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技術系ITと業務系ITの差異
( 20021205 )

Japanese/English

最近エンジニアリング系(以下技術系)ITに関するセミナーに2週連続で参加することがあった。組立型製造業向けのセミナーで、仮想モデルを用いた評価試験や試作機を仮想空間に作成する技術などの内容だった。

僕のSEとしての専門領域は「情報共有による業務手順の変革と業務効率化」、そして「情報系システムの基盤整備」。つまりは設計や生産管理に利用される技術系のITではなく、業務系のITだ(ここまで「〜系」が続くとIT業界に身を置いたことのない方には何のことだかさっぱりお分かりにならないと思うが、ご容赦いただきたい)。

出身が文系だし、社会人としては原価管理が経歴の最初である。したがって技術系のITについてはまったくの無知で、セミナーの内容については概要が理解できただけだった。

技術系のITと業務系のITの間にはITとまとめるのがはばかられるほど本質的な差異があると僕は考える。しかしIT関係者はどれほどその差異を明確に理解できているだろうか。

たとえば不動産業界で働く人にわかりやすく伝えるとすれば、技術系ITは建築CADや構造解析ツールである。不動産会社の社内情報システム部門が建築CADの導入プロジェクトにも口をはさむなどということは普通考えられない。

建築CADの購入や活用についてはユーザである建築士たちにまかせておけばよい。あえて社内SEが支援できる点をあげるとすれば、図面データなど情報共有の仕組みの構築や、業務フローの電子化など、業務系と共通する領域だけである。

そして製造業でも同じことが言えるはずなのだ。技術系ITについては現場のユーザである技術者に任せることしかできないはずであって、実務経験のない人はプロジェクト管理の立場であっても関れるかどうか、かなりあやしい。

しかし一方には大企業を中心に、社内のありとあらゆるIT予算を、情報システム部門に集約しようという動きがあることも事実だ。そのとき技術系ITまでその予算に含めるかという財務上の問題と、技術系ITのプロジェクト管理まで集約するかどうかという行政上の問題の二つのレベルの問題がある。

まず財務上の問題だが、いったん金額という経済的尺度に抽象化されるのだから、技術系・業務系を問わずIT予算を集中管理することに無理はない。そもそも企業財務はすべての企業活動を経済的尺度に置き換えるという抽象化の過程をふむからこそ可能になる。ただプロジェクト管理まで技術系・業務系をまとめてしまって良いかという点ははなはだ疑問だ。

技術系ITは物質としてのモノを扱うのに対して、業務系ITは形や大きさのない情報(数値・文書など)を扱うITである。技術系ITはモノ自体の持つ合理性をそのプロセスに反映する。例えば部品表は結局のところ、モノをつくる順序、モノを設計する順序の制約をうける。

業務系ITは対象物がモノではなく、物理的制約のない情報である。情報は物理的制約がないため、それを扱うプロセスの側にも制約がない。制約がないからこそ特定のパッケージソフトが実装しているプロセスを思い切って適用する自由もある。

対象物の物理的制約を受けるITと、それがまったくないIT。技術系・業務系ITはかくも異なっているのだ。技術系ITがディスクリート型製造業とプロセス型製造業でまったく異なる様相を呈するのもそのためだ。逆にBPRは製造業、サービス業を問わない普遍性を持っている。

この差異はIT戦略の立案に決定的な影響を与える。技術系ITの戦略はモノを起点とする必要があるが、業務系ITの戦略はビジョンを起点とする必要がある。

技術系ITがモノを起点とする必要があるということは、モノの物理的な制約を知識として有する人、つまり現場の技術者やその経験者がプロジェクトを主導する必要があるということだ。

一方、業務系ITがビジョンを起点とする必要があるということは、ビジョンを描ける人間、つまり経営層がプロジェクトを主導する必要があるということになる。

技術系ITは現存するモノにどれだけ忠実であるかが成功の指標となる。仮想試験の導入が「成功」だと評価されるためには、試験時間の短縮やコスト削減などの副次的効果が出る以前に、まずその仮想モデルが実物を忠実に再現している必要があることは言うまでもない。

業務系ITは経営層のビジョンがどれだけ忠実に反映されるかが成功の指標となる。業務系ITは現行の業務を忠実に再現すると、逆に失敗する。ビジョンに沿ってまず現行のプロセスを変更することから始まる。

僕が心配するのは、技術系ITの経験しかないSEは、業務系ITも現実の対象に即して戦略を打ち出せばよいと考えはしないか、ということなのである。

業務系ITの経験しかないSEは、初めから技術系のことは分からないと降参するので、技術系ITを「誤解」することはない。しかし技術系出身のSEは、「業務系ITも同じだ」という誤解をするおそれが十分にあるのだ。

僕は業務系ITのことばかりを考えてきたので、今まで技術系ITとの差異など考えたことがなかった。しかもこれまで経験した企業では技術系ITと業務系ITが明確に棲みわけられていた。

たしかにITは対象をある程度抽象化しはする。しかしそれは金銭ほどではない。少なくとも企業内で稼働する技術系ITは、対象物の物質としての制約を無視するまで抽象化することは許されていない。当たり前のことだが、モノづくりの場で扱うのはあくまで現実のモノだからだ。


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