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猫たちの画像を快く提供くださったねこりんさんにささげます。
三毛猫の謎
もっともオーソドックスなデザインの招き猫は、俗に常滑系と呼ばれる招き猫です。二頭身で垂れ目、前垂れに鈴をつけ、小判を持っています。そして色は白地に黒と茶の斑、いわゆる三毛です。伏見・bgcolor="white"・ラや住吉大社、今戸神社、豪徳寺など招き猫と所縁のある社寺で授与される招き猫は白が多いのに、なぜか常滑でデザインされた招き猫は三毛猫です。どうして三毛猫なのでしょうか?
それは、三毛猫は幸運を招くと古くから信じられていたからです。特に、船乗りの間には三毛猫を船に乗せ・bgcolor="white"トいれば遭難しないという俗信がありました。船と三毛猫に関する逸話が数多く残っています。
昔の日本の船乗りは、必ず船内に猫を飼っていたそうです。猫が騒げば時化になり、眠れば天候は穏やかと信じられていたのです。猫を見て天候を予測したわけです。また大時化で方向がわからなくなったときにも猫は役に立ちました。猫は北のほうを向くと信じられており、猫は磁石代わりにもなったのです。食料や積荷をねずみから守るという役割もあったのでしょう、猫は船には欠かせない動物でした。
特に、三毛猫のオスは珍重されました。といいますのも、三毛猫のオスはほとんど生まれてこないからです。珍しい三毛猫のオスを乗せていると、船は遭難しないと船乗りたちは信じていました。三毛猫が生まれれば争って高値をつけて買い求めようとしたといいます。昭和の時代になっても三毛猫のオスが生まれれば新聞記事になったほどです。それほど三毛猫のオスの存在は珍しく、めでたいことだったのです。
(N)
三毛猫は何を招くのか? 遺伝学的に三毛猫にオスが少ない理由が解明されたのは1960年代です。しかし、古来から、経験的に三毛猫のオスはほとんどいないということが知られていました。実際、皆さんも三毛猫にオスが少ないことは聞いたことがあると思います。でも、その理由をご存知の方は少ないのではないでしょうか。
ということで、ここでは三毛猫の謎――なぜ三毛猫のオスは少ないのか――を探ってみましょう。
この特集は遺伝学の読み物ではありません。主眼は三毛猫にオスが少ない理由を説明することです。素人でも理解できるようになるべく簡略にわかりやすい言葉で説明しますので、学問的におかしな言葉や誤解を招く表現があるかもしれません。多少の認識のズレはご容赦願いたいのですが、明らかに間違っていると思われる部分は遠慮なくご指摘ください。
また、遺伝学をまったく知らない方も、ここで説明する遺伝の仕組は100%説明されていないことを留意してください。正確なところを詳しく知りたいと思われるようでしたら、専門家が書かれた遺伝学の本を一読されることをおすすめします。遺伝子組換えとか遺伝子治療、クローンなどと話題になることが多いので、書店には必ず遺伝学の解かりやすい入門書があります。
もくじ
2.ネコの遺伝子〜猫の毛の色はこうして決まる
3.三毛猫の遺伝子〜なぜ三色の斑になるのか
4.三毛猫が生まれる仕組〜なぜ三毛猫はメスなのか
5.三毛猫の謎〜どうやって三毛猫のオスが生まれるか
* 画像のタイトルに※印がついているものは、東京医科大学小児科遺伝医学のホームページさんから、(N)印がついている猫の写真は「ねこりんの世界」さんから、それぞれお借りいたしました。また、画像をクリックするとオリジナルサイズの大きな画像をご覧になれます。
1.まずは遺伝学〜遺伝子と染色体
三毛猫を生ませるにはどうすればいいのでしょうか?「そんなこと簡単だ。黒斑のオス猫と茶斑のメス猫に子猫を生ませればいい。生まれた子猫が三毛猫だ。逆でもいい、茶斑のオス猫と黒斑のメス猫が親ならば子猫は三毛猫だ」
