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このページでは、手招きジェスチャの国による違いを紹介いたしますが、その作業、考察の99%はSTARFIELDさんのご尽力によるものです。私はSTARFIELDさんの研究成果をHTMLに書き出し、WWWの体裁を整えたに過ぎません。
この場を借りまして、STARFIELDさんに御礼申し上げるとともに、読者の皆様にお断り申し上げる次第です。
招き猫の手
普通の招き猫の手招きする手は、手のひらを下にするように、指先を曲げてこちらに爪を見せています。しかし、ドルキャットは、手のひらを上に向けるようにして指を曲げ、こちらに手の甲を見せています。この違いは、人を手招きするときの日米のジェスチャの違いに他なりません。
STARFIELDさんの知人がイギリス滞在中、手招きのジェスチャで苦い経験をされたそうです。
娘の友達の誕生会で、ファンシーパーティというのがありました。皆、思い 思いの仮装で参加します。女の子ばかりの友達の中に、その友達の弟がスーパーマンの格好で参加していました。カメラを構えているところにその子が寄って来たので、つい(^^;;;;;日本式おいでおいでをしたら、その子がみるみるうちに目に涙を溜めてしまって....すぐに自分の失敗に気づいて説明したのですが、その男の子は泣いてしまって....(--;;;;。
イギリスでは日本の手招きジェスチャは全く逆の意味を持つことが解ります。他にも、その方のイギリスのご友人の体験もレポートして下さっています。
彼が始めて日本へ行った時のことです。成田空港に着くと、彼の名前を書いた札を持って立っている人がいました。ほっとして近付いていくと、相手も、写真で見知っていた自分の顔に気づいて(彼の顔と体型には特徴があり、写真だけでもまず絶対にわかるのです。(^^;)、日本式動作をしたのです。彼は、「今、着いたばかりなのに、なんてことだ!」とびっくりして、怒り、くるりと向きを変えたところ、相手がびっくりして追いかけてきたとか....。
この話は半分ジョークが混じっているかも知れないということですが、迂闊に手招きできませんね。
他の国ではどうなのでしょうか? 国際親善のために知っておいても損はないでしょう。
| 手のひらを下 | 手のひらを上 | ||
| 日本 | 招く | 追い払う | |
| 中国南部 | 招く | ||
| 中国漢族 | 招く | 追い払う | |
| 中国朝鮮族 | 招く | 追い払う | |
| 香港 | 遠くの人を招く | 近くの人を招く | |
| フィリピン | 招く | 招く | |
| インドネシア | 招く | ||
| インド | 招く | ||
| インド | 招く | 目下を招く | |
| モンゴル | (指だけで)招く | ||
| サウジアラビア | 待て | ||
| トルコ | 招く | ||
| キプロス | サヨナラ | 招く | |
| イギリス | 追い払う | ||
| フランス | 目下の人を招く | ||
| スペイン | 招く | ||
| ギリシャ | 招く(失礼) | ||
| ニュージーランド | サヨナラ | 招く | |
| オーストラリア | サヨナラ | 招く | |
| ペルー | 招く | ||
| コロンビア | サヨナラ | 招く |
| 手のひら | 上 | 下 | 手のひら | 上 | 下 | |
| スコットランド | 21 | 2 | 南スペイン | 11 | 18 | |
| ウェールズ | 27 | 0 | カナリー諸島 | 10 | 14 | |
| イングランド | 18 | 0 | ポルトガル | 16 | 14 | |
| 北アイルランド | 26 | 0 | チューリン | 5 | 25 | |
