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ERP金の仔牛
( 19980423 )

Japanese/English

仕事の関係でSAP R/3について勉強すればするほど、なぜこれだけ多くの日本企業がSAP R/3を導入しようなどどいう気になるのか分からなくなる。というのは、SAP R/3の持っている文化そのものが、明らかに日本的経営になじまないものだからだ。

「SAPPHIRE大盛況の内に終幕!」なんて記事を新聞で読んだり、多くの企業が次々に導入する現状を目の前にすると、そう思っているのは僕だけだろうか?と不安になる。しかし今日、まさに僕とまったく意見を同じにするホームページを見つけた。一橋大学のある学生のページである。

このページには彼の卒論が全文掲載されているが、そのテーマがずばり「日本企業のERPパッケージ導入に関する考察」なのである。この論文では、NTTの子会社とおぼしき中堅企業でのSAP R/3標準モジュール導入事例が分析されている。読者の方はぜひご通読いただきたい。

この卒論の主張はきわめてシンプルである。


ERPパッケージを現場中心的な事業部制をとる日本企業に導入することは非常に困難なことだといえる。この問題を克服するためには、ERPパッケージにあわせた分業中心の欧米型組織へと移行するか、ERPパッケージを改造して、日本的経営にも適合するようにするしかない。

まったくそのとおり。反論の余地もない。

日本企業の情報システム構築では、現場の要求にしたがって細かく仕様を定義していくのが普通のやり方であるが、これはSAP R/3のようなERPパッケージと真っ向から対立する価値観である。

SAP R/3の導入が困難を極め、なおかつ高くつくことは、導入する前から分かっているのだ。一人の大学生が、卒業論文であっさりと「日本企業にSAP R/3は合わない」と結論づけられるくらい自明のことなのである。

それでもSAP R/3を導入しようとする「現場中心的な事業部制をとる日本企業」は、いったい何を考えているのだろうか?その経営者の情報システムに関する見識は、一大学生以下なのか?経営者の見識が疑われて当然であるが、ここでは経営者たちの心情をくみとって、できるかぎり同情的に考えてみたい。

まずひとつは、ERPパッケージの力を借りて、「現場中心的な事業部制をとる日本企業」からトップダウン型の事業部制に脱皮したいという、経営者たちのむなしい夢があるだろう。

そのような経営者たちは、自分の経営手腕のまずさを十分自覚しており、それを補うためERPパッケージという外圧を不可抗力のような形で導入する。そうすれば欧米型経営は実現するとむなしく夢見ている。

その夢があまりに強いために、一大学生が卒論で見抜ける程度の自明の真理さえ見えなくなって、ただでさえ枯渇しつつある経営資源をERPパッケージに惜しげもなくつぎこむ。彼らの病的な情熱は同情に値するだろう。

二つめは、このページにメールを下さった方の表現を借りれば、いまだに根強い「名誉白人感覚」である。つまり、仮にSAP R/3がシンガポールやインド、イスラエルのソフトハウスが開発したパッケージだったらこれだけ売れただろうか?きっと見向きもされなかっただろう。日本の経営陣には、欧米の経営ノウハウが無条件に優れているという悲しいまでの「名誉白人感覚」が残っているのではないか?

もちろん欧米の経営ノウハウはすぐれているだろうが、それは欧米の企業で適用されている限りにおいてであり、それをムリヤリ典型的な日本企業に接ぎ木してもうまく育つわけがない。現実的なのは漸進的・段階的な風土改革であることは言うまでもないだろう。

三つめ。それでも日本企業の経営陣が、まるでSAP R/3を導入すること自体に意味があるかのように導入競争を繰り広げているのは、彼らのあせりだろう。とにかく早く制度改革を行わなければならないという意識ばかりが先走り、足元を見直す余裕を完全に失っている。

このように、欧米型企業への脱皮によってグローバル・コンペティションの時代に生き残ろうとする欧米コンプレックス丸出しの経営陣たちが、周囲からせっつかれているところに、ドイツから救世主が現れた。

主ご自身は、みずからの強さも弱さもひとしくお示しになり、おごるところもなかったのだが、経営者たちはたちまちその教えに魅せられ、主のみこころに反して金の仔牛を作ってしまった。主ご自身が「それはまちがっている」とくりかえし言われても、彼らは金の仔牛を拝み続けた。

先を争ってERPパッケージを導入する「現場中心的な事業部制をとる日本企業」の経営陣は、そのような悲しい偶像崇拝者の群れに他ならない。


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