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ERP胡蝶の夢
( 19980216 )

Japanese/English

驚くべきことは、新しい道具を使えば、自分の腕が上がると、本気で信じている人がまだいるということだ。

別の言葉で同じことを言い換えると、新しい業務用パッケージソフトを導入すれば、自分の会社の業績が上がると、本気で信じている経営幹部がまだいるということは、信じがたいが、悲しい事実である。

そのような愚かな経営者はおそらく、他社が業務用パッケージソフトを導入して業績を改善したのを見て、次のように判断したのだろう。


「どうやらSAPという新しいソフトウェアが出たらしい。そして、そのソフトウェアを導入した企業は業績を改善してる。だから、そのSAPはすぐれたソフトウェアなのだ。うちも導入しよう」

一見もっともに思えるこの経営者の判断が、どこで重大なミスを犯しているか、あなたは気づくだろうか?では、正しい判断を次に書いてみよう。


「どうやらSAPという新しいソフトウェアが出たらしい。そして、そのソフトウェアを導入した企業は業績を改善してる。だから、その会社の情報システム戦略はすぐれているのだ。うちも情報システム戦略を練りなおそう」

問題の経営者は、自分の会社の情報システム戦略のまずさに完全に盲目になっていたのだ。そして、新しいツールを導入しさえすれば、他社とまったく同じ条件で業績が改善すると信じ込んでしまっている。

いくら SAP R/3のようなすぐれたツールを使っても、使い方を知らないのでは成果が上がるはずがない。単に開発費を食いつぶすだけである。それはこのページで先に引用した米『FORTUNE』誌の記事にも明らかである。自社の業務改革にまったく着手せずに業務パッケージを導入し、倒産した企業の例もある。

哀れなのはそのような経営者を頂く企業の、ユーザ部門の社員たちだ。彼らは経営者の言葉を信じて、あたかも新しいツールがバラ色の未来を約束してくれるかのように夢想する。

しかし、遅かれ早かれ、彼らは幻滅を覚えることになるだろう。一方で新たな業務パッケージの導入に意気揚々たる経営幹部たちは、ひとり気を吐いて部下たちを急き立て、他方では、新しいツールを導入しただけではどうにもならないという現実を知った現場の社員たちは意気消沈していく。

おそらく経営幹部たちは、そのような意気消沈を、社員のやる気のなさと誤解するだろう。もともと自分たちが、自社の根本的な問題に盲目なまま業務パッケージを導入し、一流プロと同じドライバーを手に入れれば、それだけでシングルプレーヤーになれるというとんでもない勘違いを犯しているにもかかわらず。

そして、SAP R/3 のような業務パッケージは、いわば All or Nothing のシステムだ。導入するなら、人事・経理・購買・販売・生産・物流が一体となって導入しなければ、効果など出るはずがない。

部分的な導入が、その会社の情報システムをいかに悲惨な状況に追いこむかは、少しの知恵があれば十分に予測できる。SAP R/3 とその周囲にある既存のシステムとの間に、「橋わたしシステム」が無数に発生する。

仮に5つの部門がある事業所で、経理部門だけが SAP R/3を導入したとすると、SAP R/3 の導入負荷に加えて、4つの「橋わたしシステム」が必要になる。その検証作業に膨大な工数が必要なのは言うまでもない。

だとすると、SAP R/3 を合理的に導入できる組織の大きさはおのずと決まってくる。中規模の企業がむしろ有利であることは言うまでもない。

大企業については、十分な権限委譲が行われていて、事実上の分社化が完成している企業でしか効果は上がらないだろう。本社がなければ機能しないような、不十分な事業部制をしいている大企業が、SAP R/3 のような「All or nothing」的な業務パッケージを導入するのは、結局「すこしだけましなメインフレームの焼き直し」をするに終るだろう。

したがって、自分の会社の長短をよく知っている経営者は、オラクルやマイクロソフトなどの、オーダーメードの開発になじみやすい開発ツールを使って情報システムを構築する。それによって、自社の業務風土を無理なく引き継ぐとともに、業務効率化の成果を出す。

不十分な事業部制を持ち、急激な業務改革は無理だという企業は、自分の限界をわきまえて、オラクルやマイクロソフトの標準的なツールでダウンサイジングに取り組むべきなのだ。

繰り返して言えば、SAP R/3 で成功している会社は、SAP R/3 が優れたツールだから成功したのではなく、経営戦略が優れていたから成功したのだ。おそらくそのような会社は、どんなツールを導入しても成功しただろう。

逆に、「他社が成功したのは SAP R/3が優れたツールだからだ」と誤解して、自社の業務改善を棚上げにし、盲目に SAP R/3を導入した会社は、失敗はしないまでも開発コストを浪費するだけだろう。おそらくそのような会社は、どんなツールを導入してもパッとしないだろう。

そのような会社の経営幹部は、完全オーダメードでシステムを作るよりも、パッケージを導入するほうが「賢明だ」と信じている。しかし、自分の体に合った洋服の方が、はるかに動きやすいのは自明の理だ。自分の実力に合ったクラブを選ぶ方が、はるかに「賢明」なのも自明の理だ。

業務パッケージを導入して、ツギハギだらけの非効率なシステムをでっちあげるよりは、開発ツールを統一した上で完全オーダメードを目ざした方が、ソフトウェアの品質の作りこみもかえってやりやすいだろう。

なぜそんな当たり前のことが、彼らには分からないのか?

結局、経営のまずさは、当たり前のことが当たり前にできないことである、ということなのか!


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