| エール | 26 | 0 | フローレンス | 10 | 20 | |
| ノルウェー | 29 | 0 | ローマ | 5 | 24 | |
| スウェーデン | 28 | 0 | ナポリ | 2 | 28 | |
| デンマーク | 29 | 0 | タランド | 2 | 28 | |
| オランダ | 25 | 0 | レジオ | 0 | 29 | |
| 北ドイツ | 30 | 0 | 東シシリー | 3 | 26 | |
| 南ドイツ | 30 | 0 | 西シシリー | 3 | 26 | |
| オーストリア | 27 | 3 | 北サルジニア | 1 | 29 | |
| 北ベルギー | 26 | 0 | 南サルジニア | 4 | 26 | |
| 南ベルギー | 28 | 0 | マルタ | 12 | 18 | |
| 北フランス | 30 | 0 | チュニジア | 8 | 22 | |
| 西フランス | 28 | 1 | ユーゴスラビア | 23 | 5 | |
| 中央フランス | 29 | 0 | コルフ | 10 | 20 | |
| 南フランス | 29 | 0 | 北ギリシア | 15 | 15 | |
| 北スペイン | 9 | 18 | 南ギリシア | 5 | 25 | |
| 中央スペイン | 3 | 26 | トルコ | 10 | 18 |
以上のSTARFIELDさんとモリス氏の二つの調査結果、を元に分布図を作製してみました。日本式の手のひらを下にして手招くジェスチャが多い国をアカ、逆に手のひらを上にして手招くジェスチャが多い国をアオ、どちらも同程度に見られる国をムラサキで塗っています。

この分布図を見ても解るとおり、日本式の手のひらを下にする手招きジェスチャは、中央アジアから極東アジアまで帯のようにひろがっています。逆の手のひらが上向きのジェスチャは、欧州を中心として広がっていますが、地中海に面した地域、つまり中央アジアに隣り合う地域はアジアと同じ日本式になっています。また、どちらのジェスチャも存在する地域もあり、特にアジアの香港、フィリピンが植民地的支配を受けていたことが面白いと思います。アジアでありながら西欧の支配を受けていたというのが、両方のジェスチャを使う遠因になっているのでしょうか?
モリス氏は手招きジェスチャの他に、投げキスや牛のつのなど20種類のジェスチャについて調査されています。調査から明らかになったことを簡単に紹介しますと、
このジェスチャに関する特徴は、手招きジェスチャにもそのまま当てはまるようです。手招きのジェスチャには複数の意味があり、地域によっては重複している場合があります。国境や言語の壁を越えて広がっていますが、植民地的分布も見られます。またアジアとその他の地域という棲み分けも存在しているようです。
STARFIELDさんは一連の手招きジェスチャの調査を下記のようにまとめられています。
少なくとも英語話者から「その手招きのジェスチャーはおかしい」と言われても、今後はこの辺りの蘊蓄を披露し、さらには「招き猫」の存在を紹介するきっかけには出来るのではないか(笑)と思います。
また一口に物事を「西洋流」対「日本流」で対比したり、くくってしまおうとする私達の(m(__)m失礼)傾向をいましめる材料にはなったかと思います。
STARFIELDさんのいわれるとおり、西洋対日本と単純にくくることはできませんが、広くアジアとその他の地域で、異なる傾向があることは無視できません。こうした傾向の背景には違いを生み出す要因となるものがあるはずです。モリス氏は著書の中で「『ジェスチャーの境界』の問題は、国や言葉といった概念以外のもので説明されなければならない」と述べていますが、国や言葉の問題でなければ、いったいどのような概念で説明できるのでしょうか?
