homeup mail to
sub title

GroupBoardの愚かさ
( 20020826 )

Japanese/English

2002/08/22マイクロソフトが20〜30名程度の規模を想定した、部門向けのグループウェア「GroupBoard Version2.0 Powered by SharePoint Team Services」の無償提供を開始したということだ。マイクロソフトはすでに「GroupBoard+Exchange Server」と「SharePoint Team Service」の2系列のグループウェア製品をもっていたが、今回の「GroupBoard Version2.0」でGroupBoardの基盤はExchangeではなくSharePoint Team Servicesに一本化されるという。

GroupBoardの旧バージョン1.x は Active Directory や Exchange 2000 Server が前提条件として必要だったため、部門向けグループウェアとして普及が進まなかったため、今回 Active Directory や Exchange と切り離した上での無償提供ということになったらしい。また注意したいのは「GroupBoard」という製品そのものが、マイクロソフトの日本法人が「サイボウズ」に対抗するために独自に開発したものである点だ。つまり米国法人がグローバルに展開する製品戦略とは無関係に、日本だけで提供されている、日本ローカルな製品であるという点を忘れてはいけない。

「GroupBoard Version2.0」の導入にはWindows 2000 ServerをインストールしたサーバとFrontPage 2002のライセンス1個、そして利用者数分のWindows 2000 Serverのクライアントアクセス・ライセンス(CAL)が必要になる。そしてそのWindows 2000 ServerはExchange Serverとの同居は不可となっている。

さて、以上の基礎情報から、マイクロソフト日本法人がいかに法人顧客の実情を正確に把握できておらず、的はずれなマーケティングをしているかを検証してみよう。

検証の観点として次のような点を考えてみたい。この製品は(1)大企業の一部門での利用を想定しているのか、中小企業での全社適用を想定しているのか、(2)20〜30人の閉じられた情報共有を狙っているのか、そのグループと外部との情報交換までを狙っているのか、(3)提供される機能をそのまま利用することを前提としているのか、追加開発による機能拡張(カスタマイズ)を前提としているのか。

まず(1)について。昨今、企業規模が大きくなるほど社内の「ITガバナンス」が重視されるようになっている。ITガバナンスとは本社の情報システム部門が、コストや機能について全社最適の観点から、各部門の情報システムについても統一的なルールにもとづいて導入の可否を決定することを言う。

もしも各事業部門や各部署が勝手に情報システムの導入を進めてしまうと、異なる種類のシステムが社内に乱立し、全社としてシステムの運用・管理効率も悪くなるし、コストが高くなってしまうためだ。これが「全社最適」ということである。

グループウェアもその例外ではない。たとえある企業が各部門内での情報共有を前提に GroupBoard やサイボウズを導入するとしても、すべての部門が同じ製品を導入して管理・運用ノウハウを共有しながら活用をすすめていくことが全社最適の観点からは望ましい。

仮に GroupBoard が大企業の各部門内での適用を狙っているのだとすれば、その顧客企業がまともな「ITガバナンス」を持っている限り、Exchange Server とまったく同じ顧客層の食い合いとなる。さらに大企業ならグループウェアとメッセージング(電子メール)の連携は必須であり、人事・総務系の情報など部門をこえて全社で共有すべき情報が必ず大量に存在する。このような条件下で各部門がバラバラに GroupBoard のような少人数向けグループウェアを導入することは、明らかに非効率である。

したがって GroupBoard は中小企業をターゲットにせざるをえないが、GroupBoard の運用には Windows 2000 Server の導入と Internet Information Server の運用が必要だ。またマイクロソフト日本法人のWebサイトから入手できる GroupBoard のインストールマニュアルを読めば分かるように、インストールするだけでもある程度の専門知識をもったスタッフが必要になる。

たとえば GroupBoard をインストールするサーバには Office XP そのものをインストールしてはいけないが、Office XP の Service Pack 1 はインストールする必要があるなど、細部は煩雑である。インストール用の実行形式ファイルを実行するだけで済むサイボウズのような製品と比較すると導入の敷居は高いといわざるを得ない。

