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![]() 米国、女性差別の枢軸 ( 20020824 ) 2002/08/24日本経済新聞朝刊国際1面に米国上院が22年ぶりに「女子差別撤廃条約(Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination Against Women:Cedaw)」を採決するという記事があった。ただし採決は行われるが、共和党保守派の抵抗で可決は困難との見通しらしい。 日本を含む170か国がすでに同条約を批准しているのに、先進国でまだ批准していないのは米国だけということを意外に感じた人もいるかもしれない。条約をわざわざ批准するまでもなく、米国では女性差別撤廃の努力が行われていると考えるなら、それは完全な間違いである。むしろ米国の保守派が第三世界の女性がおかれている状況を改善するのとは、まったく検討違いな方向をむいていると考えた方がよい。 日本経済新聞には2002/08/24に掲載されているが、調べてみるとこのニュースはすでに2002/07/30に『The New York Times』で報じられている。ブッシュ大統領は同条約の目標としているところについては支持しているが、保守派からの圧力で事前に内容の精査をするために採決を延期するよう上院に求めていた。だが民主党はこの要求をしりぞけて11月の中間選挙前に採決が行われるようにする意図があるようだ。 もともと同条約は1980年に当時のカーター大統領が署名をおこなったまま、レーガン、ブッシュ両大統領が批准要求を拒否してきた。1994年にクリントン大統領の後押しで、上院外交委員会(Senate Foreign Relations Committee)が批准を勧めたが、上院での採決にまではいたらなかったという。 長老のヘルムズ上院議員(民主党)は「同条約の支持者がこの条約を利用してラディカルな妊娠中絶政策を推し進めようとしているのはおそらく間違いない」と言ってるようだ。どうやら反対しているのは共和党保守派だけではないらしい。上院の民主党議員は共和党にも同条約が受け入れられるような追加条件について議論する意思もあるとのこと。 保守派が問題にするのはこのようにつねに「妊娠中絶」である。しかしこれがとんでもない検討違いであることは、これから述べる。 ブッシュ共和党政権になって女性政策について保守化しているのはこの条約だけではないらしい。2002/08/21付け『International Herald tribune』にニコラス・D・クリストフ氏による『The New York Times』紙のコラムが転載されており、見出しは「An 'Axis of Medieval' Bush sides with oppressors on women's rights abroad(中世の枢軸。ブッシュ、海外の女権抑圧者を支持)」となっている。「中世の枢軸」というのはブッシュ大統領がイラクなどを指していつも用いる表現「悪の枢軸」のもじりで、大統領自身が女性の権利について中世風のきわめて時代遅れの政策を、いくつかの他の国と同調してとっていることを批判しているようだ。 具体的にはブッシュ大統領が2002/07/22に「途上国の人口政策援助などを担う国連人口基金に今年拠出する予定だった約3400万ドル(約40億円)を拠出しない方針を決めた」(毎日新聞2002/07/23付け記事より)ことがあげられている。その理由は中国の一人っ子政策など強制的な産児制限にその基金が使われているということだが、毎日新聞の記事によれば米国の拠出金は基金の約1割をしめているということで、影響は甚大だ。ちなみにマラソンランナーの有森裕子や女優の岸恵子が同基金の親善大使をつとめているらしい。 以下、クリストフ氏のコラムを引用しながらブッシュ政権の過剰な保守性を指摘していきたい。 米国の決定がどういう結果になるか、『The New York Times』のコラムはアフリカ中部にあるブルンジ共和国の事例をあげている。ブルンジ共和国では2002年に分娩(obstetric)支援の緊急プログラムが施行される予定だったという。同国では全出産件数のたった4分の1にしか助産婦(midwife)がつかず、そのため出産時に8人に1人の女性が命を落としてしまうのだという。 そしてブッシュ大統領の決定のためにこの支援プログラムがキャンセルされた。それだけではない。アルジェリアでの助産婦研修プログラム、ハイチでのAIDS撲滅センター支援、インドでの産褥死を削減するプログラムなどがすべてキャンセルされてしまった。 しかし、米国の保守的な政策はこれにとどまらない。貧しい女性に対する健康管理支援などの国際的な取り組みを意図的に阻害しているというのだ。具体的には2002/08ヨハネスバーグで開催された地球サミットでの交渉を、合意文書から「人口再生産健康サービス(reproductive health service)」という言葉を削除しろと主張して中断しているのだ。その理由はこの "reproductive health service"が妊娠中絶を連想させるためである。 さらに米国は、妊娠中絶に関する情報を提供する国際組織が米国からの支援金を使うのを禁止することで、家族計画の国際的努力に壊滅的な打撃を与えている。またブッシュ政権は世界AIDS基金に5億ドルの拠出を約束しておきながら、その基金がすぐに使われないようにするためのうるさい注文をつけているということだ。 その一つの例として売春防止があり、この点については米国の保守的なキリスト教徒は第三世界の女性を代表してその戦いを主導しているのだが、ブッシュ政権はこの保守派の声にも答えていない。2002/06/28に保守派のリーダたちはブッシュ政権を非難する手紙を送り、その中でブッシュ政権は「世界各地で行われている売春を現状のまま消極的に受け入れている」と指摘している。 コラムの筆者であるクリストフ氏は、どうしてブッシュ政権がこれらの問題に適切に対処できないのか、その原因を分析して次のように書いている。「ブッシュ政権はこれらすべての問題の根本にあるのは中絶とセックスの問題だと仮定しているが、それが間違いなのだ。ここで中心的な問題となっているのは、毎年、妊娠や出産のために50万人の女性が死亡していること、1億人の成人女性や少女が十分な食糧や医療が手に入らなかったり、中絶されたり誕生時に殺されたり、単に女性だからという理由で殺されていること、1億3000万人の少女が女性器を切除されていること、毎年100万〜200万人の成人女性や少女が売春市場で取り引きされていることなのである」。 つまり貧困のために命の危険にさらされている女性をいかに支援するかということが問題であるにもかかわらず、ブッシュ政権は性のモラルの問題と取り違えてしまっている。目の前に十分な医療を受けられずに死んでいく具体的な一人ひとり女性がいるのに、ブッシュ政権はモラルの問題を理由に彼女たちを見殺しにしているのだ。 それによってブッシュ政権はイラン、スーダン、シリアなどの国家と共同戦線を張っていることになっている。それを称してクリストフ氏は「axis of Medieval」と書いている。ここでも日本は無批判に米国に同調するのではない、独自のスタンスをとることが求められている。 無断転載禁止
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