これは正解でもあり、不正解でもあります。確かに、黒斑と茶斑の親から三毛猫は生まれてきます。しかし、確率は2分の1です。2匹生まれれば1匹は三毛猫で、もう1匹は母猫と同じ斑になります。これはあくまで確率であって、場合によっては5匹生まれて5匹とも三毛猫ではない場合もあります。しかも、三毛猫は必ずメスで、斑猫は必ずオスに生まれます。
(N)
三毛猫はどうして生まれるのか? 「じゃあ、オスの三毛猫はなかなかいないから、メスの三毛猫と黒か茶の斑のオスに子を作らせればいい」
これもまた正解であり、不正解でもあります。しかも確率は4分の1になってしまいます。4匹生まれると1匹は三毛猫(必ずメス)ですが、残りの3匹は黒斑か茶斑になります。
このように生まれてくる子猫が色分けされるのは遺伝子の働きによります。遺伝子はご存知ですよね。親から子へ形質の遺伝を担う遺伝情報(*)のことです。
猫の毛の色も遺伝子によって親猫から子猫へと遺伝します。親から受け継いだ遺伝子によって子猫の毛色が変わってくるのです。茶色の毛の遺伝子、黒の毛の遺伝子があるわけです。しかし、三毛の遺伝子というのは存在しません。茶色の毛、黒の毛、白の斑を作る遺伝子が複雑に絡み合って三毛猫は生まれてくるのです。
三毛猫の謎を追うためには遺伝子を無視することはできません。ちょっと退屈かもしれませんが、まずは遺伝学の基礎知識を学びましょう。遺伝子というのは、具体的には特定の形質を発現するタンパク質(**)の設計図で、DNA(デオキシリボ核酸 Deoxyribonuclieic acid)上に記録されています。
ご存知のとおり、DNAは左巻き二重らせん構造をもっています。ヒトの細胞一つに含まれるDNAを伸ばしてつないでみると、なんと1・8メートルになるというから驚きです。
この長い長いDNAをコンパクトに収納しているのが染色体です。染色体はDNAとDNAを巻きつけるためのタンパク質ヒストンからできている、糸状の化学物質です。
ネコの細胞一つには38本の染色体が入っています。長さを基準に38本の染色体を分類すると、19組のペアができます。このペアの片方は父親から受け継いだ染色体で、片方は母親から受け継いだ染色体です。
染色体※
この染色体に遺伝子が置かれるのですが、染色体上のどこに置かれるかは決まっています。遺伝子の座席は指定席なのです。例えば、白い毛を発現させる遺伝子はココ、黒い毛の遺伝子はココ、と固定されているのです。
染色体の指定席に座る遺伝子は決まっていますが、指定席のチケットを持っている遺伝子は複数あります。
ネコを例に取りましょう。
ネコには身体を白一色にする遺伝子があります。仮にWとしましょう。Wと座席を争うのがWの対立する遺伝子で、身体を白一色にはしない(他の遺伝子の色になる)遺伝子です。こちらをwとしましょう。Wとwは、身体を白一色にする遺伝子がおかれる一つの座席を争います。1本の染色体にはWかwのどちらかしか座れないのです。しかし、染色体はペアになっています。父親由来の染色体と、母親由来の染色体です。そのため、一つの細胞は特定の形質の遺伝子をふたつもつことができます。
ヒトの染色体ペア(女性)※
ある猫が、父親からWをもった染色体と、母親からもWもった染色体を受け継いだとしましょう。この猫はWWをもちますから、身体は白一色になります。逆に、両親からwを受け継ぎ、wwになると、その猫は白以外の色か斑の猫になります。
では、父親からはWを、母親からはwを受け継いだとします。Wwという対立する遺伝子を受け取った猫は何色になるのでしょうか? ふたつ合わさって灰色? それとも斑でしょうか。Wwの遺伝子をもった猫は白一色の猫になります。WWの場合と同じですね。これは、wを抑え込んだWの力が働いたからです。
(N)
W優性遺伝子を一つ以上もっている
このように相手の遺伝子の働きを抑えたほうの遺伝子を優性遺伝子、抑えられたほうを劣性遺伝子と呼びます。白猫の例では、W遺伝子が優性遺伝子で、w遺伝子が劣性遺伝子ですね。* 一言で遺伝子といっても、ヒトに必要な遺伝子は10万個に及ぶといいます。情報量としては30億文字、広辞苑200冊分、新聞の朝刊では実に25年分になります。この巨大な情報がDNAに書き込まれているのです。
