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愚かなシステム移行
( 20020414 )

Japanese/English

前回に引き続き、マイクロソフトが大々的に展開している反ノーツ・キャンペーンのWebサイト(「ノーツ/ドミノユーザ支援サイト - .NET Wave」)への反論である。

このWebサイトを開くとFlashによるアニメーションが始まるが、今回はまずこのFlashの内容を検討する。例によって結論から先に言えば、ノーツと他のツールを統合するにせよ、仮にノーツを廃止してWebベースのツールに移行するにせよ、ノーツがもつ可搬性をそのままに新システムを構築する最良の選択肢がWebsphereであることは議論の余地がない。

ここにマイクロソフトがこの時期になって「.NET Wave」のようなサイトを公開したもう一つの理由がある。一つめの理由はようやく「.NET Framework」の開発環境が製品化されたことで、Exchange2000も含めた「.NET」アーキテクチャのロードマップが具体化されたこと。そしてもう一つの理由とはWebアプリケーションサーバ市場でIBMのWebsphere Serverが猛烈な勢いでBEAのWebLogicを追い上げていることだ。IBMがロータスを買収したことで今後ノーツとWebsphereの統合が進むことに危機感を抱いているのではないか。

おそらくマイクロソフトは.NETアーキテクチャがJ2EEに続いてWebアプリケーション開発プラットフォームの対抗勢力になると信じており、そのためには既存のノーツ利用者をWebsphereではなく.NETの方へ今から誘導しておく必要があると判断したのだろう。だからこそノーツからExchange2000へという、冷静に考えれば費用対効果のないシステム移行を熱心に提案してきたのだ。

ノーツを移行すること自体が問題なのではない。ノーツの移行後のシステムとしてExchange2000を選択することが無意味なのだ。どう分析してもノーツとExchange2000は一長一短であり、Exchange2000に絶対的な優位性があるわけではない(もしも機能面か費用面で絶対的な優位性があったならば、マイクロソフトがこれほど躍起にならずともExchange2000は飛ぶように売れているはずだ)。仮に企業がノーツを移行する必要を感じたのなら、たとえばメッセージング、文書管理、ワークフローなどの機能をそれぞれに最適化されたパッケージに分業化し、改めてポータル構築ツールで統合するという手段をとるべきだろう。もし企業がそこまでする必要を感じないのなら、その企業はメッセージングとデータストアが1つのパッケージになっている事実に何らかの利便性を感じている証拠だ。いずれにせよノーツからExchange2000という移行は明らかに費用対効果がない。

ここであえてノーツ側の利点を強調する書き方をすれば、ノーツR4.xからR5.xへの移行負荷を障害と考えてノーツを捨て、Exchange2000へ移行してしまった企業は悔しさに歯噛みすることになるだろう。今後もWebpshereとノーツの親和性は改善し続け、それはノーツがWebsphereで非定型情報ストレージの1コンポーネントとして吸収されるところまで徹底されるかもしれない(個人的にはそうなることを願っている)。現時点でJ2EEと.NETを比較した場合、対応可能なシステム規模と導入実績の点でJ2EEが圧倒的優位にある。

それらの企業が仮にExchange2000へ移行するのではなくR5.xへ移行した上で、ドミノサーバ上のコンテンツをWebpshere経由で提供するシステム構成をとっていれば基幹システムとの連携・統合も可能になったはずだ。ところがExchange2000への移行を選択してしまったために、将来はUNIXベースになるであろう基幹システムとWindows系のExchangeというOSの異なる2つのシステム連携という課題を新たに生み出したことに気付いているのだろうか。

問題なのはSharePointなどのポータルサイト構築ツールで解決できるユーザインターフェース側の統合ではなく、バックエンドでのシステム統合なのである。例えばワークフローと基幹システムが連携する場合、メッセージングと基幹システムは単に連携可能だというだけでなく、同レベルの信頼性・拡張性・障害耐性を持つ必要がある。でなければメッセージングは基幹システムの一部として機能しないからだ。

