| 専門職の日本語:ぼくが住んでいる地域は日本人が多いので、近所の専門店も日本人に対応できるよう工夫している。例えば肉屋。誰かに書いてもらった日本語で、「薄切り作ります」とか「鳥の挽肉あります」とか貼り紙がある。もちろん、当の肉屋は日本語などできるはずがない。彼が知っている日本語は「すきやき」「しゃぶしゃぶ」「こんにちは」くらいである。「こんにちは」ですら、帰り際に言ってたそうだから、わかってないようだ。 それから、床屋。ぼくの担当の美容師は、知ってる日本語は簡単なあいさつと「かりあげ」だけである。ぼくは基本的に毎回同じ髪型なので、横と後ろを指して「かりあげ・コム・ダビチュッド(いつも通り)」だけで済んでしまう。だから彼も上達しない。少しは太郎を見習っていただきたい。 最後に、ブランドの店の売り子さんたち。これは腹が立つ。日本人だと思って、最後に必ず「メンゼイ?」ときくのだ。何で腹が立つかというと、住人は免税で買えないからだ。それを伝えると「マル・シャーンス(運が悪いですね)」と言う。その通りだ。宝の山の中にいるのに、山の外の人たちに安く持ってかれるのだ。 最後に、これは職ではないのだが、日本語を勉強している学生。こいつらはすごい。概して漢字マニア、漢字おたくが多いのだ。こないだ、漢字のレベルを競い合っているのを見て笑えた。再現すると、「憂鬱の憂が書ける?」「こうだろう。」「ここがちょっと違うな。こうだ。」「なるほど。」「でも、ぼくでも鬱は書けないな。あれはちょっと難しいよね。」 参考までに、彼らはこの会話を日本語でしていたのである。 |
| パリの物価:東京の物価がやたら高いので、それに比べればパリはまだましだろう、と考えるかも知れない。実は決してそうではない。東京と同じ生活レベルを保とうとすれば、おそらくパリの方が高いと思う。日本なら十把ひとからげの大量消費で安くなってるものが、こちらではそうなってないからである。大型家電とか家具はそれほどでもないが、日常品が高い。たとえば、いつも高いなあと思うものに、ティッシュ・ペーパーがある。それから、これは知られているが、乾電池やカセット・テープ、ビデオなど。ノートやボールペンだってけっこうするし、ライン・マーカーなど、とても日本でのようには消費できない。男の下着も高い。ダイエーが懐かしい。横にいる人の話だと女物も高いそうだ。それから、スポンジたわしも高い。洗濯ばさみも高い。だんだん腹が立ってきたぞ。 まあささいなものばかりだが、これとて積もれば山である。もちろん安い製品もあるが、何たってフランス、質は推して知るべしである。以前、大手スーパーで比較的安いティッシュ・ペーパーを買ったことがある。おなじみのサイズの箱入りで、どう見てもおなじみの製品である。ところが紙が交互に組んでないのだ。シュッと引いても次の紙の端が出てこない。こんなものが今どきあるとは思わなかった。 ちなみに、フランスの消費税は20%である。日本の5%なんてかわいいもんだ。 |
| ホテルの知識:秋になると、年末・年始にパリへやってくる日本の友人・同僚たちからホテルの手配などの注文が来る。日本で旅行会社を通すとこの時期は高いので、こちらで直接頼む方が得なのだ。出張とかに比べると、アポをとったり迎えに行ったりしなくていいので楽である。不思議なのは、みなさんパリにいる人間がパリのホテルに詳しいと思っていることだ。パリにいる人は、パリのホテルには泊まらないんだけど。むしろ何度も旅行で来ていろんなホテルに泊まったことのある人の方が、知識は豊富なはずである。もちろん、こちらのガイドの方が数は出ているが、泊まったことがなければ、日本で選ぶのと変わりはないのだ。せいぜい、門構えを見れるとか、あの界隈はどうだとか、その程度である。 でもまあ、電話で直接問い合わせると、いろいろわかる。応対の仕方もホテルによって違うし、この部屋は料金が高いがそれは庭に面しているからで、その分眺望は悪いとか、具体的に説明があると助かる。たまに、最初問い合わせた時と再度予約を入れる時とで、値段など言ってることが違うことがある。フランス人の場合別に悪気はなくて、単にいいかげんなだけだと思われるが、2回目の方がたいてい高いところを見ると、やっぱり悪気があるのかもしれない。 |
