マイブラの奇跡

 音楽の中には、もちろん計算された知的作業の成果でありながら、「神の手」や「霊感」が入ったとしか思えないような、奇跡的出来映えの曲がある。超メジャーなミュージシャンでもあり得るし、いわゆる一発屋の場合もある。人によって違うと思うが、個人的には、前に書いた"God only knows"もそうだと思うし、何度聞いても飽きないニュー・オーダーの"Bizarre love triangle"なんかもそうだと思う。ドアーズに至っては何曲もあるような気がするからすごい。異色の代物では「ラジオスターの悲劇」も仲間に入れたい。

 で、マイ・ブラディ・バレンタイン、通称マイブラの"Soon"である。ぼくはこの時期インディーズの洋楽に凝っていたが、この曲を初めて聞いた時、これは奇跡だ、としか言えなかった。永遠に聞いていたいと思えるくらい気持ちいい。ぼくが10回以上続けて聞いたのは、後にも先にもこの曲しかない。万が一割ったりして入手不可能になるのを恐れ、同じのをもう1枚買ったのも、この曲だけだ。(これは余計な心配だった。どうやらスタンダードになったみたいで、あのシングルは次々再プレスされているようだ。)

 手持ちカメラでの隠し撮りライブ・ビデオを見たことがある。ライブであることを差し引いても、当の本人たちですらあの曲の演奏はひどかった。第一、あれをライブでやろうとするのが間違っていると思うが・・・。

 ところで、アルバム"Loveless"もうっとりだが、"Loveless"の中では"Soon"は浮いている。入れないわけにいかなかったのだろうが、ミスマッチである。

 さて、アルバムを通して「奇跡」と言えるものはあるだろうか。ぼくにはやはり、ヴェルヴェットのバナナ・アルバムしか考えられない。

TOP10

 音楽好きの人のホームページは、たいてい自分のベスト・チョイスみたいなのを載せてる人が多い。ぼくもやりたくなった。基準は、アルバムであること、ベストやライブおよび編集盤は除く。問題はジャンルだ。ぼくはブラック・ミュージックも好きだし、ハウスも聞く。今の時代にロックに限ったところで意味があるとも思えない。

 と思ったけど、だからこそロックらしいロックでベスト・チョイスをやってみたくなった。

Velvet Underground & Nico "Velvet Underground & Nico"
The Band "Music from Big Pink"
Prefab Sprout "Jordan : The Comeback"
Peter Gabriel "So"
Pixies "Doolittle"
Specials "Specials"
Scritti Politti "Provision"
Roxy Music "Avalon"
Elvis Costello "Get Happy"
Crosby Stills Nash & Young "Deja Vu"
Tears for Fears "Songs form the Big Chair"
Led Zeppelin "Physical Grafitti"
Gentle Giant "Octopus"
Beach Boys "Pet Sounds"
Style Council "Our Favorite Shop"
My Bloody Valentine "Loveless"
Daryl Hall & John Oates "Voices"
Doors "The Doors"

 ヴェルヴェット以外は順不同だろうか。自分で決めた基準のせいで、フーとかスモール・フェイセズが入れられない。ポリスプリテンダーズもどうしても入れたかったが、1枚だけというわけにはいかない。ストーンズやザッパも然り。ちなみに、ぼくはビートルズには別段興味も思い入れもない。

 それにしても、TOP10と書いたくせに全然10に収まってないな(笑)。

ノスタルジー

 固有名詞のノスタルジーである。つまり、ケーブル・テレビの名称のひとつだ。その名の通り、だいぶ、から、ちょっと、までの古いポピュラー・ミュージックをやっている。数々のビデオ・クリップが4時間くらいでひとまわりするようになっていて、全部違うのを流すわけではないのだが、よくもまあこんなのが残っていたなあ、というのがけっこうあって楽しめる。ソニーとシェールドノバンが見れた日には、涙が出てくる。夜は、クリップの合間にライブをやったり、往年の英国人気番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」のある週の分を丸ごと放送したりする。これがまた泣かせる。今では誰も知らないような三流が堂々の1位を取っていたりする。ファッションを見ると恥ずかしくなってくるのもご愛敬である。