この問題点に対してExchange2000が提示できる解決策は、所詮WindowsというOS自身の信頼性の枠内にとどまる。いくらExchange2000自体がストレージ部分のSQL Serverへの移行やクラスター化など、拡張性や信頼性を確保する機能を持っていても、システム全体の拡張性・信頼性を決定付けるのはやはりOSなのだ。ノーツから.NETアーキテクチャへの移行の真価は今後発売される.NET対応Windowsの品質にかかっている。他方ノーツというメッセージング・システムはUNIXという選択肢を用意することで、すでに現時点で基幹システムと同等の信頼性を担保できる(なんといってもノーツは旧OS/390でも動くのだから)。

このような点を考えても企業のメッセージング・システムとしてOSの制約のあるExchange2000がいかに不利な選択であるかが分かる。J2EEの普及状況や技術動向を冷静に評価することなく、ノーツR4.xからの移行をあせってExchange2000に移行してしまったキャノン販売などの企業は、果たして適切な判断をしたと言えるだろうか。

「.NET Wave」トップページのFlashに話を戻そう。このFlashアニメーションは最初に「情報の氾濫」を解決するための「情報管理」や情報の「検索性」の重要さを訴えている。しかしノーツもExchangeも情報の検索キーを多次元化することができるが、それでも利用者が情報を検索しにくいと感じる場合、悪いのはシステムではなく情報管理の制度の方なのである。紙ベースでの文書管理がまともにできない企業は、もともと文書管理ルールを徹底できるだけの制度の強制力を持たないのであって、そのような企業がいくらノーツやExchangeを導入しても結果は同じ。ツールの導入をきっかけに社員がルール化の重要性に気付くだろうというのは、システムを導入する側の虫の良すぎる考え方である。

(なお文書管理などルールと呼ばれるものを社内に徹底できないのは個々の社員のせいではない。制度の強制力が正常に働く職制が整備されていないのがその原因だ。管理職と部下の命令系統が機能するように人事制度上、最低限の信賞必罰が明文化され、現実に施行されていればルールの徹底はさほど難しい問題ではない。たとえば遅刻の常習者は減給処分にするなど、一般的な倫理観からして導入に反対できない規則、つまりやろうと思えばいつでも導入できる規則から導入していけばいいだけの話である。ところがルールを徹底できない企業では往々にして例外的な「特権」が各所に存在し、遅刻することを臆面もなく既得権益として主張する社員がかえって幅をきかせていたりする)

ただ文書の整理整頓さえできない三流企業でも、情報技術の力を借りて強引に検索性を改善させることはできる(逆に言えば安易に情報技術に依存する企業は組織運営において三流であることを自ら認めているようなものなのだが)。それが全文検索ツールだが、サードベンダー製品を導入しない限りノーツもExchange2000も標準で付属している全文検索機能は、ルールにもとづいた文書管理をカバーするほど十分ではない。ルールによる文書管理を本気でカバーしようと思えば、各企業の業種や業務実態に沿った類義語辞書を事前に整備する必要がある。

類義語辞書と文書管理ルールのどちらが整備するための費用がかかるか。個人的にはルールの方がはるかに安上がりだろうと考える。というのは運用ルールというのは、人間の持つ高度な判断力(残念ながらコンピュータはいまだに2値の論理判断を高速に行うしか能がない)を信頼している一方、類義語辞書は人間を信頼せず、その誤りを機械的に訂正して、せいぜい望みの検索結果が出る確率を統計学的に高めることができるだけだから。いずれにせよ情報の検索性を情報技術で解決しようという発想自体が間違っている、ということだけは間違いない。

以上で指摘した他にも「.NET Wave」トップページには根拠の薄弱な紋切り型が羅列されており、分別のある企業の情報システム担当者であればただ眉をひそめるばかりであろう。


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