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IT衆愚政治
( 20000920 )

Japanese/English

出た。堺屋長官、世紀の愚策「IT受講カード」。2000/09/19に政府が原案をまとめた「IT受講カード」はインターネットの使い方など90分間8回の講座を想定、その半額6000円を補助する制度で、20歳以上のすべての受講希望者を対象としている。必要な経費は3000億円。こんな愚策のために3000億円の財政出動だ。

まず90分8回で12000円という良心的なパソコンスクールがあるかという問題がある。某大手コンピュータメーカーの教育サービス子会社のホームページを見ると、「ワード活用〜ビジネス文書作成〜」の1日コースが20000円弱だ。12000円でいったい何が学べるというのか。

まあいい。仮に12000円の講座があったとしよう。だがその半額6000円ぽっちの金額を面倒な手続きを踏んでまで補助してもらおうという「受講希望者」とはいったいどんな人物なのだろう。

多くの会社員のように情報リテラシーが給与に直結してくる人々は6000円くらいの費用ならよろこんで自己負担するだろう。だとすれば政府が想定しているのはいわゆる「情報弱者」なのだ。つまり「IT受講者カード」はデジタルデバイド解消のための福祉政策ということになる。

もしそうだとして、今までパソコンを一度も使ったことがない人々が、たった90分×8回の講座でインターネットを使いこなせるようになるだろうか。そもそもそんな人たちがインターネットに目覚め、20万円近い費用を負担してパソコンを購入する動機付けのために6000円ぽっちの補助金が有効だろうか。

まずそんなことはありえない。インターネットを使いこなせるかどうかという不確定要素を抱えながら20万円の出費ができる所得層なら、6000円くらいの金額は政府が放っておいても自分でつかってくれるだろう。いったい政府は「受講希望者」としてどんな人たちを想定しているのか理解に苦しむ。

まだある。仮に貯金から思い切って20万円を使いパソコンを購入したとして、ISDNを使い始めるのに3万円程度の初期費用がかかり、毎月の通信費用として1万円前後の出費が予想される。ランニングコストまで考えれば、6000円の政府補助なんてゴミみたいな金額ではないか。

まあいい。仮に6000円政府に補助してもらって巷のパソコンスクールで「インターネット講座」を受講し、8日間で奇跡の学習成果をあげて、インターネットが使いこなせるようになった人物が、20万円でパソコンを購入し、3万円程度の初期費用でISDNに接続し、毎月1万円前後の通信費の負担にもめげずにインターネットを使い始めたとしよう。

ところが、である。パソコン教室のLAN環境ではあれほどサクサクと閲覧できた音楽や映像が、自宅のパソコンでは紙芝居のようにぎこちないではないか。オンラインショッピングしようとしたら、商品の画像が表示されるのにもイライラしながら待たなければならないではないか。天気予報を見ようとしたら「ひまわり」の雲の画像が完全に表示されるまで1分以上もかかるではないか。

その人はきっと「だまされた」と思うに違いない。結局、日本がまず必要としているのは高速な通信インフラであって、6000円ぽっちの金をバラまくことではない。

政府は「IT受講カード」をケインズ的な有効需要創出策だと思っているらしいが、冒頭にも書いたように客観的に見れば情報格差対策としての「福祉政策」にすぎない。だが福祉政策は飽くまでセーフティーネットであり、市場経済が十分に機能しているという前提で、その市場経済でふるい落とされた弱者を救済するためのものだ。

ところで日本のインターネット・インフラ市場は、市場経済が十分に機能する苛烈な自由競争の世界になっているというのか。答えはもちろんNoである。NTTの寡占で硬直した状態が続き、ただでさえ日本の通信料金は欧米諸国と比較して高すぎる、遅すぎると言われている状態だ。そんな不完全な市場にむかって「福祉政策」を打つというのがとんでもない愚策であることは言うまでもない。

同じ3000億円の税金を使うなら、当然、光ファイバー敷設などインターネットのインフラを整備する公共事業につぎこむべきだろう。そもそも3000億円くらいの金ならいわゆる「従来型」公共事業を見直せばたちまち捻出できるだろう。

まず必要とされる策を打たずに、いきなり情報化社会向けの「福祉政策」を打ち出してしまうというところに、日本政府のIT音痴ぶりが恥ずかしいほどハッキリと現れてしまっている。

堺屋長官は他にもIT関係で「インパク(インターネット博覧会)」などの奇策を打ち出しておられるが、いちばん「IT受講カード」を必要としている人、それは堺屋長官ご本人ではないのか。


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