 5分の1くらいフランス人のアーチストが入ってくるので、違和感があっておもしろい。イーグルスのアコースティック・ホテル・カリフォルニアのあとに、リオのお肌まる出しロリータ・ライブ(Je casse tout ...)が出てきたりする。そのあとがマイルス・デイヴィスだったりする。ある時は、AC/DCのあとに、ド渋のアラン・スーションが出てくる。こうなるともうめちゃくちゃである。

 いったい、どういう音楽のファンがこのチャンネルを見続けているのだろうと不思議だが、そういいながら見てしまう自分がいる。

スミスがいない

 ここまであれこれと書いてきたが、ぼくのmost favoriteであるスミスがどこにも出てきてないのに気づいた。

 原因ははっきりしている。テレビの話をした時に出てきたように、60年代、70年代のポップスやロック、ソウルはスタンダードなっててフランスでけっこう耳にする。90年代に登場したバンドや、80年代から今に至るまで現役のキュアシンプリー・レッドスージー&ザ・バンシーズなどもよくライブを放送する。ところが、80年代の音楽がすっぽりと抜け落ちているのである。カーズエコバニ(現役といえば現役だが)が放送された記憶はないし・・・。だから、1年半こちらに住んでいる間に、80年代がぼくの頭から消えてしまったのだ。というわけで、スミスがフランスでどう思われているのかさっぱりわからない。80年代の現役時代のこともわからないし、現在の評価も不明である。そうは言っても、モリッシーもジョニー・マーもいかにもフランスで受けそうなタイプなので、リアルタイムでは人気があったと思う。

 スミスについては、"The Queen is dead" をTOP10に入れるべきだったかと思う。でも、一番好きなのがライブ盤なので、難しかったかもしれない。曲で言うと 'The boy with the thorn in his side' が一番好きだ。スミスの曲は、スタジオ録音ではデリケートな曲なのにライブでは意外と骨太だったりして、イメージが変わったりするが、この曲はどちらで聞いてもリリカルだ。

Paul Weller

 どの時代のポール・ウェラーが一番好きか。これは難しい。もちろん、そんなこと決める必要もないのだが、スタイル・カウンシルから入った人は、ジャムを知らなかったりするし、ジャムのファンはスタカンを無視したりする。最近のファンはオアシスは知っててもスタカンを知らなかったりするから、驚きである。モッズの曲が好きなぼくだが、ポール・ウェラーはやっぱりスタカンの頃が一番輝いていたように思う。年齢的にも一番油の乗る頃だったわけだし。今はちょっと渋すぎる。ぼくなりのひとつの基準があって、ぼく自身の年齢にもよるのかも知れないが、例えばジャムやスタカンの曲は、自分でも演奏してみたい、歌いたいと思わせるものがあるのに対し、現在のは聞くだけで満足できてしまう。全く同じことがルー・リードについても感じられる。これが円熟というものだろうか。

 ソロになってからのベスト盤が出たタイミングで、ポール・ウェラーがパリへやってきた。Cigale という有名なライブハウス、というか、千人以上入る立派なホールだが、ここでのコンサートに行ってきた。ステージが大変狭いせいもあり、久々に見たロックらしいコンサートだった。スタカンの頃のフェイザーが効いた歯切れのいいカッティングは全くなくて、ガシガシ弾きまくり、相変わらずよく跳ねる男である。彼にすれば技術的には楽な曲ばかりなので、リラックスして楽しんでいる様子であった。往年のモッズ・ルックはもちろんもうしていない。

 今回のツアーでは、パリはもちろんフランスでもたった1回だけということで、客の方もだいぶ気合いの入ったのが来ていた。体格の良いスキンヘッドがずっと跳ねてる姿は、けっこうかわいい。バラードすら一曲もないので、最後までみんな跳ねっぱなしであった。