** 生物には数千種類のタンパク質が必要
2.猫の遺伝子〜猫の毛の色はこうして決まる
今回、三毛猫の謎を解くにあたって参考にした文献に『ネコの毛並み』野澤謙著(裳華房)があります。この中で猫の毛色に関する遺伝子が9個と、毛の長さに関する遺伝子1個が紹介されています。猫好きの方は興味がおありでしょうから、簡単に紹介しておきます。ただし、ややこしい部分を省略していますので、こんなもんだというレベルでとらえてください。
こんな表うっとうしいと先をお急ぎのかたも、赤文字の遺伝子だけは三毛猫と深く関係していますので、目を通しておいてください。※上段(大文字)が優性遺伝子、下段(小文字)が劣性遺伝子。
遺伝子 発現する毛色 備 考 白色の遺伝子 W 身体全体を白一色にする 他の毛色をすべて抑え込んでしまう w 他の毛色の遺伝子が発現する 茶色の遺伝子 O 茶色(オレンジ色)が発現する OOは、アグチ(A)の形質表現を抑えて茶色(オレンジ色)を発現させる。
Ooは茶色と黒色の斑になる。
ooはアグチ(A)の形質表現が発現する。o 茶色が発現せず、黒になる アグチの遺伝子 A 1本の毛の先端と根元が黒で中間が褐色になる。 多くの哺乳類の野生型毛色。 a 1本の毛の色が黒一色になる 黒色の遺伝子? B 黒色の毛が生える。 b ? bbでaaのとき、セピア色になる。いわゆるハバナ種 白子の遺伝子? C − cはマウス、ラット、ウサギの白子の遺伝子と同じようなものだが、白子になるccは猫にはほとんどない。
cScSは手足、尻尾、顔面だけが濃色になる。シャムネコがこれ。c 発色を薄める。 タビーの遺伝子 Ta 1本の毛の先端と根元が黒で中間が褐色になる。 3つの対立遺伝子をもっている。
Aとの関連が深く、AとTの組合せで霜降り状になったりする。T いわゆるサバトラ。野性猫に見られる縞模様 tb tbtbはタビー模様が太くなる 銀色の遺伝子? I 黄色を希釈し、黒には影響しない タビー模様の猫は全体的に銀色になる i − 色を淡くする遺伝子 D − メラニン顆粒が凝縮して光の吸収が減少するので、淡い色に見える。 d 全ての色素の発色を淡くする。 白斑の遺伝子 S 白斑模様をつくる。 Sは変数形質発現(不完全優性)という特徴を持ち、SSだと白ぶちが多くなり、Ssだと少なくなる。 s 白斑がなくなる 毛長の遺伝子 L 毛が短くなる l 毛が長くなる ペルシャ猫はll いかがでしょうか? ややこしいですね。しかし、これら9種の毛色の遺伝子の組合せで猫の色が決まるわけですから、パズルだと思って我慢してください。
野生猫 ww o A- B- C- T- ii D- ss L- 白猫 W- 黒猫 ww o aa B- C- 茶猫 ww O 大虎斑猫 ww A- tbtb 霜降の猫 ww A- Ta- ※A−はAAもしくはAaを表す 具体的な例をあげますと、右のようになります。
白猫の場合、「W−」しか表記していませんが、他の遺伝子も白猫には存在します。しかし、W遺伝子は他の遺伝子の発現を全て抑えてしまうので、他の遺伝子を省略して書いています。白猫の親から黒猫が生まれる場合もありますが、子猫がww遺伝子を受け継いだために、親猫ではW遺伝子で抑えられていたBやCの遺伝子が発現するからです。遺伝の仕組の不思議なところですね。
愛玩動物となる前、猫は野生猫のパターンの遺伝子をもっていました。山や林の中に紛れ込める色と柄をしていたのです。しかし、人間の手で配合が行われ、いろんな色の猫が生まれてきました。遺伝子組換食品やクローン牛など、神をも恐れぬ仕業といわれますが、人間はもっと昔から猫という生き物を弄んでいたわけです。
(N)
保護色を奪わないで さてさて、白猫の遺伝子組合せはわかりました。茶猫も黒猫も斑も解かりました。では、三毛猫の遺伝子組合せはどうなっているでしょうか?
