音楽の日

 フランスでは毎年6月の日曜日に「音楽の日」というのがある。何年か前に、人気政治家のラング文化相(当時)が提唱したんじゃなかったかと思う。間違いかもしれない。パリはもちろん地方でも、新聞などに載るだけでも数百の催しがある。カーニバルみたいなものだ。今年は6月21日だった。前日に情報を仕入れて、1日の移動スケジュールをしっかり作っておいた。

 最初に行ったバスチーユでは、一番目立つところにレゲエの人たちがいた。かなりうまく、数百人が取り囲んでいる。レゲエの人たちは被写体に格好なので、カメラやビデオに撮ってる人も一杯いる。

 (まだこれからなのに、妻が靴ずれを起こして足を引きずっている。夫が楽しみにしていたこの日なのに、文字通り足を引っ張って、間の悪いやつだ。構わず連れ回すことにした。)

 近くのヴォージュ広場では、ユダヤ音楽が聞けるはずだった。ところがどこにもいない。そうは言ってもパリ有数の広場、あちこちでなんかやっている。まずはノルマンディーの音楽。いい年の爺さま達だ。観客の中から、田舎の出身らしい奥さん達が浮かれて出てきて踊り出す。小学生相手に公開レッスンをしているバイオリンの先生もいた。あと、素人のアカペラ合唱やら四重奏やら、歌詞を配って「シャンソンを歌う会」やら。

 徒歩5分のサン・ポールにはスコティッシュ・パブがあった。今年はスコットランドがワールド・カップに出ていることもあり、昼間から盛り上がっていた。ここで聞けたのはもちろんバグパイプである。

 次にテュイルリー公園へ行った。ここではトルコ風の楽団が地べたにすわって珍妙な音楽をやっている。こういうのは大変人気があるので、噴水の方から椅子を持った人が集まってきた。ところがPAに問題があるのか、メンバーが足りないのか、すぐやめてしまって、つなぎにバイオリン2人でバッハをやりだしたのだ。エスニック音楽は上手だったのだが、このバッハは中学生の習い事レベル。あっと言う間に人はいなくなった。シビアである。遠くからはアフリカの太鼓の練習も聞こえる。

 テュイルリーへ行ったのは、アンティルのスティール・ドラムを見るためだった。これも人だかりで、音は景気よく聞こえるが姿は全然見えない。ちらりと見える姿はどうやらアンティルの現地人ではなく、フランスの某企業の人たちらしい。巨大なかぶりモノをして踊っている。金もかかっている。要するにこの某企業(DANONというヨーグルトの会社)の宣伝だった。

 日が暮れてからサン・ジェルマンへ。若者の街である。ここはもう、素人バンドだらけ。5メートル行くごとに違うバンドが違う音楽をやっていて、音が混ざり合って聞き取れない。夜になると、ダンス・ミュージックやジャズになる。ろくに合わせて練習してないな、というのがまるわかりのビッグバンド、飛び入りのお父さんもいるようだ。奥さんと娘が、みっともないから早く帰ろう、と促している。一方、フランスはロックが遅れているので、コピー・バンドもひどい。U2をやってるのはまだいい方で、今時ビートルズやクリームなのである。日本では70年代に高校生がやっていたレベル。

 本当はアラブの音楽にも行きたかったが、時間が合わなかった。残念。ちなみにうちの前の白鳥の小径では、夜通しハイパー・テクノをやるらしい。結局、建物の中で金を払って聴くコンサートにはひとつも行かなかった。1日遊んで無料。けっこうな祭りである。

 パリの音楽の日は普通に終わった。普通に、というのは、実はこの音楽の日、あらゆる人種、あらゆる年代が興奮状態になるので、移民や失業の問題を抱えるこの国では時々暴動のようになってしまうらしい。今年はサッカーでいろんなのが来ているせいもあって、なおさら心配されてたのだ。現に南仏のある街では、サッカーの試合後暴動があったため、音楽の日を延期したくらいである。

 音楽にはすばらしい面と危険な面と両方あるようだ。

ギリシア紀行

 真夏に生まれたぼくは海と太陽が何より好きである。立ちくらみするほどの太陽の光と海のかおりの中にいると、自然とご満悦なため息が出る。というわけで、海と太陽の国ギリシアへ行ってきた。アテネに5泊、エーゲ海のクルーズ船に4泊の旅である。ギリシアといえばブズーキだ。その男ゾルバである。テオドラキスである。クルーズ船というのは、昼間船内にずっと音楽が流れているのだが、当然ブズーキもやたらに登場して、いやでも気分が盛り上がってしまう。

 ブズーキの音楽の何がいいかというと、まず明快な三和音でメジャー・コードの曲が多いこと。ぼくの好みはいたって単純で、マイナー・コードのセンチメンタルな音楽が嫌いなのだ。単純すぎると言うか、ひたすらおめでたいと言うか。おめでたい、というのはしばしばぼくの人格についても言われることなので、持って生まれたものらしい。それから、撥弦楽器としてはじける音の魅力を最大限聞かせてくれること。ギターより金属的で跳ねがいいし、虫酸が走るようなビブラートの入る余地がない。

