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NO.58
2002年5月31日  -狸の口に何がついていたかの巻-

 昨夜からの雨が一日中降り続いて、山は様々な色合いと濃淡の緑に溢れ返っています。夕方になって小降りになった頃、いつもの通り狸の一匹がやって来ました。今日姿を見せたのは通称「コロちゃん」こと、子狸三匹のうちの一番体格の大きな子です。顔が黒くて精悍なのは「クロちゃん」、白くておとなしいのは「シロちゃん」と名付けました。この三匹は兄弟か姉妹だと思うのですが、つい最近まで必ずと言っていいほど一緒に行動していたのです。それが最近は一匹で来たり、二匹で来たり、その組み合わせも様々で、何故そうなのか不思議です。いくら考えても判りません。そこで記録表を作って、何か一定のパターンがあるのではと思いついたのですが、これがどうしても判らないのです。ただの気まぐれか偶然なのかと思いあぐねていて、ふと気になったのは、一匹ずつの回数がほぼ同じだと言うことです。何故そうなのか、これもさっぱり見当もつきません。ただ一つ思いついたのはそれぞれ成長して自立しつつある過程なのではないかと言うことです。
 そしてもう一つ判らないのは、この三匹の両親と思われる最初にやって来た二匹のペアが全く姿を見せなくなってしまったことです。最初は子供を産んで子育てに忙しいのだろうと思いました。そのうちに子狸を連れて来てくれるだろうと楽観視していたのですが、だんだんと心配になってきました。それはある日カラスの大群が我が家の周辺を群がり飛んだ時、ふと現実味を帯びた不吉な想像に転化してしまいました。と言うのは、それが大雨の翌日だったからです。何故かと言うと、大雨の後に野性の生き物たちは普段の生活の場所から出て来ることが多く、それはとりもなおさず危険が増すことを意味しているからです。一番目につくのは蛇たちです。雨の翌日には散歩の途中でしばしば蛇に出会います。時には道の真ん中や岩の上などにじっとしていたり、とぐろを巻いていたりします。青大将は木の上にいます。そしてカラスや鳶などが狙うと言う訳です。また雨で病気になったり弱ったりした生き物は恰好の獲物になるのだと思われます。つまり私は産まれたばかりの子狸が、カラスの大群に襲われたのではないかと心配だったのです。カラスの大群は同じ場所の上を執拗に飛び周り、時に急降下して輪になって何かをつついていたのです。そしてカラスたちは我が家の庭にも集団で舞い降りました。何をしているのか見極める前に、慌てて追い払ってしまったので判らずじまいになってしまいましたが、その場所が営巣中のシジュウカラの巣箱の下だったので、不安は増すばかりでした。もしかして巣箱に蛇が入り、それをカラスたちが襲ったとしたらと考えると気が気ではありません。そして本当にシジュウカラの姿が消えてしまいました。目撃した訳では無いので断定は出来ませんが、何か異変が起こったに違いないと悲観していたら、数日後再び苔を咥えたシジュウカラを発見し、胸を撫で下ろしました。それが野性の世界の自然なかたちと判っていても厳しく切ない世界ではあります。因みに今日おやつをねだりに来たコロちゃんは、口の横に沢蟹の赤い鋏をぶら下げていたのでした。   では、また。
 