3.三毛猫の遺伝子
〜なぜ三色の斑になるのか
三毛猫の遺伝子の基本的な組合せは、次のようになっています。ww Oo S−
wwはもうお分かりですね。W遺伝子が入ると必ず白一色になりますから、劣性遺伝子のwwでなければ三毛猫になる権利がありません。
(N)
S-のネコ(N)
ssのネコ
続いてS−ですが、Sは他の遺伝子にも影響を及ぼして、白斑を発現させる遺伝子です。三毛猫の3色のうち、白の部分はS遺伝子がなくては生まれてきません。このS遺伝子は変数形質発現というもので、SSだと白斑が多くなり、Ssだと白斑が少なくなります。ssでは白斑が消え、三毛猫ならぬ二毛猫が生まれてきます(二毛猫も三毛猫と呼ぶ人もいる)。
で、Ooです。これがちょっとややこしい。O遺伝子について少し詳しく説明します。
(N)
OOのネコ(N)
ooのネコ(N)
Ooのネコ優性遺伝子Oは、アグチ遺伝子(A遺伝子)を抑えて、茶色(オレンジ色)を発現させる遺伝子です。OOですと茶色の猫になります。
劣性遺伝子oは、茶色を発現させずにアグチ遺伝子を発現させ黒っぽい毛を発現させます(*)。
優性遺伝子と劣性遺伝子が対立した場合、優性遺伝子が発現します。この原則にのっとりますと、O遺伝子の組合せがOoであった場合、優性遺伝子Oが発現し、茶色の猫が生まれるはずですが、実は茶色と黒の斑の猫が生まれます。Oとoの両方が発現してしまうのです。なぜでしょうか?
遺伝学の専門用語を使いますと、「優性遺伝と劣性遺伝の両方が発現するのは、X染色体が不活性化するから」です。解かりますか? 解かりませんよね。まずはX染色体について説明しましょう。
X染色体(**)というのは、性別(オスかメスか)を決定する2種類の性染色体のうちの一つです。もう一つの性染色体はX染色体が短くなったY染色体です。このXとYの組合せによって性別が決まります。X染色体のペア(XX)をもつとメスになり、X染色体とY染色体を1本ずつ(XY)もつとオスになるのです(***)。これは全生物共通です(****)。
ヒトの女性の性染色体ペア※ ヒトの男性の性染色体ペア※
X染色体は解かりましたよね。では、X染色体の不活性化とはどういうことでしょうか。不活性化というのは、メスにのみ起こる現象で、胚発生の初期(受精直後の細胞分裂)に発生します。メスは2本のX染色体をもちます。2本の染色体は、自己複製(細胞分裂の準備段階)のとき、同時に複製されずに時間がずれて複製され、この遅れて複製されるX染色体が不活性化されるのです。
不活性化されたX染色体は、全ての細胞に複製されていきます。つまり、胚発生の頃に生まれた不活性化したX染色体は、成体(大人)になっても引き継がれるのです。また、父親由来、母親由来の2本のX染色体のうち、どちらが不活性化されるかは決まっていません。ランダムに起こります。X染色体の不活性化、わかっていただけましたか? もう少し具体的に説明してみます。
父親由来のX染色体を、便宜的に「Xf」と表記します。母親由来の方は「Xm」です。不活性化されたX染色体を「X−」と表記します。「Xf」が不活性化すると「Xf−」、「Xm」が不活性化すると「Xm−」ですね。
で、受精直後のX染色体の組合せは、「Xf:Xm」となります。その後、細胞分裂を続けると、どちらかが不活性化します。この不活性化はランダムに起こりますので、「Xf:Xm−」 と「Xf−:Xm」 の2種類のX染色体ペアが誕生します。一度不活性化されたX染色体は成体しても複製されつづけますから、1匹のメスには、「Xf:Xm−」 染色体をもった細胞と「Xf−:Xm」 染色体をもった細胞の2系統が共存することになります。
