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![]() アパレルと情報システム ( 19980309 ) 経験者は尊敬されるべき存在ではあるが、経験者の判断が経験の浅い人間の判断より正しいとは限らない。こと、情報システムに関しては、むしろ経験者ほど、判断を誤る材料を多く持っている。 情報システムの世界で経験者と言えば、多くはメインフレーム経験者であり、経験の浅い人間と言えば、クライアントサーバシステムの経験しかない人間のことだ。 メインフレーム経験者は、コンピュータの動作原理はノイマン博士以来変わらないはずだという前提で、メインフレーム時代の自分の経験をよりどころに、クライアントサーバを語ろうとする。 たしかに、コンピュータそのものの動作原理は、メインフレームであろうが、クライアントサーバであろうが大差はないだろう。技術的にデリケートな問題も、メインフレームの経験があればさほど困らない。 ただし、モノは同じでも、メインフレームとクライアントサーバを取り巻く商業的な環境、つまりその「売られ方」はまったく違う。システムエンジニアは「技術者」であるがゆえに、この「売られ方」の差異にあまりに無頓着である。 「売られ方」の違いのために、結果的にメインフレームとクライアントサーバは、動作原理が同じであることがどうでもよくなるほど、似ても似つかないものになってしまっている。 ありふれた例え話しをするなら、メインフレームはオーダーメイドの洋服であり、クライアントサーバは既成服である。 オーダーメイドの洋服店では、客は生地選びから始めて、採寸、ダブルかシングルかなど細かなデザイン上の打ち合せを行い、洋服ができあがる。ここで問題なのは、洋服を作る過程そのものである。 信頼できる仕立て屋さえいれば、どの店に注文するかはさほど問題にならないし、仮に多少腕のまずい仕立て屋に当たったとしても、こちらの要求を正確にくり返し伝えれば、そこそこのものができるだろう。また、仕上がりがまずかったときには、文句を言って直させることもできる。 一番いいのは、ある特定の仕立て屋のなじみ客になって、ふだんから親しく付き合い、こちらの要求をよく理解してもらうことだ。そうすれば、言葉に出して言わなくとも、思っていることを汲み取ってくれ、仕上がりの良いスーツができあがる。 それに対して、既成服の店では、客が洋服づくりに参加する余地はない。数限りない選択肢の中から、自分に合った洋服をいかに選ぶかが問題になる。 どの店を選ぶかで、ほとんどすべてが決まってしまう。アニエスbに入って、「このカットソーのボタンは気に入らないから、ピンクハウスのあのブラウスのボタンに付け替えてちょーだい」と言うことはできない。「なら、ピンクハウスでお買い上げください」と遠まわしに言われるのが落ちである。 なじみ客になることで、多少は気の利いた洋服選びのアドバイスは受けられるだろうが、だからといって、アニエスbが100%あなたの望みどおりの洋服を作ってくれるようになるわけではない。アニエスbが好みに合わなくなったら、Mary Quantに乗り換えるしかないだろう。 以上の例を、そのまま、メインフレームとクライアントサーバに読みかえれば、ほぼ実状に当てはまると思う。メインフレームでのシステム開発にとっては、「どう作り込むか」が最重要課題であり、クライアントサーバにとっては、「どれを選ぶか」が決定的である。 メインフレームの場合、稼動するシステムに合わせてOSレベルのチューニングまでできてしまうが、クライアントサーバの場合、例えば、自分のシステムはディスク書き込みがボトルネックになるから、Oracleのディスク領域管理の部分を、お手製のCプログラムに置き換えます、なんてことはできない。せいぜい、パラメータファイルの設定をいじるくらいである。 メインフレームでは、ベンダーとの交渉次第で、かなり踏み込んだカスタマイズが可能だろうが、クライアントサーバの場合はむしろ、既製品を「どう選ぶか」「どう組み合わせるか」にシステムの成否がかかっている。 もっと言えば、クライアントサーバの「売り方」は、この消費社会の進展にともなって産まれるべくして産まれたと言ってもよい。メインフレームの「売り方」は、コンピュータという最先端技術を売りながらも、売り方そのものは極めて「古風」だったのだ。 PC/ATアーキテクチャの公開により、かつてはオートクチュール・デザイナーたちの独占下にあったファッション業界にも、個性的なデザイナーが次々に参入するようになった。 消費者にとって、これは一面では望ましいことである。それだけ選択肢が広がったわけだし、今までは自分の好みのデザインがなくても我慢する他なかったが、今なら、101や丸井や西武やパルコになくても、原宿の裏通りなんかを徹底的に歩きまわれば、きっと好みの洋服が見つかるだろう。 ただ、他面では、これは消費者にとって大変なことでもある。今までは、丸井になかったからダメ。だから多少カッコ悪い服を着ていても、「いけてるデザイナーがいないしぃー」と言い訳ができる。しかし、「エー、あんたあの店知らないのぉ?」と言い返されると反論の余地がない。 情報システムの言葉で言いかえれば、あなたの選択が悪くて、ひどいシステムができあがってしまった場合、「そんな良いツールがあるとは知りませんでした」なんて言い訳は通用しないのだ。 消費社会を生きぬく秘訣は「賢い消費者になること」である。「賢い消費者」になるには、大量の情報を仕入れて、その中から選択する「目利き」になる必要がある。メインフレームの時代とはまったく違った才能と素質が、システムエンジニアに求められているのだ。 メインフレーム時代のSEは、富士通なら富士通、IBMならIBMという決まったお店の常連になり、自分の好みの洋服を徹底的に作り込むことが仕事だった。だから、SEに求められる資質は、じっくり腰を落ち着けて粘り強く交渉することである。 しかし、クライアントサーバ時代のSEは、ありとあらゆる製品の中から、今作ろうとしているシステムにぴったりの洋服を選ぶことから始めなければならない。そんなSEに求められるのは、むしろ「移り気」や「変わり身の早さ」のはずだ。 メインフレーム出身のSEは、「たとえ最初の選択を間違っても、粘り強くやればどうにかなる」と思っている。しかし、クライアントサーバのSEは、「仮に選択を間違ったことに気付いたら、できるだけ早く乗り換えることだ」と覚悟している。 いちばん滑稽なのは、クライアントサーバ系のベンダーを前にして、「チューニングでどうにかならんか」と粘っているメインフレーム経験者の姿である。そんなメインフレーム経験者に、僕は心の中で次のようにつぶやいている。 「あなたが苦労するのは、粘り強さが足りないからではない。そもそもの選択が間違っているのだ」 無断転載禁止
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