(このように導入が煩雑になる最大の原因は、他のマイクロソフト製品との関係を適切に構成する必要があるためだ。つまり他のマイクロソフト製品に付属するのと同じファイルを重複して導入してはいけないし、すでに導入されている他のマイクロソフト製品に悪影響を与えるようなファイルを導入してはいけない)

そもそも20〜30名で情報共有をしたいと思っている中小企業が、わざわざ GroupBoard のようなファイルサーバ以上のしくみを導入する必要性を感じるだろうか。たしかに GroupBoard はロータス・ノーツ/ドミノや Exchange Server などの本格的なグループウェア製品に比べればはるかに運用・管理は簡単だ。しかしそれでも専門知識をもつスタッフのいない中小企業にとっては敷居が高い。

以上(1)の観点からすると20〜30名での情報共有をターゲットにしている GroupBoard Version2.0 は大企業の一部門にも中小企業にも適用不可能ということになる。

次に(2)の観点だが、GroupBoard Version2.0 は Exchange サーバに格納された電子メールやスケジュールを読み書きすることが可能となっているが、これは「サポート対象外」の「メール拡張機能」として提供されており、Exchange 2000 Server と連携した Outlook Web Access の機能を利用しているために Exchange 2000 Server が別途運用されている必要がある。つまり GroupBoard は Exchange 2000 Server 以外のSMTP/POPサーバと直接メールを送受信することはできない。

しかしExchange 2000 Server がすでに導入されている企業であればわざわざ GroupBoard を新規に導入する必要はない。したがって GroupBoard Version2.0 は「メール拡張機能」を持つにもかかわらず電子メールとの連携を考慮した製品ではない。したがってグループを超えた情報共有は、相手がたとえ社内であっても実現不可能ということになる。

他方「サイボウズ」を例にとってみれば、Office4の時代から一般的なSMTP/POPサーバと直接メールを送受信することができるし、最新バージョンの「サイボウズAG」では独自のSMTP/POPサーバが10万円以下の価格で提供されている。電子メールを利用して社内外と情報共有をするにあたって、Exchange 2000 Serverのような特定製品に縛られることがないということだ。電子メールは@niftyなど一般的なプロバイダと法人契約して、それを「サイボウズ」と連携させることも可能なのだ。

したがって(2)の観点からしても中小企業にとって GroupBoard Version2.0 の採用は現実的ではない。GroupBoard の場合、電子メールとの連携に Exchange 2000 Server が必須となるが、サイボウズなら一般のプロバイダであっても、自社のメールサーバであっても、標準的なメールサーバに対応しているからだ。

さらにサイボウズはグループウェア製品として携帯端末(PDA)とデータを同期する機能まで備えている。昼間オフィスにいることが少ない営業部員が社内で情報共有を行なうには必須の機能だが、GroupBoard Version2.0 はこうしたグループウェアにとって基本的な機能さえ備えていない。

最後の(3)の観点だが、ふつう中小企業向けのグループウェアにカスタマイズ機能は不要である。そもそも中小企業にはカスタマイズするだけの専門知識をもったスタッフが社内に存在しないし、外部の業者に依頼してカスタマイズするだけの投資をする動機にも乏しいと思われるためだ。通常は標準機能をそのまま利用することになる。

それでもカスタマイズを観点としてあげたのは、マイクロソフト製品に利点があるとすれば開発のしやすさではないかと考えたためだ。その他、グループウェアとしての基本機能や運用・管理の容易さを見ると GroupBoard Version2.0 はサイボウズのような導入実績のある製品に比較して明らかに見劣りがする。GroupBoard を導入する理由がどこかにあるとすれば、それはカスタマイズのしやすさではないかと期待したのだ。

カスタマイズのしやすさについて比較する対象は FileMaker のようなカード型データベースだろう。FileMaker は関係データベースの知識がなくても利用者が気軽にデータベース構築できてしまうことから、Macintoshユーザを中心に情報共有のために広く利用されているようだ。サイボウズでもデータベースを気軽に構築するための道具として「DBメーカ」という製品が提供されている。