精力的に手招きジェスチャの調査をされたSTARFIELDさんは、ある本を読まれたのをきっかけにひとつの仮説を立てられました。手招きジェスチャの違いが生じた要因について、要領よくまとめられたメールを頂きましたので、そのまま紹介させていただきます。
大築立志氏(奈良女子大助教授、運動生理学)の『手の日本人、足の西洋人』を読了しました。
――中略――
著者は日本の文化を「手(重視)の文化」、西洋の文化を「足(重視)の文化」であるととらえ、それは日本人にとっての足は「大地を踏みしめるものであり、支えとなるもの」であって、様々な表現は「手」にまかせた。逆に西洋人は「移動の文化」を伝統とする故に、「足」による表現を好んだのだった。そしてその原因は、食糧確保のためには足は踏ん張るだけのものであり専ら手に頼った農耕・漁労民族の伝統と、食料/獲物を追うために専ら足に頼り手は軽視した遊牧・狩猟民族の伝統や発想の違いだと論じています。
以下は私の想像ですが、上記の理論をふまえると、「手招き」のジェスチャーにおいて「手のひら上げ」と「手のひら下げ」の2種類があり(他にも「ノー」の仕草に顕著な違いがあった)、その境界がイタリア半島の南北、ギリシアの南北でひけそうだという点と重なり合わないでしょうか。なぜ「手のひら上げ」なのかという、直接的な答えにはならないのですが、西洋人(といっても比較の対象にしているのは殆どはゲルマン民族)の文化的伝統が浸透した地域と、そのゲルマンの影響が及ばなかった部分(南イタリア・南ギリシア・イベリア半島・地中海以南/以東)の対比です。また東アジアでの、モンゴルと中国・朝鮮・日本・東南アジア諸国との差も、遊牧民対農耕民族で分けることが出来そうです。データの乏しいところで、あまりに2分する事にこだわるのは正しい態度とは言えませんが、そこはまあ物草さんが宣言していらっしゃるように、我々素人が趣味でやっていることですから、多少の飛躍や予断があってもよいのではないでしょうか。
そこでさらなるこじつけですが、上記大築氏はまた、我々農耕民族の動き・仕草は、鋤や鍬ををふるうからでしょうか、上下動になりがちである。それに対し遊牧民は馬上から鞭や棒をふるったり、つついたりする動きが主になるとされています。(単純に考えても、馬上から猟犬を呼ぶとき、或いは人にこちらへ来いと手を差し出すときは、手のひらが上になるのが自然でしょう)この辺りの民族的な無意識のうちにしみついた仕草(しかし、食糧確保に関わる生存の根幹)が、「手のひら下げ手招き」と「手のひら上げ手招き」の差違になっているとは言えないでしょうか。
STARFIELDさんの手招きジェスチャの違いは遊牧民族と農耕民族の違いであるという仮説はなかなか興味深いものです。
STARFIELDさんのメールを読み、私もひとつの仮説が思い浮かびました。
農耕作業時には人が近くにおり、農耕民族のは近くの人を呼ぶ場合には声をかければよく、特にジェスチャの必要はありません。遠くの人を呼ぶ場合にはジェスチャがあった方がよいでしょう。逆に遊牧時には人は遠くにしかいませんので、遊牧民族の場合には、大声を出しジェスチャをまじえる方が意志がはっきりと伝わるでしょう。
人を呼ぶのに必ずしもジェスチャを必要としなかった人達。人を呼ぶのにジェスチャを必要とした人達。こうした違いが、手招きする場合の手のひらの向きの違いを生み出したのではないでしょうか? これはあくまで思いつきですので、怪しげなものですが……。
手招きのジェスチャについての考察は、とりあえずこれで終わります。手招きジェスチャの手のひらの向きには2種類あり、その分布にはアジア周辺とその他の地域という棲み分けがありました。そして、その分布は農耕民族と遊牧民族の違いに遠因があるのではないかと想像できます。
手招きジェスチャについてはまだまだ調査研究の余地がありますが、折を見てまた紹介させていただきたいと思います。
最後に、精力的に手招きジェスチャの調査・研究をされたSTARFIELDさんに、重ねて御礼申し上げます。STARFIELDさんのお力なくして〔招き猫の手〕は生まれませんでした。なんだか他人のふんどしで相撲を取らせていただいたようで、心苦しく思っております。
また、直接的な接点はありませんでしたが、STARFIELDさんの聞き取り調査にご協力いただきました皆様にも感謝申し上げます。