1996年3月20日、その日の朝刊に大変興味深い広告が載っていた。
「第27回 JOMO童話賞 作品募集」そんな広告だった。
ジャパンエナジーという会社がどうやら「創作童話」を募集しているようだ。
中身を見てみるとこんな事が書いてあった
「『心のふれあい』をテーマとした創作童話を募集、
最優秀賞1編には賞金30万円」
おぉ、30万円ももらえるのか!
さっそく筆をとった。
その時、ボクが書いた童話をこれから皆さんに読んでいただくわけですが、実はこれ、応募しなかったんです。だから初公開。ずーーーーーっととってあって、公開する日を待っていたんですね。
タイトルはありません。「ひなまつり」っていうタイトルらしいものが書いてあるのですが、取り消されてしまったようです。
たぶん、ジャパンエナジーさんが想定している童話とはかなり違うものになっているんだなぁと思いますが。
感想を書いてくださる方は相も変わらず掲示板へどうぞ。
信くんが学校から帰るとお姉さんが晩ご飯の支度をしていました。まったく月並みなお話ですが献立はカレーライス。カレーです。わぁーいカレーだ。好物なのか、信くんは大喜び。でもお姉さんは何だか浮かぬ顔。どうもこれ、カレーらしくないの。信くんが鍋の中をのぞいてみると。
お姉ちゃん「ルー」が入っていないよ。あはは。これじゃカレーにならないや。信くんは味にはうるさい方です。
さて、信くんの指摘で、お姉さんはルーを探しました。でも、ありません。信くんはスーパーまでお遣いに行くことになりました。
「カレールーカレールーカレールー」信くんは買い物の目的を忘れないようにぶつぶつと「カレールー」を繰り返しながらスーパーへ向かいました。
そういえば宿題があったんだっけ。信くんは、国語の時間に出された宿題の事を思い出して暗い気分になってしまいました。信くんはその宿題にずっと困っていたのです。
「心のふれあい」を題材にした創作童話をひとつつくる、というのがその宿題です。「心のふれあいって何だろう」。
信くんのような子どもには「心のふれあい」というテーマは少々難解だったようです。何を書いていいのかさっぱり分からないのです。「よし、お姉ちゃんに聞いてみよう」−−−信くんきょうだいは、テレパシーでお互いの心の中が読めるのです。−−−(お姉ちゃん、「心のふれあい」ってどういうこと?)心の中で問いかけます。
(信ちゃん、夕ご飯のときにおしえてあげるから、はやくルーを買ってきてちょうだい)どうやら回答は先送りされてしまったようです。信くんは仕方なく「カレールー」と繰り返しながらスーパー目指して歩き続けます。
あっ危ない! 信くんは「カレールー」を繰り返し、頭の中では「心のふれあい」について思考しているものですから、足下への注意がおろそかになって、石につまずいて転んでしまいました。ひざをすりむいたのでしょうか、血が吹きだしています。おまけに服も泥だらけです。信くんは自分がみじめになって泣き出しました。
2時間ほど泣き続けたのでしょうか、空は暗くなっています。泣きやんでも信くんは錯乱しています。自分は何を買いに行くのだっけお姉ちゃんに買い物を頼まれたんだだけど何を頼まれたのだっけ。ショックで忘れてしまったようです。しかし、不思議な事に信くんの口から「心のふれあい」という言葉が反復されていたのです。ああそうだボクは「心のふれあい」を買いに行くんだっけ。信くんはそう確信するとズボンのポッケに入っている泥だらけの千円札−−−お姉さんから預かったのです−−−をしっかりと手に握りました。
信くんがスーパーに到着したのは、閉店の5分前でした。店員が棚に布をかぶせ、まだ店内に残っている客を追い立てている真っ最中です。中年の男性店員が信くんを発見しました。
「坊や、お遣いかい? エライね、うん、ところで、何を頼まれたのかな?」その男は尋ねます。信くんは、泥だらけの千円札を男に見せ、こう言ったのです。
「心のふれあい、心のふれあいをください。」
その時、男は、泥だらけの服を着、ひざから血を流し、千円で「心のふれあい」を買いにやって来た少年の身の上を悲惨なものに違いないと推測しました。そして、自分がその少年を引き取って幸せに育ててやることを決心したのです。
何年か経って、信くんはその男のもとで成人式を迎えました。そして今、「心のふれあい」とは何か、ちょっぴり分かったような気がするのでした。(了)