 ぼくも何となく興が乗って、Tシャツを買った。当分着れないけど。

カナダ

 フランスにいると、事件に事欠かないアルジェリアを始めとして、チュニジア、セネガル、ニュー・カレドニア、そしてもちろんヴェトナムといった、過去フランスと関わりの深かった地域のニュースが非常によく取り上げられる。だが、カナダについては、ぼくが思っていたよりずっと少ない気がする。知っている人は多いと思うが、カナダにはケベックというフランス語を話す地域があって、フランス語も立派な公用語である。

 聞いた話では、嘘か本当か知らないが、十年百年と経つうちにケベックで話されるフランス語は本国とかけ離れてしまったので、ケベックで制作されたフランス語の映画やテレビ番組がフランスで流されるときは、字幕が出ることもあるということだ。

 ところでカナダの人はケベックじゃなくてもフランス語を解するのだろうか。カナダのミュージシャンというと思い浮かぶのは、ニール・ヤングとかザ・バンドの連中とか、およそフランス語が似合いそうもない顔ぶれなのだが。ニール・ヤングがフランス語を?(笑)

 今、カナダ出身でフランス語で歌う、と言えば、セリーヌ・ディオンにとどめを刺す。フランス音楽史上最も売れたCDは、彼女のフランス語のアルバムだった。春にスタッド・ド・フランスで2日間コンサートがある。ぼくは中程度の席を入手したが、それでも500フラン以上した。1万円を越えるということだ。一番いい席は800フラン台であった。

Beautiful South

 ビューティフル・サウスというのは、ロック・バンドの名前である。全盛期は5、6年前だと思う。その名の通り、暖かく耳あたりのよいポップ・ロックをやる。ロック・バンドには珍しくボーカルが3人もいて(男2女1)、ホーンやパーカッションも入るので、いろんな曲に柔軟に対応できる。

 ぼくは前身に当たるハウスマーティンズというバンドも大好きである。こちらは今よりもギター色が強かった。どちらも特徴は、何かどこかで聞いたことのあるような曲が多くて、それはまさにいい意味でのエヴァーグリーンなポップに対するオマージュなのである。ツボを押さえたサビが必ずコーラスになるところが心地よい。

 昨日、そのビューティフル・サウスのコンサートがパリであった。ポール・ウェラーと同じCigaleで予定されていたのだが、急遽Bataclanに変更になった。ここもほとんど同じ作りの、有名なライブハウスである。ポール・ウェラーもそうだったが、今回も、ヨーロッパ・ツアー唯一のフランス公演である。ドイツやオランダはけっこう何ヶ所も回るのだが・・・。フランスでも英米のロックが人気が出てきたと言っても、やっぱりこの程度だろうか。観客は全部で500人くらい、2階席を使わないので(ということは全員立ち見)、ほぼ満員であった。これまた例によって、密室なのにみんながタバコを吸うため、会場は曇っている。

 このバンド、女性ボーカルが4年ほど前に変わったのだ。それも、かなり違うタイプに変わったので、興味があった。ぼくの知っている曲は全部前任の時代だからである。かつてはアイルランド人で高く澄んだ声だったが、現在のジャッキーはもっとドスの聞いた声。大柄で、妙なファッション(ズボンの上にスカートをはく)で登場した。リード・ボーカルのポールは小柄で小太り、コミカルなバカ・ダンスをしばしば見せる。

 曲自体はやはり、ノスタルジックでいいねえ。キャリアが長い割には、観客の年齢層は若かった。オアシスの例を見てもわかるように、今ポップ・ロックが全盛なのである。ただ、ロックのPA(音響装置)でやると、ちょっとコーラスはきつい。つまり、ロックのコンサートは音がでかいため当然のように音が割れるので、コーラスがきれいに聞こえるということはないのである。これはやむを得ない。

 それにしても、ボーカルが皆マイクの前に譜面台を立てて、歌詞や段取りを見ながら歌うのだが、こんなのは初めて見た。ジャッキーは、ポールが今どこをやっているのか、曲の途中に堂々と確認に行くのだ。「今、どこ?」という感じで、何度も(笑)。なんだかおもしろかった。それから彼女は暑がりらしく、顔の横に扇風機を置いてずっと風に当たりながら歌っていた。運動量の多いドラムスでは時々見かけるが、フロントの人が、というのは・・・これもユニーク(笑)。