![]()
![]() 不況の意外な解決策 ( 19990121 ) 自分の頭の悪さに落ちこんだ。サラリーマンをやってると、物事を難しく考えるのは悪いことだと刷り込まれるが、まだまだ考えるべき難しいことはたくさんあるし、もっと自分の思考能力を鍛えなきゃダメだと思った。 『クルーグマン教授の経済入門』(山形浩生訳 メディアワークス)を読んだのだ。クルーグマンの『良い経済学・悪い経済学』についての感想はこのページの「経験主義の弊害」にも書いたが、教授の本は経済学のド素人である僕が読んでも目からウロコで、最新の経済学の成果が誰にでも分かるように書かれてある。 この本を読んで教授自身のホームページがあるということを初めて知ったが、ここにある教授の書き物の一つ I KNOW WHAT THE HEDGES DID LAST SUMMER に think or die にピッタリの文章を発見した。 「内部情報らしきものを嗅ぎまわるより、データについて一生懸命考えるほうがずっと多くのことを学べるものだ」。僕は「経験主義の弊害」で、思考を軽んじ、経験を過大評価するサラリーマン社会を批判した。クルーグマン教授も言うように、人脈を使って内部情報を嗅ぎまわるより、堅固な理論でデータ分析をする方が正しい経営判断ができるに決まっているのだ。 さてこの『クルーグマン教授の経済入門』、第5部までは快調に楽しめるが、番外編として収録されている「日本がはまった罠」という論文は超むずしい。一部は僕の経済学の素養がなさ過ぎるせいだが、僕の頭が悪すぎるせいもある。なぜならこの論文の趣旨を「幼稚なたとえ話」で解説した Baby-Sitting Economy はウソみたいによく分かるのだ。 「日本がはまった罠」は日本の現状が「流動性の罠」でスッキリ説明できると論じている。去年の秋このページで紹介した『エコノミスト』誌の記事は日本が「流動性の罠」に陥るかもしれないと指摘していた。クルーグマン教授によれば、現にそうなっているのだ。 ただ、出不精な夫婦もいれば、お出かけ好きの夫婦もいて不公平だから、他人の子を1回子守りするとクーポン券1枚もらえ、逆に子守りを頼むときはクーポン券1枚わたす規則にする。 ところがある夫婦がしばらく外出の予定がないので、いざ出かける時のためにクーポンを貯め込む。そうしてみんなクーポン貯め込み始めると、町に出回るクーポンの数が減る。すると他の夫婦にクーポンを取らせまいと、みんなが外出を控えるようになる。これが「不況」。 そこで町役場がクーポンを追加で発行したら、みんな安心して外出し、クーポンを使うようになって問題解決! でも、長い旅行をするとき、手持ちのクーポンが足りないとなったらとても不便。そこでクーポンを町役場から借りられる仕組みを作った。ただし返すときには利子をつけて。 このおかげでみんな以前より手持ちのクーポンが少なくてすむ。必要になればいつでも借りられるから。で、みんなが外出する季節(好況時)にはクーポンの利子を高くして出来るだけ外出しないようにし、みんな外出したがらない季節(不況時)には利子を低くして、外出したがるようにする。 でもすっごく寒い冬が来た。いくら利子を低くしてクーポンを借りやすくしても誰も外出しない。他人の子守りをしてクーポンを増やせないから、自分のクーポンも使わずに貯め込む。だから余計にクーポンを増やすチャンスが減って...と悪循環。これが日本の現状。 日本人はいつまでも冬が続くと思っている。なぜ日本人が短期金利はほぼゼロなのに「クーポンを使いたがらないのか?」この問題はたいして重要ではないと教授は考えているようだ。もっと重要なのは、どうしたらこの「流動性の罠」から抜け出せるか。 たとえば貯め込んだクーポン1枚で、今なら24時間の子守りを頼めるけど、夏になったら20時間の子守りしか頼めなくなると知ったら?じゃあ今お出かけする方がトクだ、という夫婦が出てくる。 教授は「流動性の罠」から脱するには長期的なインフレ期待を人為的に作り出す(日銀がそう宣言する)必要があると言っている。今なら100円でチョコレート10個買えるのに、1年後には8個しか買えないぞ(=今後インフレが続くぞ)となれば、みんな今すぐお金を使うようになる。 そんな教授の説が激しい批判を受けているのは、「インフレ=悪」という根強い考え方があるかららしい。僕はコメントできる立場にないが、前例のない現象(流動性の罠)には前例のない方策が必要だという教授の論には賛成する。 教授のホームページには、他にもなるほどと思わせる小論がたくさんある(一部は上掲書の翻訳者山形氏のサイトで読むことが出来る)。 これら教授の慧眼はもちろん堅固な論理があってこそだ。僕にとっても妥協点なんて存在しない。教授の「入門書」にさえ完全についていけない自分の無能さを思い知り、これからも哲学を中心に論理的思考能力を鍛えねば、と思ったのでした。 Baby-Sitting Economy をちょっと要約してみる。子持ちの夫婦がたくさん住んでる町があった。彼らは子守りを雇う金を節約するために、どこかの夫婦が出かけるときは別の夫婦が子守りをしてあげるという相互扶助のしくみを作った。 無断転載禁止
![]()
|