言葉について考えてみること」、少なくとも「言葉について万人が共通の理解を持っているということを一度疑ってみること」が必要になる。

その意味で、行動する前に、その行動をしようとしている自分自身の頭の中をもう一度ふりかえってみるというのは大事なことだ。この相談者の彼氏が、こうしたふりかえりそのものを無駄なことだと考えているなら、やや不安である。彼は、彼の考えていることが即、彼女の考えていることであると信じているおそれがあるからだ。

この相談者の置かれている状況に何か問題があるとすれば、この点だけだろう。つまり、彼氏が、彼女も結婚に対して彼と同じような期待を抱いていると思い込んでしまっている可能性がある点だ。なぜこの点だけが問題なのかと言えば、恋愛や結婚に関する大抵の問題は、当事者どうしが対話をすることで解決できるのだが、彼女も自分も同じ考えだと思い込んでしまったが最後、対話そのものの可能性が奪われてしまうからだ。

この相談者が、何であれ彼氏との関係に疑問を感じ始めたというのは、決して悪い兆候ではない。むしろ彼と本格的な対話を始めるきっかけと考えるべきだろう。彼と彼女が結婚について抱いている期待がいったいどんな風に食い違っているのか。それを対話を通して確認すること。そして無理に完全に一致させようとしないこと。それが現時点で僕が提供できる実践的な助言だ。



sub title home > 日常生活を考える > 愛と苦悩の人生相談
筆者のブログ
「愛と苦悩の日記」
おすすめ記事