 みやげにCDを買おうかと思ったが、パリや日本で買った方が種類が多そうだ。代わりにカセットを買った。みやげもの屋でほこりをかぶっているような、チープな代物をわざと買ってきた。その方がらしいと思ったのだ。でもこれは、日本の義父へプレゼントすることになった。すごく気に入ると思う、という妻の意見である。あの端正な義父がブズーキを聞いて心ウキウキになるのは想像し難いが。

 本当は、ブズーキそのものが欲しかったんだけどね。

CDの値段

 フランスではCDが高い。日本の輸入盤で買う方がずっと安いし(なぜだろう?)、品揃えもはるかにいい。中古専門の店も少しあるけど、全然たいしたことない。

 全く腹が立つ。            以上。

初めてのCD

 さっき妻と、初めて買ったCDは何か、という話をした。こういう年齢であるから、「生まれて初めて買った曲」は何かということではない。われわれにとってはそれはレコードの時代のことだ。だから、それまでレコードだったのをCDに乗り換えた最初のものは何だったか、ということだ。

 ぼくの場合はその時すでに社会人だった(・・・)。スティングの2枚目のソロが出たというので、仕事帰りに「LP」を買いに行ったところ、LPだと2枚組で、CDなら1枚だと知った。これでもはや時代は変わったと悟り、週末にCDプレーヤーを購入し、スティングもCDで買った。要するに損得勘定で乗り換えたのだ。

 妻の場合は「ホテル・カリフォルニア」だそうだ。これは当たり前すぎてあまりおもしろくないな。

 ちなみに、生まれて初めて自分の金で、という方に話を戻すと、まあこの場合たいていはシングル盤ということになるが、ぼくはトワ・エ・モアの「地球は回るよ」で、妻は「××××(あまりに恥ずかしいという本人の希望により伏せ字)」だったそうだ。そうは言っても、今時トワ・エ・モアというのもかなり恥ずかしいけど・・・。

 トワ・エ・モアが他ならぬフランス語で、「君とぼく」であると知ったのは大学生になってからだ。

アイルランド紀行

 いやー、アイルランド音楽のことが書けるのはうれしい。何しろ10年来のファンだから。

 でも、今回は紀行ということで、夏の旅行に限った話である。日記にも書いたけど、この夏7日ほどアイルランドへ行った。ダブリンには泊まらずに大西洋側のゴールウェイにずっと滞在して、アラン島、コネマラ、モハーの断崖、バレン高原といった定番の観光地を訪れた。

 観光は現地バス・ツアーで行った。プロのガイド付き1日ツアーということだが、何のことはない、ガイドとは運転手のことであった。しかし、さすがはプロ、よくしゃべるのだ。特にバレンの時の運転手。ひたすらしゃべりまくり、合間は音楽を流す。道中はほとんど山と羊と牛しかないので、調子のいいアイルランド音楽が流れるとほとんどアメリカである。カントリー・ミュージックの先祖がアイルランド音楽であることが実感させられる。コネマラの方は天気が悪く、湖上に浮かぶ城なんぞは幽玄の世界で、これはこれで別タイプのアイルランド音楽が似合いそうだ。

 さて、われわれの目当てはBGMではない。地元のアイリッシュ・パブである。最後の2晩はあらかじめパブ巡りに当てていたが、まず1日目は有名な"King's Head"という所。革命の時に王の首を取ったアイルランド人が褒美にもらった店、と言われている場所である。ここに限らず、コンサートをやるパブというのは、間口は狭いのに中はものすごく広い。ディスコのようなものだがあれはビルなわけで、ところがパブは古くさい建物なのに中が広いのだ。飲み物はセルフ・サービスなので、自分から何も頼みに行かなければタダで座ってコンサートが聴けてしまう。それでは申し訳ないので、われわれは(もちろん)ギネスを頼んで、口のまわりを泡だらけにして開演を待った。

 今夜は残念ながらトラディショナルではない。正真正銘のブルース・ロック・バンドである。しかしなかなかうまかった。特にバック・ボーカルの女性の1人は、ジャニスなみの声を聞かせてくれた。このように、特にトラディショナルを謳ってない店では、アイルランドの田舎とはいえ何でもありなのだ。翌日はアバのパロディ・バンドも出演を予定していたくらいである。

 2日目はちゃんとトラディショナルを選んで聞きに行った。こちらは入るときにしっかり料金を取られた。バレンのガイドがバスの中で、「あさってゴールウェイで演るから、ぜひ行ってくれい!」と一押ししていたダブリン・シティ・ランブラーズという、ゴリゴリのおっさんバンド、ギター・バンジョー・ベース・フィドルという、実は今では否定されているオールドファッションでアメリカンなバンドである。

 前座の若者はさすがにピュアであった。アコーデオンとフィドルの2人だけでひたすら演奏し、時々3人のきれいなおねーちゃんがアイリッシュ・タップ・ダンスを披露する。われわれは目と鼻の先に座っていたので、よく見れた。顔はひたすらにこやかに、上半身は微動だにせず、ひたすら足で床を蹴飛ばすのだが、これがものすごい迫力なのだ。