なんとなく見えてきましたね。ここでO遺伝子に再登場願いましょう。
茶色の毛を発現させるネコの遺伝子Oは、X染色体上に記録されています(*****)。仮に、父から優性遺伝子のOを、母から劣性遺伝子のoを受け継いだとしましょう。Oo遺伝子ですね。これを先の不活性化の模式に書き加えますと、「XfO:Xmo−」 と「XfO−:Xmo」 となります。
「XfO:Xmo−」 染色体をもった皮膚の細胞は、黒色の毛が生える劣性遺伝子oが不活性化されていますから、素直に優性遺伝子Oが発現し、茶色の毛が生えてきます。もう一方の「XfO−:Xmo」 染色体をもった細胞は、茶色の毛を生やす優性遺伝子Oが不活性化されていますから、劣性であるにもかかわらず、劣性遺伝子oが発現し黒色の毛が生えてきます。
皮膚細胞の部分部分で、不活性化されるX染色体が変わってきますから、Oo遺伝子の組合せでは、茶色の毛が生える部分と、黒の毛が生える部分がでてきて、茶と黒の斑ネコが生まれるのです。
三毛猫の毛色に関する遺伝子は、「ww Oo S−」という組合せです。まず、W遺伝子が一つでもあると白猫になってしまいますから、両親からそれぞれw遺伝子をもらわなければいけません。次にS遺伝子を両親のどちらかからもらう必要があります。つまり、両親のどちらかが白斑猫でないと三毛猫は一匹も生まれてこないことになります。そしてO遺伝子とo遺伝子。一つずつもらう必要があります。どちらかに偏ると、茶斑猫か黒斑猫になってしまいます。Ooの組合せで、茶と黒の斑が生まれるのです(******)。
(N)
W-(N)
ww Oo ss(N)
ww Oo SSいかがでしょう、三毛猫が生まれる仕組がわかりましたか?
* oとA−をもっていると、アグチパターン(先端と根元が褐色で中間が黒)の毛が生えてきます。oとaa(アグチの劣性遺伝子)をもっていると、黒一色の毛が生えてきます。
** 性染色体が発見された当初、その染色体が何の働きをするのか解かりませんでしたので、ドイツ語でドップルエレメントX(Doppelelement X、二重因子の未知の物体) と呼びました。そこから性染色体をX染色体と呼ぶようになり、あとから発見されたオスを決定する染色体をX染色体に対してY染色体と呼ぶようになりました。
*** ではYY染色体は? これは存在しません。なぜなら、母親がY染色体をもたないからです。子は父と母から染色体を受け継ぎます。仮に全ての染色体を受け継いだとしても、XXXYの4つの染色体を受け継ぐこととなり、Y染色体を2本もつことはありえないのです。
**** 性染色体による性別の決定はすべての性を持つ生物に共通です。ただし、鳥類、魚類、両生類のほとんどは、XX染色体がオスであり、XY染色体がメスになります。鳥類ではZZ、ZWと表現することもあります。
***** 三毛猫の謎の全てが、「O遺伝子はX染色体に記録されている」という事実に集約されているといっても過言ではありません。
****** A遺伝子が優性であるか劣性であるかによって黒斑が少し違ってきます。A−ですとアグチパターンになりますから、黒と茶の部分がきれいに分かれません。いわゆるキジ三毛になります。aaですと黒の毛は黒一色になり、色がはっきり分かれます。三毛猫らしい三毛猫になるにはaaが理想です。ところで、X染色体の不活性化はなぜ起こるのでしょうか?