NO.59
2002年6月22日  -水の星の小さな水の世界の巻-

 今日は梅雨の晴れ間の風の強い日です。この山では雨が上がると必ず風が吹き荒れます。庭では盛りを過ぎたササユリの花が風に弄ばれながら散っています。今は花らしい花の少ない季節ですが、我が家の庭で唯一賑やかに咲いているのは池の姫スイレンです。咲き始めてもう一月近くになります。一つの花は四五日で消えますが、次々と新しい蕾が開いて楽しませてくれます。この花は陽が当たると開き、陰ると閉じてしまいます。水面に浮かぶ緑の葉の中の濃い紅色の花は、見事な対照を見せて見飽きません。池の岸に座っていると不思議に気持ちが穏やかに素直になれて楽しいのです。
 さて、今回はその池のことをご報告しようと思います。三年前に土を掘り手作りした池は僅か5平方メートルほどの小さなものですが、これが観察すればするほど私にとっては驚異の世界なのです。
 先ず確認できた現在の住人たちを紹介すると、ヒメダカの成魚11匹・沢蟹5匹・イモリ1匹・ヤマアカガエル2匹・トンボのヤゴとミズスマシ共に10数匹・マツモムシ数匹・そしてヒメダカの稚魚は5月末から産まれ始めて、1ミリから1センチ位まで数え切れないほどです。ある実験では雌雄一組から三ヶ月で174匹の稚魚が生まれたと言うのを読んだことがありますが、もしそうであればこの小さな池はメダカで溢れると言うことになります。しかしそうならないのは全てが成長できる訳では無いからでしょう。多分メダカの天敵はトンボのヤゴだと思います。特に稚魚のうちが危険だと推測出来ます。ただ1ミリ2ミリの体長でも動きは一人前で、メダカ特有の素早い泳ぎ方をしていますが、ヤゴの方もメダカの習性を良く知っていて待ち伏せしたり、折り畳み式の飛び出す下顎が武器になるようです。でも私の観察では成魚が襲われるのを見たことはありません。
 植物はスイレンの他に布袋葵と藻が増殖しつつあります。目には見えませんが、この他にも沢山の生き物−ミジンコやプランクトンなどがいると思われます。
 我々の地球は水の星と呼ばれ、水が全ての生命の根源であると言われていますが、我が家の池も僅か三年の間に数々の生命を育んできました。もっとも、ヒメダカと姫スイレンと布袋葵は最初は店から買ってきたものですが、その他のものはいつの間にか住みついたり、生まれたりした者たちです。この後どんな世界になっていくのか予想もつきませんが、自然と神秘を感じさせるのには充分な魅惑の世界ではあります。
 この池には住人の他に訪問者もいます。それは水浴びするホホジロや蛙を狙う蛇、水を飲みに来るイタチやリスやトカゲ、産卵のために飛来する数種類のトンボなどです。
 こうしてこの小さな水の世界は、ここに産まれここに生きるものたちにとって大いなる生命の源であり、私にとっては彼らの生態を通じて生命の不思議や感動を感じさせてくれる大いなる喜びの場なのであります。  では、また。 


NO.60
2002年6月29日  -神様にささやかなお願いの巻-

 梅雨の雨は何時まで続くのでしょうか。庭の土の斜面を見つめていると、もう水分を含み切れなくなった土がぽろりぽろりと崩れているのが判ります。庭の池の水が一度は増えていくように見えたのですが、今では不思議なことに逆に少しずつ減って行きます。たぶん池の周辺の石の下の土が深い地中まで濡れて、無数の細い水の通り道を作ってしまったためではないかと思います。つまり水が染み込み易い状態の部分が深く広くなったために、このような現象が起こっているのではないかと、素人なりに考えてみたのです。とすれば、更に雨量が増えて地中深くまで飽和状態になると広い範囲の土砂崩れが起こるのではないかとの心配も生まれます。
 先日、神宮林の見回りに来た神宮司庁の職員と立ち話をしたことがあります。その時の話しに、伊勢神宮の歴史と伊勢地方の土地の安定した美しさを讃える話が幾つか出てきたのですが、それは神話時代から始まって近年の南海大地震に至るまで、伊勢地方にはこれと言った災害が無いと言うことでした。南海大地震でも神宮林の山は全く崩れなかったそうです。これは天照大神の御利益なのか、日本の守り神を祀るのに相応しい土地を古代の人が選んだのか、いずれにしても歴史が証明しているのですから、信じたくなる有り難い話ではあります。ならば多少の雨で地崩れが起こることなどありはしないと、霧と雨に包まれた風景を見守っているところです。
 さて、前にご報告した三匹の兄弟狸たちですが、相変わらず毎日やって来ます。たまに三匹一緒に来ることもありますが、一匹だけだったり組み合わせの違う二匹だったり、気まぐれなのか、それとも何か理由があるのかさっぱり判りません。それに個体の識別もだんだん難しくなって来ました。成長が早いのと、夏毛に変わっていく所為なのか、体格も毛色も判別しにくいのです。また、性質も折々に依って積極的だったり妙に臆病だったりと言った具合です。しかし、日増しに人懐っこくなって、近くにいれば呼べば必ず藪の中から出て来ますし、風のない穏やかな日には窓の下の空き地で居眠りしながら「おやつ」を待っています。私たちの気配を感じたり姿に気付くと、いそいそと歩み寄って見上げるのです。僅かばかりのパンの耳やピーナッツでこんなにも慣れ親しんで呉れると思うと、何かほのぼのとした愛しさが募ります。
 今、一つの期待があります。それはコロちゃんの胸に乳房の列が膨らんでいるのを発見したからです。胴が細くなったのは出産したからではないかと思うからです。赤ん坊を連れてくるかも知れないと言う期待です。果たしてこの願いを天照大神は叶えて下さるでしょうか。  では、また。




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