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Grooveに明日はない
( 20020820 )

Japanese/English

協働作業を支援するソフトウェアとして昔から「グループウェア」という分野のパッケージソフトウェア製品がある。有名なものとしては今はIBMに買収されたロータス社の「ノーツ」、マイクロソフトの「エクスチェンジ」(もっともこれは単なる電子メールソフトで、本当にグループウェアとして利用するためにはActiveDirectoryなどWindowsサーバの付加機能などを併用する必要がある)、中小・中堅企業向けの廉価版として「サイボウズ」などがある。

これらのグループウェアはユーザ管理やデータベース管理をサーバという大型コンピュータで集中しておこなう「クライアント・サーバ型」の仕組みで成り立っているが、「ピア・ツー・ピア」という異なる仕組みで成り立っているグループウェアとして2000年に『グルーヴ』という製品が登場している。

米CNETニュースのWebサイトに2002/08/14付けでこのピア・ツー・ピア・ソフトウェア『グルーヴ』についての記事が掲示された。それによれば同製品の開発元であるグルーヴ・ネットワークスは次の新バージョンでロータス/ノーツとの統合機能を提供し、インスタント・メッセージング機能を強化するという。またVisual Studio .NET用のアプリケーション開発ツールキットを独立して提供する予定とのことだ。

そもそもこの『グルーヴ』というのは旧ロータス社でノーツを開発していた当のレイ・オジー氏自身が1997年にスピンアウトして新しい会社を設立し、ノーツのようなクライアント・サーバ型のグループウェアに対抗するために開発したピア・ツー・ピア型のグループウェアだったはず。

今、日本企業で使われているグループウェアのほぼ全てがクライアント・サーバ型の製品だが、クライアント・サーバ型の場合、ユーザ管理やデータベース管理などの処理負荷がどうしてもサーバ機側に集中してしまう。そのため専門知識をもつサーバ機管理者と、大容量の記憶装置などサーバ側の資源が豊富に必要となり、その管理コストの弊害が指摘されていた。

『グルーヴ』のようなピア・ツー・ピア型のグループウェアはそもそも専用のサーバ機を必要とせず、各クライアント機(要するに普通のパソコン)が同等の立場で情報を交換し合う仕組みになっており、各パソコンに処理の負荷を分散するため、専用のサーバ管理者も不要、システム全体の管理コストが削減でき、クライアント・サーバ型に比べれば手軽に導入できるという鳴り物入りで登場した。

しかし当初喧伝されたピア・ツー・ピア型だが、これも米国ITバブルの一つにすぎなかったのか、少なくとも国内を見る限りピア・ツー・ピア型がクライアント・サーバ型を追撃する勢いはまったく見られない。で、今回のグルーヴがロータス・ノーツとの統合機能を提供するというニュースだ。結局ピア・ツー・ピア型は単独では市場の支持を得られず、クライアント・サーバ型製品の手助けをえなければならないということではないのか。

同記事によれば『グルーヴ』は2002/04にバージョン2をリリースしたが、バージョン1同様、新バージョンの「グルーヴ・ワークスペース 2.1」は標準版で49ドル、プロフェッショナル版で99ドルで販売される予定とのこと。すでにマイクロソフト・アウトルックとの統合機能は提供されており、新バージョンでは利用者がノーツの電子メール受信ボックスやデータベースとグルーヴの共有ワークスペース上で情報のやりとりをできるようになるらしい(ノーツはR4.6以上に対応)。

またインスタント・メッセージング機能(チャット機能)はグルーヴと別個にソフトウェアが必要ないようにするために機能追加されたものらしい。一方ノーツでは「Sametime」として別製品でチャット機能が提供されている。コスト的には無償で同機能を拡張するグルーヴの方が有利だろうが、すでにノーツを利用している利用者がチャット機能を利用するためにグルーヴに乗り換える意味はもちろんまったくないだろう。

またVisual Studio .NET用のツールキット提供によってグルーヴ社とマイクロソフト社のつながりは強化されるようだ。2001/10にマイクロソフトはすでにグルーヴ社に5,100万ドルを投資しており、2002年末にはさらにマイクロソフトのSharePointチーム・サービスとの統合もサポートするとのことだ。

しかしノーツはすでにLotusScriptという専用の開発言語上でマイクロソフトのCOMや.NETアーキテクチャに対応している他、IBMのWebSphereを中心としたJ2EEアーキテクチャやWebサービスにも対応している。開発プラットフォームの広がりという点ではグルーヴはまだまだロータス・ノーツの後塵を拝しているといえる。このあたりは導入実績と歴史の差だろう。

ただ同記事によれば2002/07にマイクロソフト社内で51,000人の従業員向けに役員たちがメールを発信し、『グルーヴ』を公式にピア・ツー・ピア型のソフトウェア技術として支援することを伝えたようだ。もっともこれは以前話題になったMP3形式ファイルのピア・ツー・ピア型交換ソフト『ナップスター』などと同類のソフトウェアによって、著作権によって保護されているコンテンツを同社社員が違法に共有しないようにするための警告を兼ねたもので、必ずしもマイクロソフトがグループウェアとしてグルーヴを積極的に支援することの表明ではなかったようだ。

マイクロソフトがノーツへの対抗馬として、自社の.NETアーキテクチャにもとづいたWebサービスの展開とグルーヴの親和性を押し出していく戦略もひとつの選択肢としてあるが、グルーヴ自体がそれほど急速に普及しているわけではない現状からしてあまり有効な戦略とは思えない。

結局のところグループウェアの企業内ユーザはすでに専門のサーバ管理者を設置した体制でシステムを運用することに慣れており、ピア・ツー・ピア型のような分散コンピューティングを秩序を保ちつつ社内的に運用する体制へわざわざ切り替えてまでグルーヴを導入する必要性を感じられないのではないか。

企業ユーザがそう簡単にノーツのようなクライアント・サーバ型ソフトウェアがもつ集中管理のメリットを捨てられるわけがないので、グルーヴの将来はWebサービスの一コンポーネントとして生き残る他ないのではないか、というのが僕の個人的な予言である。つまり今、企業内ユーザがグルーヴに投資しても早晩ムダな投資だと判明する可能性が高いということだ。


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