| 怒りの自販機:日本ほどではないが、メトロや鉄道の駅には必ず自販機があって、スナック菓子や飲み物を売っている。これが例によって出来が悪い。金を入れてもしばしば物が出てこない。金にはとりわけうるさいフランス人が、バンバンと体当たりやケリを入れている光景によく出くわす。中にはタダで落っこちてくるのを狙っている輩もいるのだが、そういうことが可能なほど単純な作りの自販機であるのに、ダメなのだ。おまけにこちらの自販機はガラス張りのが多く、落ちてくる、ないしは落ちるはずの物が引っかかっているのがよく見えるのだ。だから余計に腹が立つ。 以前、北駅のホームでスナックを買おうとしたら機械が壊れていたのだが、ふと見たら釣り銭の出口に10フラン落ちている。こりゃ儲けた、と思って、エスカレーターに乗ってホームを降り、下の自販機でその10フランを入れた。タダ食い〜、とか言って浮かれていたら、引っかかって出てこなかった。ドシン、バンバンも効果なかった。悪銭身に着かずとはよく言ったものだ。ぼくの幸せはエスカレーターに乗っている20秒間だけだった。 |
| 大家はイラン人:わが家の大家はイラン人である。去年住んでいたアパルトマンもそうだった。パリは景観のために特別な地域を除いて高さ制限があるのだが、このあたりは再開発地域で、30階以上の高い建物が許可された。そのためパリらしいアパルトマンはなく高層ビルが多いため、地元の人より外国人の方が多い。ところで、イランではホメイニ革命があった時、それ以前の王政で羽振りのよかった階層の人が、財産を守るため海外に預金を移したり、不動産を購入したりしたのだそうだ。フランスはその手の政治がらみのことには門戸が寛大なので、パリのこの新しい地域に多くのイラン人がアパルトマンを所有することになったのである。ちなみに前の大家はそのままテヘランにいるようだが、今の大家はアメリカへ亡命したらしい。マイアミに住んでいる。実はそもそもここの不動産屋がイラン人で、これらの物件を任されているようだ。彼自身もイランではそれなりの階層だったと聞いている。 |
| 変な時計:実にささいな話で恐縮だが、うちの時計のことである。大きさが手頃だったので、置き時計を買った。買ってから気づいたが、どこか変なのだ。どう変かというと、普通時計の短針は、1時ジャストにはちょうど1の所へ行くものだ。と思っていた。が、この時計は、1時間の半分、1時30分にちょうど1の所へ行くようにできているのだ。よく考えれば理にかなっていると言えなくもないのだが、字が大きいもんだから、よく1時間見間違う。今11時になる所だが、短針はまだ10のゼロのところにあって、ぼくには10時になるところに見える。フランスにはこういうのがけっこうあるらしい。滞日経験のあるフランス人に聞いたら、むしろ日本にそういうのがないことを驚いていた。「日本にありませんでしたっけ? へえ〜。」だそうだ。まさしく、所変われば、というやつだ。 |
| モブレの食器:モブレ(下を参照)というのは入居したその日から暮らせるようにできてるから、食器も備え付けだ。山小屋ならともかく客にもそれを使うわけで、日本人にはちょっと抵抗あるが、見たところきれいならまあレストランで出されるのと同じと考えられなくもない。大皿・小皿など全部で40枚くらい、グラス類が30くらい。あと、エスプレッソのカップやサラダボールもある。鍋やフライパンも揃っていた。フライパンは大小2つ。ふた付きの深い鍋がひとつ。とって付き鍋がサイズ違いで5つもある。妻に言わせると、この品揃えが実に絶妙なんだそうだ。もちろんフランス料理を作る上で、という意味だが。電気調理台は4つあり、全部直径が異なる。もちろん、オーブンの国だから、グラタン皿なんぞも揃っている。 |
| モブレの電化製品:「モブレ」とは「家具付き」のこと。アパルトマンを借りるとき、家具なしと家具付きがあるわけだ。通常ぼくのように2〜3年しかいない場合は、家具付きの方が便利である。家具には電化製品も含まれる。ちなみに現在のわが家には、冷蔵庫・洗濯機兼乾燥機・オーブン・食器洗い機・掃除機・テレビ・アイロン・スタンド4本・ライト4台が付いていた。電気調理器はシステム・キッチンに組み込まれている。問題は、代々使われたので取扱説明書がほとんど残ってないこと。フランス製品は日本のとは全然違うし、記号も随分ニュアンスが異なるんで、フランス語がわかっても理解できない。おまけにツマミが壊れてたりする。前の家ではオーブンのツマミが2つ取れていて、現在の設定が何度でどうなっているのか、結局1年間わからなかった。 |
| パソコン:フランスの物というのはパソコンに限らず概して出来が悪い。最初っからどこかおかしいし、すぐ壊れる。ぼくはパソコンという物は「機械」の最たるものだと思っていた。すなわち、機械であるから、融通はきかない。命令すれば、命令通りのことをする。命令通りのことしかしない。命令が間違えば結果も間違う。一見偶然のように見えても、実は原因がある。そう思っていた。フランスへ来てから認識が変わった。コンピュータというのは、考えてみれば半導体という自然の物体がたまたま持っていた性質を利用したに過ぎず、自然の物体である以上、動物や植物と同じように個体差があるのだと。それに、金を取って、時間をかけてそれを直してくれる(はずの)人間たちにも個体差があるのだと・・・。 |