 前座が終わったのはすでに夜10時を過ぎた頃。このあとおっさんたちが登場したのだが、あとの熱気は言葉では表現しにくい。客のじーさまもばーさまも、スキンヘッドのにーちゃんもミニスカのねーちゃんも、ここではみんな手をつないで笑顔で一緒に歌うのだ。もちろんわれわれもまわりのおっさんに手を握られて立たされて、歌わされた。なんとまあ純朴で心温まるみなさんだろう。これは平日の夜なのだが、毎日こうして楽しんでいるらしい。

 ホテルへ帰ったときは、もう2時であった。

ディズニー

 今、部屋には「死刑台のエレベーター」が流れている。マイルスのかっこいいトランペットのやつである。そこで映画の音楽のことを書くとする。

 で、突然ディズニーである。ディズニーの音楽のすばらしさを今さらぼくが言って何になると思うが、「星に願いを」の優しいメロディに刃向かえる人間はいないだろう。ぼくはこの曲がただ好きなだけではなく、アカペラで歌うのを得意としている(と自分では思いこんでいる)。とっておきの時だけだけど。

 何年も前、同僚の女性にディズニーのベスト盤をプレゼントしたことがある。選曲がよかったので、自分でも欲しくなったのだが、買いそびれていたところ、この女性がうちの奥さんになって、労せずしてぼくのコレクションに入った。これはうまい手だぞ。結婚相手になりそうな女性が現れたら、ひたすら自分の欲しい物をプレゼントしよう。いずれは自分の物になるし、相手は大喜びだし、一石二鳥というやつだ。だが、ぼくのものになったそのCDは、封が切ってなかった・・・。

 という話を妻にしたら、「そうだっけ。忘れた。はははのは。」だそうだ。

 何の話をしているのかわからなくなってきたので、もうやめよう。

 ちなみに、ミッキーという名前は、フランスではそのままフランス語読みして「ミケ」という。日本人から見るとおかしい。これではネコじゃないか。

1分勝負

 パリ名物のメトロのミュージシャンには、人をうならせる腕前の男はもはやいない。アイルランドとかに比べると、大変レベルが低い。むしろ腕達者なのはアフリカやカリブ系の連中で、大多数を占めるアコーディオンやフィドルの演奏は、ひどいものである。パリ情緒として楽しめばいいのかもしれないが、生活してる人間にとってはいささか迷惑である。ハンガリー舞曲第5番は、あんな不協和音でできた曲ではないはずなんだが・・・。

 駅の構内でやってる場合は、エコーがかかってよく響くので、何となく上手に聞こえる。問題は車両でやってる連中である。彼らは、だいたい1つの車両に2駅か3駅いすわる。パリの駅間はたいへん短いので、演奏後に歩き回って金を集める時間を考慮すると、ほとんど1分勝負である。その間に自分の持てる能力を発揮するわけだ。

 だが、悲しいかな、本当は1分待つまでもないのだ。最初の10秒で彼の能力はおおむねばれてしまう場合が多い。

 ところで、最近ある駅で、琴を演奏する日本人女性が現れた。かなり違和感があるのは否めないが、物珍しいので聞き入ってる人も多いと聞く。ぼくが通りかかったときは何と着物を着ていたが、普段はそうではないらしい。それにしても、大胆である。

ミニテル

 何で音楽のところにミニテルが出てくるかというと、ぼくはコンサートのチケットはほとんどミニテルで予約するからだ。そもそもミニテルとは何かというと、電話回線を使った文字情報の双方向通信である。インターネットが登場するまでは、ISDN先進国フランスが世界に誇るすぐれものとして有名だった。本来は電話番号を調べるためのものだが、今でも多くの企業は、ちょうどホームページを持つようにミニテルのページを持っているし、一般家庭にも端末がある。メールやオンライン・ゲームもある。Q2みたいのもある。これがかえってフランスでのインターネット、ひいてはパソコンの家庭への普及を妨げているとも言われている。

 で、インターネットでの決済はいまひとつ信用されていないのに比べ、ミニテルでの決済はたいへん普及している。前提として、フランスでは誰もがカルト・ブルーという銀行カード兼クレジット・カードを持っている、したがってカード番号を持っている、という事実があるわけだが、これによりコンサートの予約は何年も前から家庭の端末でできたのである。

 一番大手と思われる会社のメニューを覗くと、コンサートを含むいろいろな催しが項目に分かれている。いかにもフランスらしいと思われるのは、「ダンス+ディナー」とか「騎馬のスペクタクル」「サーカス」、音楽だと「宗教音楽」「ワールド・ミュージック」なんていうのが、ちゃんと分類として存在することだ。

 目当てのものが見つかったらカード番号や住所氏名を入力して、送信する。会場の見取り図や交通の便を見られる場合もある。おおむね3日で届く。書留を指定することもできる。もちろん、店頭へ取りに行くこともできる。

 あまりに簡単にできるので、ついつい予約しすぎることもある。ダブル・ブッキングや預金残高をよくよく考えることが必要である。