では GroupBoard Version2.0 は、FileMakerや Office 製品群として提供されている Access 以上にかんたんなデータベース構築の手段を提供しているか。答えはノーである。

マイクロソフト日本法人のWebサイトで GroupBoard のFAQを調べると、「GroupBoard 2.0 をカスタマイズすることは可能ですか?」という質問に対して、次のような回答が示されている。「可能です。GroupBoard2.0は、SharePoint Team Services のアーキテクチャを利用していますので、新しいリストも簡単に作成できます。リストは新規に作成することも、既存のリストのフォームを利用することも可能です。GroupBoard ソリューション パートナーに関する情報は、こちらをご覧ください」。

この回答を読んだ中小企業のシステム運用担当者は悩まなければならない。「Share Point Team Services のアーキテクチャって何だろう?」と。実際にマイクロソフト日本法人のWebサイトにある Share Point Team Services の技術情報を見てみると、たしかに SharePoint Team Services 用の開発ツールキットである「SharePoint Team Services SDK v1.1」が存在する。ところがその技術文書は英語版しか入手できない。たとえ英語が読めたとしても、CCSやXML、RPCなどの技術的知識がなければカスタマイズは不可能のようだ。

つまり GroupBoard Version2.0 は、製品が想定している顧客企業が自力でカスタマイズすることは不可能な製品である。中小企業の顧客は GroupBoard Version2.0 をカスタマイズするくらいなら、ファイルサーバ上に Access で共有の mdb ファイルを作成するか、Excel のファイルを共有してしまうかを選択するだろう。

以上のように見てくると GroupBoard Version2.0 はサイボウズのような規模の製品への対抗をうたってはいるが、いったいどういう顧客をターゲットにしているのか全く理解できない製品だといえる。マイクロソフトが中小企業向けに真に有効な情報共有化の提案をする気があるなら、Office 製品群のテコ入れ以外の何があるだろうか。

Excel や Word のようなソフトウェアなら、中小企業でも使いこなす人材は少なくないはずだ。だとすればファイルサーバ上の共有ファイルとして、Excel をつかってさまざまな情報を共有できるようなマクロ(Visual Basic for Applications)付きテンプレートを提供する方が確実に情報共有化の効果は出るはずだ。

マイクロソフト日本法人がそのような Office 製品群のテコ入れ戦略をとらず、無謀にもサイボウズに対抗して GroupBoard Version2.0 のような無意味な製品を日本独自で開発する理由はなんだろうか。おそらくマイクロソフト日本法人のマーケティングが、日本の中小企業のニーズをつかむことに完全に失敗しているからだろう。

マイクロソフトはOSやDBMSの開発元として基礎技術に注力すればよいのであって、法人向けの応用ソフトウェア製品を提供しようという無駄な努力をする必要はない。あくまで自社製品による囲い込みを進めようというマーケティング戦略は、マイクロソフト日本法人自身の身勝手な思い込みでしかなく、ユーザ企業の立場からすれば見当違いもはなはだしいのだ。

中小企業で情報共有を進めようとしている担当者のみなさんは、マイクロソフト日本法人の新製品など無視して、いま使っているファイルサーバや Excel、Word をもっと使いこなして情報共有化の効果をあげる方法を考えた方がよい。追加の費用をほとんどかけずに、確実に効果を出すことができるはずだからだ。

中小企業は単なるファイルサーバ上でふだん使い慣れた Excel、Word などを情報共有の道具として使う道を選択するに違いない。あるいは機密保護の観点から問題がない限り、システム管理が不要な Yahoo! eGroups のようなASP(アプリケーション・サービスプロバイダ)を選択するだろう。


無断転載禁止

サラリーマンを考える 日本的なるものを考える 日常生活を考える
「おじさん」を考える 映画/音楽/書物を考える 情報システムを考える
愛と苦悩の日記 筆者のYouTubeチャンネル

homeup mail to