オスはX染色体と短いY染色体をもっています。メスは長いほうのX染色体を2本もっています。となると、遺伝子の情報量はメスのほうが多くなります。不平等ですね。
男性諸君、ご安心を。神は男女不平等を許しません。神は男女平等のため、メスのX染色体を不活性化することで、オスとメスの遺伝子量が同じになるように調整したのです。完全に平等になったわけではありませんが、神は努力をしてくれました。男女平等は女性解放運動家のものだけではないのです。
4.三毛猫が生まれる仕組み
〜なぜ三毛猫はメスなのか
(N)Oyのネコ |
(N)oyのネコ |
| OをもったX染色体 | |
| oをもったX染色体 | |
| Ooの場所がないY染色体 |
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最初の表「oyの父とOOの母 」の組合せでは、黒斑のオス猫と茶斑のメス猫から、三毛猫のメスが生まれる確率は4分の2で、茶斑のオスが生まれる確率は4分の2であることを示しています。
※ この表はO遺伝子についてのみ考え、W遺伝子、S遺伝子の遺伝は無視しています。もし、親でも子でもW遺伝子を一つでも持てば白一色の白猫になりますし、S遺伝子をもたなければ、斑猫にはなりません。三毛猫も二毛猫になります。
表を見れば一目瞭然ですね。O遺伝子を一つしかもてないオス猫は三毛猫に生まれることはないのです。
でも、現実には、ごくまれながらもオスの三毛猫がいます。なぜでしょう?
4.三毛猫の謎
〜どうやって三毛猫のオスが生まれるか
(N)オスならOoy |
XXYのような異常な染色体をクラインフェルター症候群と呼びます。ネコだけではなく、イヌもブタもウマも、そしてヒトにもクラインフェルター症候群は出現します。ヒトの場合には、なんと500人に1人がクラインフェルターなのです。男500人集まれば、そのうち1人はXXY染色体をもっているのです。
しかし、ネコの場合、その確率はぐっと低くなります。三毛猫の調査結果から、3万匹に1匹ぐらいであろうという予測がされています(『三毛猫の遺伝学』ローラ・グールド著)。
では、クラインフェルター症候群が生まれる仕組を紹介しましょう。
減細胞分裂という言葉をご存知でしょうか。精原細胞と卵原細胞から精子と卵子が生まれるときの特殊な細胞分裂のことです。
普通の細胞分裂――体細胞分裂(*)は染色体の複製を伴います。オスの性染色体を例にとりますと、XYの細胞は分裂をはじめると染色体を複製し、XXYYという4本の染色体をもつようになります。細胞が分裂してしまうと、それぞれの細胞はXYとXYという定番の組合せで2本の染色体をもつ細胞になります。細胞分裂が起こっても、1つの細胞が持つ染色体の数は変わらないわけです。
ところが、性細胞である精子と卵子だけは、分裂のとき染色体の複製は行われません。一つの精原細胞が分裂して精子になるとXY染色体は、X染色体とY染色体に別れてしまいます。X染色体1本の精子と、Y染色体1本の精子になるのです。同様に、メスの卵子も卵原細胞から分裂するとき、X染色体を1本ずつもった卵子になります。
![]() 減細胞分裂と受精※ |
| 2組4本の染色体が減細胞分裂で半減した卵子に精子が染色体を運んできて染色体の数を復元している |
性染色体を1本しかもたない精子と卵子が受精します。精子の性染色体1本と卵子の性染色体1本がいっしょになり、受精卵では通常の細胞と同じように2本の性染色体をもつことになります。他の染色体も同様で、受精によって新しくペアが組まれるのです。
卵子は常にXです。精子にはXとYがあります。Xの精子が卵子に受精すると、XXになり生まれてくる子はメスになります。Yの精子が受精すると、XYでオスが生まれてきます。生まれてくる子供が男の子か女の子かを決めるのはお父さんの精子なのです。
で、クラインフェルター症候群です。精子、卵子が生まれるとき、減細胞分裂に失敗し、性染色体を2本もった精子や卵子が生まれることが稀にあるのです。神のいたずらですね。減細胞分裂に失敗した精子はXYであり、卵子はXXです。この異常な性細胞が正常な受精すると、
XXY。これで三毛猫の謎が解けました。
(N) |
| 君はXXY? |
* ヒトの細胞は毎秒2500万回の割合で分裂を続けているといいます。一日に2兆回の細胞分裂が行われているのです。
** XX+X=XXX(メス)は三倍体症候群と呼ばれると思いますが、勉強不足で今のところ未確認です。
*** XXYは単純な例で、XXXXYやXXXXYY/XXXXY/XXXなどという複雑なクラインフィルター症候群の例もあります。XXXXYY/XXXXY/XXXは/で区切られた3種類の染色体をもつ細胞が混合して存在するオスです。